品川女子学院×Evernote特別イベントリポート【後編】
女子高生にもっと起業家精神を――“品女”がクラウドを使う理由
28歳になったときに社会で活躍できる女性を育てる――。品川女子学院はその実現に向けてITを生かしている。生徒や学校に、ITはどのような影響を与えているのか。同校のイベントから探る。
前編「“品女”はなぜ『企業向けEvernote』を大規模導入したのか」では、中高一貫の女子校である品川女子学院が開催した、米Evernoteの情報整理ツール「Evernote Business」の導入発表イベントの内容を紹介。Evernote Businessや米Appleの小型タブレット「iPad mini」を導入した経緯と、実際の使用例を示した。
後編では、品川女子学院の情報科主任であり、家庭科と情報科を担当している酒井春名教諭の講演や、同校生徒からEvernote幹部への質疑応答の模様をお届けする。
クラウドは社会に羽ばたく女性を育てる“最強ツール”
酒井教諭は「Past < Future クラウドが起業家マインドを養う」と題して講演し、同校のこれまでの取り組みとこれからの方向性について説明した。
まず酒井教諭が紹介したのは、前編で紹介した同校の教育方針である「28Project」だ。“28歳になったときに社会で活躍できる女性を育成する”という28project。同校は、その実現に向けて「何をしていくべきか」を常に模索し続けているという。その1つが起業家マインドの育成であり、その具体策として同校が採用したのが「デザイン思考」である。
起業家マインドをはぐくむ「デザイン思考」
自分の課題を人任せにせず、自ら解決策をデザインする――。起業家に求められるこうした精神を養うことが、デザイン思考の骨子だ(図1)。
デザイン思考の取り組みを進めるために教員がなすべきこととして、酒井教諭は以下の3つを挙げる。
- 適切な課題を与えること
- 適切なヒントを与えること
- 生徒を制約から解放すること
生徒に何かを考えてもらう際、テーマが自由過ぎると生徒は迷ってしまう。とはいえ、適切な課題やヒントを与えることは非常に難しく、「生徒に毎日触れている教員でなければ、うまくいかないことが多い」と酒井教諭は指摘。ヒントは答えや正解への誘導ではなく、「あくまでも生徒の考えを解放し、より自由な発想へ導くものであることが必要だ」(同氏)という。
クラウドが生徒の“熱量”を加速
「この過程にクラウドが加わることで、最強の環境ができ上がる」。これが、酒井教諭が今回の講演で特に強調したキーワードだ。同校では28Projectに関連して、課題解決型学習である「チャレンジベースドラーニング」を進めており、そこでは生徒同士によるディスカッションを大切にしている。こうした取り組みを効果的に進めるツールとして、クラウドサービスは「極めて有効だ」(同氏)という。
チャレンジベースドラーニングは、生徒自身が「やりたい」「関心がある」と思ったことを学ぶので、生徒の意欲が非常に高い。その高い“熱量”を保ったまま生徒同士がディスカッションを進めるには、「クラウドのような便利なツールを使い、生徒を制約から解放することが、教員の非常に重要な役割になる」と酒井教諭は指摘した。
「正しいことは常に変わる」 デザイン思考を導入した理由
同校がデザイン思考を取り入れたのは、今回のイベントにも登壇したEvernoteの国内法人であるエバーノートの会長、外村 仁氏の考え方が影響を与えたという。外村氏は以前、同校で生徒や教員に向けて講演した実績がある。
「事前に準備された答え」や「これまで正しいとされてきたこと」を目指すのではなく、そこにたどり着くすべやプロセスが大切。今の世の中では、「正しいこと」は常に変わる。その時々で自ら課題を見つけ、答えを出して行く姿勢が重要になる――。外村氏のこうした考えに共感した酒井教諭が、その考えを学校で生かすために導入した考え方が、デザイン思考だったという。
ディスカッションの“レベルアップ”にITを生かす
これまでもオンラインストレージ同期サービス「Google Drive」など、クラウドサービスを利用した学びを実践してきた酒井教諭。Evernoteの無料の個人向けアカウントも利用し、共有ノート機能で生徒の意見や課題を共有してきた。今回新たにEvernote Businessを導入したことで、「ディスカッションの“レベルアップ”を図りたい」と意気込む。
酒井教諭はその具体例として、直近に開催した体育祭の振り返りにEvernote Businessを活用した事例を紹介した。
“学年対抗制”を取る同校の体育祭。2014年の体育祭では、同校高等部の生徒は結果に満足できずに「反省会をしたい」と学校側へ要望した。だが200人を越える高等部の全生徒が一箇所に集まるだけでも大変であり、さらに議論をするとなると極めて実現が難しかった。
そこで酒井教諭は、体育祭の振り返りのためのシート1個をEvernote Businessで共有し、生徒へ周知した。すると、「競技別」に分類して反省点を記載するように生徒自ら誘導したり、反省点だけでなく「競技のポイント」など今後につながる知識を残すといったルールを自然に決め始めたという。「生徒はただ知識を共有するだけでなく、蓄積していこうと自然に決めていったことに驚いた」と、酒井教諭は振り返る。
「自分の頭の中を一度通過した情報が、Evernote Businessの中に集約されていく。結果として、自分の考え方や関心のあるWebサイトなどが集まることになり、そこさえ見ればその人の考え方が分かるようになる」。酒井教諭は自らの活用事例を踏まえ、Evernote Businessの利点をこう指摘した。
知識の活用でEvernote Businessに期待
Evernote Businessは知識の活用にも役立つと、酒井教諭は評価している。蓄積した過去の知的活動を引き出し、再活用しやすいことに加え、酒井教諭はセレンディピティ(探しているものとは別の価値を見つける能力)の可能性にも言及する。「あるキーワードで検索すると、本人も予想しなかったものと結び付くことがある。それがときにアイデアにつながる」(同氏)
将来的には、「各自がEvernote Businessに蓄積した情報を共通のキーワードで検索し、複数視点からの情報を融合することで、新たなアイデアや解決策の創出に貢献するのではないか」(同氏)と期待を寄せる(図2)。
IT活用でリアルの価値も再発見
一方で酒井教諭は、生徒はEvernote Businessなどのこうしたクラウドサービスを活用するほど、「クラウドでできることがある一方で、リアルでなければできないこともあることにも気付く」と語る。生徒はこうした経験をすることで、「クラウドなどのデジタルでやるべきこと、リアルでやるべきことをはっきりと意識し、その2つを上手につなげることができるようになる」(同氏)。
「議論の加速」「集約した情報によるアイデアの醸成」「リアルとデジタルの差異の意識」といったことをクラウドサービスで実現し、生徒が課題に対してより良い解決策を考え出せるようにして、最終的には生徒の“起業家マインド”を醸成していきたい――。酒井教諭はそう考えているという。
Evernoteはどう作られる? “品女生”の疑問にEvernote幹部が答える
ディスカッションで重要な要素の1つとなるのは、生徒が自らの意見や疑問を率直かつ的確に相手に伝えることだ。イベントの最後には、品川女子学院の酒井教諭が司会となり、EvernoteのCEOであるフィル・リービン氏、エバーノートの外村氏、そしてEvernoteの女性副社長であり、同社のインターナショナルオペレーションを担当するリンダ・コズラウスキー氏の3人に対して、品川女子学院の生徒が質問をする質疑応答を開催した(写真1)。質疑応答の様子からは、あくまでも部分的ではあるものの、生徒の高い意思伝達力が垣間見えた。
質問1:Evernoteの女性副社長は、なぜ米国から香港へ渡った?
最初に質疑応答に望んだ生徒は、自己紹介で大学卒業後に米国から香港へ渡ったというエピソードを披露したコズラウスキー氏へ、「なぜ香港を選んだのか」と質問した(コズラウスキー氏の自己紹介はカコミ参照)。
コズラウスキー氏は、「香港はさまざまな文化や人種が混在し、1カ所で多彩なものに触れることができる。さらに他のアジアと密接な関係があり、便利な地域にあるので他の国にも行きやすい」と、香港へと渡った理由を説明した。
「“心地悪さ”がチャレンジを促す」 Evernote女性副社長
「高校時代はとてもシャイで、教室の片隅に佇んでいるような生徒だった」。質疑応答に先立つ自己紹介でコズラウスキー氏は、初っぱなから意外なエピソードを披露した。その高校時代を「“心地悪い”と感じていた」と語る同氏だが、そう感じるときは「何か新しいことにチャレンジしているときだった」という。
コズラウスキー氏はそうした“心地悪さ”を求めて、大学卒業後にインターナショナルな場所で働きたいと考えるようになったと明かした。前編で紹介したリービン氏のエピソードにも通じる考え方だといえる。
大学卒業後は希望通り世界展開する大企業に入社した同氏だったが、「“心地悪さ”が足りず」、次の職場に選んだのは異国の地である香港だった。そこで4年間働いた後に米国に戻り、次なる職場として選んだのがEvernoteだったという。
Evernoteで現職について以来、世界中を飛び回り、訪れた国と地域は57箇所を数えるという同氏。「毎日が“心地悪さ”の連続だ」と語る同氏は、「皆さんも、自身が“心地悪さ”を感じ続けることができるところに身を置いてほしい」と、品川女子学院の生徒に呼びかけた。
質問2:Evernoteはどうやって作られている?
2人目の生徒は、流ちょうな英語でリービン氏に「どうやってEvernoteを作っているのか」と質問した。これに対しリービン氏は、「Evernoteは、私ではなく皆さんが作っていると考えている」と回答。「私はCEOとして、むしろ優秀な従業員を採用することに注力している」と説明した。
この回答の直前にリービン氏は、前編で紹介した同校生徒からの改善案(「いいね!」ボタンの実装や、手書き文字をレイヤー化して表示/非表示できる機能など)に触れ、「先ほどのアイデアは、既にエンジニアにメールさせていただいた」と発言。会場を湧かせた。
質問3:「自分よりすごい人を採用」するリービン氏、具体的な採用基準は?
別の生徒は、「自分よりすごい人を採用している」というリービン氏の採用方針を引き合いに出し、「具体的にどういう基準で採用をしているのか」と質問した。
リービン氏は「最も重視しているのはコミュニケーション力であり、これはどんな業種やポジションでも重要。うまくコミュニケーションができなければ、周囲の生産性も落としてしまうからだ」と説明。その点で、プレゼンを重視する品川女子学院の教育方針は「とても良いと思う」と述べた。
一方でリービン氏は、「私よりもあらゆる面において賢い必要はなく、何かにおいて自分よりも突き抜けている人を採用しようと思っている」と語った。この話に付言する形で外村氏は、「日本人は『ダメだ』といわれていないことまで自己抑制してしまうことがよくあるが、やってみればいい。まずやってみれば、自分には縁遠いと思っていたことが、意外と身近だったことに気付くかもしれない」と語った。
質問4:「やりたくないこと」をやるストレス、どうすれば解消される?
次の生徒は、リービン氏の「やりたくないこと、気が進まないことをやることが新しい発見になる」という発言を引き合いに出し、「やりたくないことをやるのは、自分にとってはストレス。どうすればよいのか」と質問した。それに対してコズラウスキー氏は、「本当にやりたくないことなのか、やるのがまだ“怖い”と感じるだけなのかを見極めることが重要だ」と指摘。もし怖いと感じるだけなら、例えば「100人の友人からアドバイスをもらえばよい」と提言した。
リービン氏は「ストレスには『良いストレス』と『悪いストレス』がある。双方の区別はつきにくいが、それを見極めるのが重要だ」と述べた。「工夫すれば状況が変えられるときに感じるのが、良いストレス」と同氏は説明し、一例として生徒が試験のときに感じるストレスを挙げた。ストレスをバネに勉強をすれば、成績向上に役立つ。「問題解決に向けて努力すれば改善することが分かっている、そんな良いストレスに取り組むことが大切だ」(同氏)
続いて外村氏は、「“やりたくない”と思う前には“面倒くさい”という感覚があると思うが、これはストレスというほどのものではない。ちょっと考え方を変えればできる場合もあるからだ。普段話さない人に相談したり、いつもと違う集まりに参加してみるなど、視点を変えることで対処できる場合もある」と指摘。「同じ行動や思考のパターンを続けると、できることがだんだんと狭まってしまう。“面倒くさい”の先に何かがあると思って努力してほしい」とエールを送った。
講演には同時通訳が付いていたが、多くの生徒が通訳を待たずにジョークや呼掛けに反応しているなど、同校生徒の高い英語力を感じる場面が何度もあった。上述の通り、生徒の質問もポイントを突いたものばかりで、同校が目指している「社会で活躍できる女性」の素地は既にできているのではないか――。そんな印象を強く受けたイベントだった。
iPad miniとEvernote Businessを手にして学んで行く高校2年生の彼女たちが、これからどのような「社会で活躍する女性」に成長するのか。今から本当に楽しみだ。
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品川女子学院×Evernote特別イベントリポート
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