袖高×近大附属 東西高校IT対談【後編】
タブレット学習の効果は数字だけでは測れない――袖高と近大附属が熱弁
教育機関のIT活用効果はどう捉えるべきなのか。あるべき大学入試の姿とは。先駆的なIT活用校である千葉県立袖ヶ浦高等学校と近畿大学附属高等学校が議論する。
前編「『iPad活用』の先にあるものとは?袖高と近大附属が徹底討論」、中編「生徒を縛るだけのセキュリティ対策ならいらない――袖高と近大附属が白熱議論」の2回にわたり、千葉県立袖ヶ浦高等学校と近畿大学附属高等学校(大阪府東大阪市)のITリーダー同士による対談の模様をお届けしてきた本連載。最終回となる後編では、米Appleのタブレット「iPad」などのITを先駆的に活用する両校に、IT製品の導入効果や学力評価、大学入試などのテーマについて議論してもらった。
登壇者
- 千葉県立袖ヶ浦高等学校 情報コミュニケーション科 学科長 永野 直教諭
- 近畿大学附属高等学校 教頭 森田 哲教諭、ICT教育推進室 室長 乾 武司教諭
モデレーター
教育ICTコンサルタント 小池幸司氏
求められる「IT活用効果」、IT先進校はこう考える
小池氏(以下、敬称略) 教育現場でのIT活用を進めていくには、その導入効果が求められるという意見があります。一方で、学習効果ばかりに目を向けると、学習者の可能性や創造性を引き出すような使い方がし難くなるのではないか、という懸念もあります。IT活用の効果について、両校の考えをお聞かせください。
袖ヶ浦高校・永野教諭(以下、敬称略) 効果測定は重要だと思っています。ただし、何をもって効果とするのか。その議論は必要です。短期間にテストの点数が上がらないからといって、「ITの効果は無い」と結論付けるのは早計過ぎます。
もちろん、知識などの一般的な学力は重要です。とはいえ、教育現場でITを活用する意義は、知識習得だけにあるわけではない。学習者の技能や判断、表現、態度、意欲なども立派な学力であり、こうした点で変化があれば、それも効果の1つだと捉えることができるのではないでしょうか。ただし、効果の数値化は難しいです。
近大附属高校・乾教諭(以下、敬称略) 生徒を毎日見ていると、ITを使った学習で明らかに学習態度や学習方法が変わる生徒が実際にいます。主体性、表現力、コミュニケーション能力、創造力、学習意欲といった点で伸びている生徒も多く見掛けます。こうした効果は、数値的には評価されずに埋もれてしまっているのが現状です。
例えば、ITの導入で生徒の書いたものをデータ化して共有すると、生徒は言葉の選択や文章の構成に丁寧に取り組むようになります。ITを活用すると「書く」作業が衰えると思われがちですが、決してそうではないと考えています。
近大附属高校・森田教諭(以下、敬称略) 知識を重視した既存の学力と、応用力を重視した新しい学力の向上を両立できるかどうか、という議論があります。私の個人的な考えですが、タブレットを導入してから、各学力を並行して向上させていくことが重要なのではないか、と考えるようになりました。
こうした姿勢を突き詰めていくことが、新しい学校に生まれ変わるブレイクスルーにつながるはずです。逆に、今までと同じことをしていてはいけないという危機感も高まっています。
日常的なIT活用が“物珍しさ”を払拭する
永野 これも数値化するのは難しいですが、ITを日常的に使うことが、生徒に変化をもたらすことも分かってきました。その例として、授業でSNSを利用した時の話を紹介します。ある授業で、普通科と情報コミュニケーション科の生徒に同じ質問を与え、教育用SNS「ednity」に質問に関するコメントを書き込んでもらった教員がいました。当校では、情報コミュニケーション科では日常的にタブレットを使っていますが、普通科ではタブレットを使っていません。
普通科の生徒には、コンピュータ室のクライアントPCを使ってコメントを入力してもらいました。彼らが書き込んだコメントを見ると、文章として成立していないものが多かった。単なる相づちレベルのコメントや“ウケ”を狙ったコメント、絵文字ばかりで脈絡が無いコメントが散見されたのです。一方、日々の学習でSNSにコメントを残す経験を積んでいる情報科の生徒は、きちんとした文章で書き込んでいました。ふざけた書き込みをしていた生徒は皆無でした。
もちろん、普通科の生徒の授業態度が普段から悪いわけではありません。彼らにとって、授業でクライアントPCを使ったり、コメントを書いたりする行為そのものが珍しく、“遊び感覚”でしかなかったことが、ふざけたコメントが散見された理由だと考えられます。ITを日常的に学習に使う経験が無ければ、プライベートでITを使うのと同じように、遊び感覚で使ってしまうのも当然かもしれません。
ITを授業で使うことが日常化し、当たり前になると、ITそのものに対するもの珍しさは無くなり、あえて授業でふざける理由も無くなってきます。書き込みやコメントにも真摯に取り組むようになり、次第にSNSでの意味のあるやりとりが活発になって、深いことも書けるようになるのです。
こうした生徒の態度の変化は数値化するのが難しい。それでも、ITを日常的に使う効果だと感じています。
テストに“iPad持ち込み可”? テストの形もITで変わる
小池 ITは知識の定着といった基礎的な学力向上に限らず、生徒にさまざまな効果をもたらすことが分かりました。それらの数値化は難しいとしても、効果を評価するために、現場レベルで何らかの工夫はされているのでしょうか。
乾 評価で大切なのは「自己評価」と「相互評価」だと考えています。タブレット導入後は、生徒同士が互いの評価をし合う相互評価を多く取り入れるようになりました。IT導入により、短時間で互いを評価し合える環境が整ったことが後押ししています。実際に相互評価をしてみると、生徒同士、意外にもシビアな評価をし合うということが分かりました。
小池 永野先生は、受け持ちの学校設定教科「情報コミュニケーション」で、「iPad持ち込み可」という斬新なテスト形式を実施されていますよね。これにはどのような背景や狙いがあるのでしょうか。
永野 頭の中にある知識を覚えているかどうか確認する、いわゆる暗記型のテストは、覚えていない問題に対しては諦めてしまう生徒が多いのです。考えても答えようがないですからね。一方、考えなければ解けない問題を用意し、必要な知識はタブレットで調べることができるようにすると、生徒は「考えれば答えが分かるかもしれない」と思い、50分のテスト時間中、全ての力を発揮して問題に取り組みます。
こうしたプロセスそのものが大切だと、私は考えています。テストの時間を到達度の数値化作業だと割り切るのではなく、最も生徒のモチベーションが高く学べる貴重な時間であり、授業の1つだと捉えているのです。
iPad持ち込み可のテストは、基本的に全て記述式です。Webサイトを調べればすぐに答えが出るような問題ではなく、データの在りかを調べ、数値を読み取って傾向を把握し、解答の根拠を記さなければならない問題で構成されています。加えて、生徒自身の経験も踏まえて考えを記してもらうようにしています。
ただし、SNSで他人に直接答えを聞いたりするのは禁止です。答えは手書きで紙の解答用紙に記述してもらっています。
小池 何だか、すごいテストですね。今後、タブレットがさらに普及すれば、こうしたスタイルのテストは増えていくかもしれません。
望むのは「高校生活全てを評価する入試」
小池 さて最後に、高校の出口でもある大学進学についてお聞きしたいと思います。大学入学試験のために、ITをどう生かすことができるのでしょうか。またどのような入試スタイルであれば、ITを使った教育が生かせるとお考えでしょうか。
乾 当校では、タブレットを入試のための受験勉強にも役立つツールにしたいと考えています。タブレットは教科内の利用だけでなく、学校生活で幅広く利用する学習インフラとしても使っているので、当然といえば当然です。生徒の受験勉強をさらに効率化するために、タブレットをもっと活用できるのではないかと考えています。
一方、既にお話した通り、タブレットは基礎的な学力だけでなく、生徒の創造性を伸ばすためにも非常に有効です。表現やコミュニケーション、デジタル作品の創作/制作など、ITの活用で見えるようになってきた能力を評価できる入試方法があってもよいのではないでしょうか。例えば、AO入試の形を変えて、3年にわたる高校生活で生徒が学習した内容をまとめた学習ポートフォリオを評価する、といった入試が考えられます。
永野 評価軸を多様化させる意味で、学習ポートフォリオを生かす考え方がもっとあってもよいはずです。生徒が高校生活の間に何を学んできたのかを生徒自身が示しながら、自分が大学でやりたいことを伝える。こうした入試方法が選択肢の1つとしてあればよいと考えています。
森田 今までは、大学合格というラインに向かって、生徒を一直線に向かせわせるような教育が主流でした。でも今は、大学合格だけでなく、経験豊富であるかどうかといったことも問われ始めています。タブレットなどのITを使った学習は、こうした経験の1つとして評価されてもよいのではないでしょうか。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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