Microsoft Azureスマート解説【最終回】
“作る”から“利用する”へ 管理者を多くの作業から解放する「Microsoft Azure」のサービス
「Microsoft Azure」のサービスの中から、ビッグデータ分析基盤「HDInsight」、モバイルバックエンドサービス構築基盤「モバイルサービス」、動画配信基盤「メディアサービス」、統合プッシュ通知サービス「通知ハブ」を紹介する。
前回の「インフラエンジニア不要論も? Microsoft Azureのインフラサービスを一挙紹介」に引き続き、「Microsoft Azure」のサービスを紹介する。今回はビッグデータ分析基盤「HDInsight」、モバイルバックエンドサービス構築基盤「モバイルサービス」、動画エンコードおよび配信基盤「メディアサービス」、統合プッシュ通知サービス「通知ハブ」の4サービスを紹介する。そして最後に本連載のまとめをする。
これまでの連載
- 第1回:Windows Azureを企業利用するための基礎知識
- 第2回:IaaSとの違いは? Microsoft AzureのWebサイト実行基盤を解説
- 第3回:使い勝手はどんな感じ? 「Microsoft Azure 仮想マシン」を解説
- 第4回:ITインフラの新常識“Immutable Infrastructure”の先駆け、Azure クラウドサービス
- 第5回:縁の下の力持ち「Microsoft Azureストレージ」の3つの機能を使い分ける
- 第6回:インフラエンジニア不要論も? Microsoft Azureのインフラサービスを一挙紹介
連載インデックス:Microsoft Azureスマート解説
HDInsight
HDInsightはビッグデータ分析を行うために使用するサービスである。ビッグデータ分析においては、どのようにデータを分析するのか(分析手法)を検討し、分析結果をビジネスシーンでどのように活用していくかを検討するプロセスを経るわけだが、分析手法の決定は大量のデータを相手に試行錯誤が必要であり、なかなか容易ではない。試行錯誤のためには、まずコンピューティングリソースが必要になる。しかし、大量のサーバを調達し、分析基盤を構築するためには、莫大なコストと時間が必要になる。莫大なコストを掛けたが、うまくビジネスに生かすことができず、分析基盤が無用の長物になってしまうことも考えられる。ビッグデータ分析はハードルが高いと感じる方も少なくないと思う。
HDInsightを利用すれば、典型的なビッグデータ分析のインフラ部分を数分で構築することができ、ユーザーはインフラ構築作業から解放される。他のサービスと同様、使いたいときに使いたいだけ使えて、利用した分だけ課金される(1時間単位)。例えば、34台のサーバ(4コア7Gバイトメモリ)で1時間分析を行った場合、1179円程度の課金と非常に安価である。もちろん、1カ月稼働し続けると約85万円、1年間で約1030万円掛かるため、他のサービスと比べれば比較的高価に見える。だが、分析処理を実行するときだけ動作させるような利用方法であれば稼働した時間分だけの利用なので、クラウドのメリットを十分に享受し、コストを大幅に削減することができるだろう。
HDInsightでは、“HDP for Windows”と呼ばれるHadoopディストリビューションが稼働するWindows Serverインスタンスが作成される。分析データおよび実行結果は各データノードのローカルではなく、性能において評価の高いAzure BLOBストレージに配置される。これにより、データノードを消しても分析データおよび実行結果は消えず、クラスタの作成/削除を行うたびにデータを移動する手間もなくなる。BLOBを媒体とすることで、他のサービスとの連係も容易になる。例えば、大量のデバイスから収集したデータをBLOBに格納してHDInsightで分析するといった、IoT(Internet of Things)ソリューションでのデザインが検討できるだろう。また、HDInsightで動作させるMapReduceプログラムを.NETで開発するためのSDKが提供されているため、.NETエンジニアも容易にビッグデータ分析の世界へ飛び込むことができるはずだ。
最近では、列指向分散データベースシステムである「HBase」が稼働するクラスタもHadoopと同様に容易に構築できるようになった。HDInsightはMicrosoft Azureのビッグデータ分析基盤として進化し続けている。
モバイルサービス
モバイルサービスはモバイルアプリのバックエンドサーバ(REST API)を構築するためのサービスである。モバイルサービスでは以下2種類のAPIを作成することができる。
- テーブルを操作するAPI
- カスタムAPI
モバイルサービスでは、データベーステーブルを作成すると同時にデータを操作するAPIが作成される。このAPIをREST通信で呼び出すことで、データの参照(GET)、登録(POST)、更新(PUT)、削除(DELETE)という基本的なCRUD操作を行うことができる。しかもテーブルのスキーマをあらかじめ定義する必要はなく、APIを通じて登録されたデータ構造に応じて自動で定義されるので、ドキュメント指向データベースのようなスキーマレスの気軽さで利用することができる。
もちろん、任意の処理を行うカスタムAPIも作成することができる。フレームワークはJavaScriptまたは.NETが対応している。JavaScriptを選択した場合、管理ポータルから直接コーディングをすることができるため、自身で開発環境を構築することなくREST APIを開発することができる。.NETを利用する場合は、Microsoft Visual Studioで専用のプロジェクトテンプレートが提供されており、始めから専用のフレームワークが組み込まれているため、少ないコーディングでREST APIを作成することができる。
また作成したREST APIへのアクセスについては、Windows、iOS、Android、JavaScript、Xamarin、PhoneGapでの利用方法およびソースコードが用意されていて、管理ポータルで確認することができる。利用者は、記載されている手順に従いソースコードをそのまま使用するだけでREST APIへアクセスすることができる。そのため、あまりプログラミング経験がないプラットフォームでも、容易にモバイルサービスを利用することができる。
モバイルサービスは、API呼び出し50万回まで、データベースサイズ20Mバイト(最初の12カ月間のみ)までなら無料で利用することができる。そのため、モックやプロトタイプの開発、ハッカソンなどのイベントでの一時利用などで有効活用することができる。
もちろん、大規模なモバイルバックエンドサービス基盤としても十分活用可能だ。他のサービスと同様に容易にスケールすることができ、API呼び出し回数に応じた自動スケールや、あらかじめ指定したスケジュールに応じた自動スケールができる。
認証機能としては、Facebook、Twitter、Google、MicrosoftアカウントやActive Directoryと認証連係するための機能が備わっている。自身で認証機能を実装することなく、セキュアなAPI呼び出しが実現できる。また、「Microsoft Azure 通知ハブ」との連係が可能で、モバイルサービス経由でWindows、Windows Phone、iOS、Android、Kindleデバイスに対してプッシュ通知することができる。
ユーザーはモバイルサービスを利用することで、モバイルバックエンドサービスのインフラ構築、フレームワーク/プログラム実装、認証などの機能実装の大部分をMicrosoftに任せることができ、それらの作業から解放される。
メディアサービス
メディアサービスは動画のエンコードおよび配信を行うためのサービスである。メディアサービスではアップロードした動画に対してさまざまな方式でエンコードすることができる。動画のアップロードは管理ポータルまたはプログラム経由で行うことが可能で、メディアサービス用のSDKが用意されているため、動画アップロードや各種操作を行うプログラムを容易に実装することができる。エンコード方式のプリセットは「PC/Macでの再生(Flash/Silverlightを使用)」「HTML5(IE/Chrome/Safari)を使用した再生」「iOSデバイスおよびPC/Macでの再生」など、その用途が分かりやすく用意されているため、動画のエンコードに疎い開発者でも、各プラットフォーム向けの動画をエンコードすることができる。
エンコードした動画はAzure BLOBストレージに格納されるため、そのまま外部へ配信することができる。またメディアサービスの動画配信機能を使えば、ストリーミング配信ができる。動画のエンコードとストリーミング配信は、メディアサービスのエンコード占有ユニットによって行われる。ユニットの数は任意に指定することができ、ユニット数が多ければ多いほどエンコード速度および配信速度は向上する(逆に課金額は増える)。もしエンコードおよび配信をする動画が多い場合は、ユニット数を多くすることでエンコードおよび配信を高速化することができる。
最近では、ライブストリーミング機能とセキュア配信機能が追加された。ライブストリーミング機能は、Ustreamのようにリアルタイム動画配信を行うための機能である。2014年冬季オリンピックではこの機能を用いて22カ国へ1日1億UV(ユニークビジター)規模の大規模ライブ配信が行われた。
セキュア配信サービスは、Microsoft PlayReadyを使ってコンテンツを保護するための機能である。PlayReadyとはMicrosoftによって開発されたデジタル著作権管理(DRM)システムである。PlayReadyを使用することで、コンテンツをライセンス保護した状態でストレージへ保管し、インターネットへ配信することができる。配信対象のユーザーを制限することができ、配信方式としてストリーミング配信だけでなく、ファイルダウンロードの方式を利用することもできる。もちろんファイルをダウンロードする場合でも、ユーザー認証およびライセンス保護は徹底されている。セキュア配信機能を用いることで、ライセンス認証が必要な動画配信基盤を容易に構築することができる。
メディアサービスではさまざまな型式でのエンコード、さまざまな用途での配信を行うことができる。小規模から大規模まで、動画配信基盤を構築する場合、ユーザーはメディアサービスを利用することで、インフラ構築からシステム開発まで、大部分の作業から解放される。
通知ハブ
通知ハブはモバイルアプリケーションに対してプッシュ通知を行うためのサービスである。通知ハブではWindows、Windows Phone、iOS、Android、Kindleデバイスに対して一括でプッシュ通知をブロードキャストすることができる。
本来、プッシュ通知を行う場合、プッシュ通知先のデバイスごとにプログラムを実装する必要がある。実装はデバイスごとに異なるため、マルチプラットフォームに対応するためには幅広い知識と時間が必要である。しかし通知ハブでは、それらの実装を行うことなくマルチプラットフォームに対してプッシュ通知を行うことが可能になる。また、プッシュ通知に必要な情報(認証キーや証明書)を一元管理することもできる。開発者は煩雑なプッシュ通知処理の実装作業から解放される。
通知ハブは他のサービスと同様にスケールすることができるため、数百万規模のデバイスに対してプッシュ通知を行う場合でも十分対応可能である。
Microsoft Azure を使うことで解放される多くの作業
これまで7回に分けてMicrosoft Azureが提供する各サービスの概要、活用方法について説明してきた。しかしMicrosoft Azureにはまだ紹介できていないサービスが数多く存在し、そして新たなサービスが日々追加されている。最近では機械学習基盤である「Azure Machine Learning」、ストリーミング処理基盤である「Event Hubs」、各サービスの操作権限を制御する「Role-Based Access Control」などが登場している。
Microsoft Azureで構築できるサーバは、Webアプリケーションサーバやデータベースサーバ、コンテンツ配信サーバなど、われわれが今まで自ら構築・保守・管理してきたものばかりである。つまり、われわれが今後構築するシステムはMicrosoft Azure上に構築することができる。これからはシステム開発のたびに必要だったサーバの調達、設置、OS/仮想化基盤/ミドルウェアのインストール、設定などの一連の作業を行う必要がない。われわれはこれらの作業から解放される。
そして、システム開発において開発時のことばかりが注目されがちだが、開発後の保守・運用の期間の方が圧倒的に長い。Microsoft Azureを用いることで、IaaS(仮想マシンなど)ではハードウェア/仮想化基盤レベル、PaaS(Webサイト、クラウドサービスなど)ではミドルウェアレベルまでMicrosoftにより管理されるため、システムの保守・運用の負担を大幅に低減することができる。われわれはハードウェアトラブルへの対応、度重なるOS/ミドルウェアへのパッチ適用などの作業から解放される。
解放される作業は、IaaSよりPaaSの方が多くなる。PaaSはインフラが固定化されているため、既存のシステムが移行しづらい、今までと開発・環境構築方法が異なるなどのデメリットがあり、IaaSと比べてハードルが高いという声が多い。しかし、IaaSよりも必要な環境構築作業および保守・運用作業は少なく、ユーザーはより多くの作業から解放される。そのメリットはデメリットをはるかに上回る。
Microsoft Azure(当時Windows Azure)のスタートはPaaSである現在のクラウドサービスとストレージからである。PaaSはMicrosoft Azureの魂である。ハードルは高いかもしれないが、PaaSを用いることでより多くの作業から解放され、開発者はサービス開発に集中できる。煩雑な作業はもうMicrosoftに任せよう。皆さんは好きな作業、得意な作業をすればよい。
クラウドのメリットを十分享受できるように、皆さまにはぜひMicrosoft AzureのPaaSを活用していっていただきたい。
日山雅之(ひやま まさゆき)
株式会社FIXER Enterprise Cloud Unit クラウドエンジニア
学生時代に地元のITベンチャー企業にてプログラミングのアルバイトを行い、そこでプログラミングの奥深さに魅了され、スーパープログラマを目指す。大学院を卒業後、現日立システムズに入社し、App Bridgeシリーズの開発に携わる。その後、プログラミング技術をより高めるべく株式会社FIXERに入社。Microsoft Azureの虜になる。マイクロソフト認定ソリューションデベロッパー(WebApplication)およびAWS認定ソリューションアーキテクト(アソシエイト)。
【FIXER公式サイト】http://www.fixer.co.jp/
【cloud.config公式サイト】http://www.cloud-config.jp/
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