「e-Learning Awards 2014フォーラム」リポート
学校でITはいつ役立つのか? 教育ITの先駆者4者が議論
タブレットや動画などのITが、教育機関で役立つのはどのような場面なのだろうか。愛和小学校や探究学舎など、教育IT活用の先駆者4人の討論から探る。
基礎学力の定着や表現力の向上など、ITの活用が教育機関にもたらすメリットは幅広い。とはいえ、あらゆる目的や用途に対してITが最適な手段になるわけではない。学習者の学習意欲や学力といった状況に応じて、ITの有効性が変わることもある。
教育機関にとって、ITはどのような場面で役立つのか。eラーニングに関する年次イベント「e-Learning Awards 2014フォーラム」では、教育IT活用の先駆者4人が、「デジタルテクノロジーは教育における万能薬なのか? ~なぜ、EdTechが『効く』のか? その領域とは?~」と題するパネルディスカッションを開催した。本稿はその内容を基に、教育機関でITが役立つ領域を探る。
ディスカッションには、多摩市立愛和小学校校長の松田 孝氏、明蓬館高等学校(福岡県田川郡)校長の日野公三氏、東京都三鷹市などに展開する学習塾である探究学舎塾長の寳槻泰伸氏に加え、無料学習サイト「eboard」を運営する特定非営利活動(NPO)法人であるeboard代表理事の中村孝一氏がパネリストとして登壇。デジタルハリウッド大学大学院教授の佐藤昌宏氏がモデレーターを務めた。
パネリスト
- 多摩市立愛和小学校 校長 松田 孝氏
- 明蓬館高等学校 校長 日野公三氏
- 探究学舎 塾長 寳槻泰伸氏
- eboard 代表理事 中村孝一氏
モデレーター
- デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤昌宏氏
“すき間時間”がITで基礎力定着時間に――愛和小学校 松田氏
公立小学校でありながら、3Dプリンタや学校用SNS、タブレットといった多彩なIT製品を活用する愛和小学校。中学校や高等学校だけではなく、「初等教育を担う小学校にとってもITは有効だ」と、同校の松田氏は語る。「特に基礎的事項の学習は、ITにかなりの部分を任せることができる」と強調する。例えば、都道府県名や県庁所在地といった知識は、ゲーム要素を交えたタブレットの学習アプリケーションを使えば、「児童は休み時間やすき間時間を使って、積極的にこなして覚えてしまう」(同氏)という。
児童1人ひとりの学力を把握するという観点からも、ITは大いに役立つと松田氏は説明する。「授業で児童に質問して正解が返ってくると、『覚えているね』と済ませてしまう教員も少なくない。でも実際は、声の大きい少数の児童が正解を言っただけで、残りの生徒はほとんど分かっていないこともある」と松田氏は指摘。一方、学習ログ機能付きの学習アプリを使えば、児童1人ひとりの達成度を把握できる。
IT活用による基礎学習の効率化は、「教員にこそ大きなメリットとなる」と松田氏は強調する。「プリントを作り、配り、回収して、夜遅くに職員室に残って丸付けをする。こうした作業に『自分は教員をしている』という実感を得る教員が少なくないことが、教員が多忙になる原因の1つなのではないか」と、同氏は持論を展開する。「学校には中休みや昼休みといった“すき間時間”が多い。こうした時間を有効活用して児童に基礎的事項を学んでもらうことができれば、学校現場は大きく変わってくる」(同)
“人”を生かせばITの効果が広がる――eboard中村氏
学力も学習意欲もそれほど高くない学習者にとって、ITは有効なのだろうか。eboardの中村氏は、「フォーカスを当てたいのは、まさにこうした学習者だ」と語りつつ、こうした層の学力向上には「ITは直接的には効果がない」と言い切る。
変更履歴(2014年12月2日)
掲載当初、上記の段落中にeboardの説明として「過疎地域を含む地方の学校でIT活用の学習支援を進めるeboard」と記載していましたが、文脈上、「過疎地域を含む地方の学校」の学習者が「学力も学習意欲もそれほど高くない学習者」であると読めてしまう可能性が否定できなかったため、eboardの説明である「過疎地域を含む地方の学校でIT活用の学習支援を進める」の部分を削除しました。本文は変更済みです。
鍵となるのは、「ITと人の力の組み合わせだ」と中村氏は語る。「数十人の学習者に対して1人しか教員がいないという環境でも、ITを活用すれば各学習者が自分に合った内容を学習しやすくなる。そうすれば、学力や意欲が低い学習者に対して教員などが直接サポートする余裕が生まれる」というのが、同氏の考えだ。「人の力をうまく取り入れることで、ITが効く領域を広げることができる」(同)
中村氏は「学習者は紙のドリルよりも、デジタル教材の方が集中できる傾向にある」と指摘しつつ、「映像を見てぼおっとしたり、きょろきょろしてしまったりする学習者も少なからずいる」と認める。こうした学習者に学習を促すには、理解度といった学習者の状況を把握して適切な進度や内容で学んでもらうなど、学びやすい環境作りのための細かな工夫が必要になり、「こうした支援は人の方が得意だ」と同氏は説明する。
学習意欲を高める“感動”をITでもたらす――探究学舎 寳槻氏
探究学舎の寳槻氏も、ITと人との組み合わせの重要性を強調する。「基礎的学力の育成手段は基本的には反復トレーニングなので、ITを活用して自動化すればいい」と寳槻氏は指摘。こうして余った時間を使い、「コミュニケ―ションやコーチングといったプロセスを通して、情動や情熱を人が伝えることができれば、学ぶ方も教える方にとっても幸せだ」と同氏は語る。
「学習者に感動を与えることが、学習意欲の向上につながる」と、寳槻氏は説明する。だが「教科書に教員、鉛筆、ノートという一般的な学習環境では、教える側も学ぶ側も感動が味わえない」と同氏は考える。こうした課題を解決する手段として探究学舎が選んだのが、動画の活用だ。
探究学舎の動画には、計算問題の解法といった単純な解説ではなく、学習者の「なぜ」という疑問に答える内容や、鉛筆やノートといったアナログな手段だけでは伝えるのが難しいイメージを盛り込んでいる。こうした工夫で、「学習者が感動するストーリーを味わえるようにするのが、ITの生かし方の1つだと考えている」と寳槻氏は語る。
ITは学習が困難な生徒の可能性を広げる――明蓬館高等学校 日野氏
明蓬館高等学校の日野氏は、「学習が困難な学習者の支援こそ一番やりがいがあり、ITが生きる」と語る。普通科の通信制高等学校である同校は、注意欠如・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)などで学習が困難な生徒も受け入れている。スマートフォンやタブレットを使った学習やリポート提出を可能にしたり、インターネット経由で授業を受講できるようにするなど、IT活用にも積極的だ。
こうした明蓬館高等学校の取り組みの背景には、同校の運営会社であるアットマーク・ラーニングが運営する通信制のアットマーク国際高等学校に、『自閉症の僕が跳びはねる理由』などで知られる自閉症の作家、東田直樹氏を受け入れた経験があると日野氏は明かす。自閉症のため会話が困難な東田氏は、特別支援学校の高等部や高等養護学校ではなく、普通科への進学を希望し、アットマーク国際高等学校に入学したという。
東田氏は幼少期から、クライアントPCのキーボードと同じ配列の文字盤を使って会話をする「文字盤ポインティング」を使ったトレーニングに取り組み、現在はクライアントPCを使って執筆活動までできるようになった。「テクノロジーが無ければ、作家・東田直樹は生まれなかっただろう」と日野氏が語るのは、学習が困難だとされる学習者の可能性を伸ばすために、ITは重要な要素になり得るという考えからだ。
教育機関にとって、ITが生きる場面もあれば、人の力が必要な場面もある。ITの可能性や限界を把握した上で活用したり、学習者の状況に応じてデジタルやアナログの手段を使い分けたりすることが、効果的なIT活用につながるはずだ。
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