「紙の山」がなくなれば会社は変われる
au損保がEvernoteを「武器」にできた理由
2014年7月11、12日に日本科学未来館で開催された「Evernote Days 2014 Tokyo」の中から、au損害保険における「Evernote Business」の導入事例を紹介する。
あらゆる情報をクラウドに蓄積し、好きなときに取り出して活用するための情報整理ツール「Evernote」。クライアントPCだけでなくスマートフォン、タブレットなどからも使える“クラウドメモ帳”として、あるいはお気に入りWebページのクリッピングや画像の保管ツールとして活用している人もいるだろう。
今や世界で1億人のユーザーを擁するEvernote。これをベースに、ビジネスの現場で使いやすいように機能強化したのが「Evernote Business」だ。デジタルに強い若者のライフハックツールといったイメージもあるEvernoteだが、こちらの法人向けサービスも既に世界で1万2000社以上が導入。日本においても中堅・中小企業を中心に利用が広がっている。
おわびと訂正(2014年8月6日)
上記記載について誤りがありました。おわびするとともに、以下の通り訂正させていただきます。なお、本文は修正後の文に差し替え済みです。
(訂正前)
今や世界で5000万人のユーザーを擁するEvernote。これをベースに、ビジネスの現場で使いやすいように機能強化したのが「Evernote Business」だ。デジタルに強い若者のライフハックツールといったイメージもあるEvernoteだが、こちらの法人向けサービスも既に世界で1万4000社以上が導入。日本においても中堅・中小企業を中心に利用が広がっている。
(訂正後)
今や世界で1億人以上のユーザーを擁するEvernote。これをベースに、ビジネスの現場で使いやすいように機能強化したのが「Evernote Business」だ。デジタルに強い若者のライフハックツールといったイメージもあるEvernoteだが、こちらの法人向けサービスも既に世界で1万2000社以上が導入。日本においても中堅・中小企業を中心に利用が広がっている。
Evernoteが2014年7月に開催したイベント「Evernote Days 2014 Tokyo」では、金融業界におけるEvernote Business導入企業としてau損害保険が登壇。同社専務取締役の柳 保幸氏が導入の経緯や効果について語った。
きっかけは「紙嫌い」
au損保は2010年2月にあいおい損害保険(現あいおいニッセイ同和損保)とKDDIの合弁会社として設立された。社員数は約100人。最大手は1万数千人の社員を抱える企業もある損保業界においてはごく小規模な会社といえる。火災保険や自動車保険など、インフラ投資や販売コストの負担が重い商品は取り扱わず、旅行保険やペットの保険、自転車保険といった、より身近な商品に特化している。また、携帯電話事業者であるKDDIが出資する損害保険会社として同社の商品は、モバイル端末から手軽に申し込めて、完全ペーパーレスで利用できるのが特徴だ。
紙を使わないことが自社商品の売りである一方、業務革新のためにまず取り組んだのも「紙をなくす」ことだった。
「私は紙の資料が嫌いです。保険会社は書類の保管義務などもあるので、紙をゼロにすることはできませんが、情報共有の手段として紙は効率的ではない。今日も打ち合わせで分厚い提案書を受け取りましたが、カラーコピーで30枚もあった。それが人数分配布される。だから『次回からはEvernoteに入れて共有してください』と言いました。われわれはiPadで提案書を見るし、ミーティングで必要ならプロジェクターで映し出せばいい」(柳氏)
紙の資料は用紙・印刷コストもさることながら、印刷や配布、保管に伴う労力も無視できない。また、一度配布した資料はアップデートができず、さらに実際に読まれなかったり紛失 したりで、実質的に活用されないということもありがちだ。柳氏の紙嫌いの背景には、資料の準備に多くの時間を取られるよりも、より生産性の高い仕事に貴重なリソースを集中させたいという思いがあるようだ。
社員間を隔てる「目に見えない壁」を破るために
au損保では現在、営業活動の報告や顧客からのフィードバック、プロジェクトの進捗管理などをEvernote Businessに書き込み、全社で共有している 。この方法に至ったのは、同社が合併で生まれた会社であり、それも保険会社と通信会社という、全くカルチャーの異なる者同士の集まりということと無縁ではない。開業当時、同社ではあいおい損保出身者、KDDI出身者、プロパー社員の3者間に、目に見えない壁が存在したと柳氏は振り返る。
「壁を破るために最初にまず何をやったか。会議です。安直な考えですね。コミュニケーションをとって壁を取り除こうというわけですが、失敗しました。会議が先にあるということは、資料が必要になります。そのために相当時間もかかります。結果、紙の山ができただけで業務は停滞してしまった」(柳氏)
情報共有を円滑化し、コミュニケーションを活発化させるため、何らかの「武器」が必要だった。そこで2012年末、同社が導入したのがEvernote Businessだ。コミュニケーション強化に加え「個々の役割明確化とスキルアップ」「社内外のワークスペースの拡大」「諸課題の決定スピードの迅速化」という狙いもあった。
「個々の役割明確化とは要するに、自分の仕事を責任を持ってやるということです。Evernote Businessで共有した資料は皆が見ますから、出来の悪いものを作ることはできません。通信会社出身の人間は保険のことを知らないままではいられないし、保険会社出身の人間も通信のことを学ばなくてはいけない。お互いに学ぶことで結果的にスキルが上がるわけです」。柳氏はEvernote Businessの導入効果をこう語る。
ワークスペースの拡大も、社員数の少ない小さな会社として必要なことであった。大手と異なり支店網のない同社では、全国の顧客に対応するため、どうしても出張が多くなる。デスクワーク専業社員を抱えている余裕はない。
「新幹線に乗っている間、何もしないのではなくiPadでできる仕事をする。また、テレビ会議のときにもEvernote Businessで資料を共有できます」(柳氏)
火災保険や自動車保険を持たず新しい市場で勝負する同社にとっては、意思決定の迅速化も重要なことだ。
「売る商品をどんどん作っていく必要がありましたが、保険商品というのは金融庁の認可が必要で、認可が下りてからシステムを作らなくてはいけない。年に2つ商品を出すためにどうしてもスピードを上げていく必要があったのです」と柳氏は説明する。
個人→社内の一部→全社の流れでうまくいく
そもそもなぜEvernoteに白羽の矢が立ったのかといえば、柳氏自身がもともと個人版Evernoteのヘビーユーザーだったからに他ならない。プレミアム会員にも登録し、趣味の写真を保存するのに使っていたが、2012年4月に現職に着任し、とあるプロジェクトで資料を作るに当たり、周囲を巻き込んで共同作業をするために初めてEvernoteを業務で使った。それがうまくいったこともあり、2012年12月にEvernote Businessがリリースされると、これを早速採用したという。
「まず営業日報に取り入れました。皆に共有されるから一所懸命書きますし、コメントももらえる。社内2013年4月からは組織横断的に本格活用を始めました。自転車保険に関連し、モバイルアプリ『自転車の日』を開発して『MCPC award2014』の特別賞を受賞しています。このアプリの制作においては、社内での資料共有だけでなく社外とのコミュニケーションにもEvernote Businessを活用しました」(柳氏)
企業におけるITのコンシューマライゼーションは歓迎されないこともあるが、一方でエンタープライズ向けの情報系システムは、慣れるまでに苦労することが多く、導入・移行へのハードルが高くなりがちでもある。Evernote Businessでは個人用のEvernoteのアカウントをそのまま活用できる。なじみのあるUI/UXをそのままビジネス用途に生かせるのは、柳氏のみならず多くの従業員にとってもメリットであったことだろう。
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