認知症の評価を遠隔診断でも可能に
認知症高齢者も安心・安全に暮らせる社会の実現に必要なこと
少子高齢化とともに認知症高齢者の増加が今後見込まれる。そうした高齢者でも住み慣れた地域で安全に暮らせる社会が望まれている。その実現に向けた取り組みを紹介する。
少子高齢化とともに、特に認知症高齢者の増加が今後見込まれる。そうした高齢者でも住み慣れた地域で安全に暮らせる社会の実現が望まれている。そうした中、文部科学省は2013年度から公募事業「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」を進めている。この事業では、将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を設定し、10年後を見通した革新的な研究開発課題を特定。その上で既存分野や組織の壁を取り払い、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現することを目指す。
その公募事業のトライアルの1つとして、高齢者医療に取り組んでいるのが京都府立医科大学を中心に展開する「COLTEM」だ。COLTEMでは法学や工学の研究者や企業、行政が一体となった研究開発拠点を設置し、新しい地域包括ケアの形を模索している。本稿では、2014年10月にシスコシステムズが開催した報道機関向け説明会での京都府立医科大学大学院医学研究科 精神機能病態学 成本 迅氏の講演を基に、高齢社会を支えるICTの在り方を考察する。
地域の高齢者を支えるシステム構築を目指す「COLTEM」
COLTEMでは、健康時から認知症で判断能力が低下した状態まで高齢者を途切れなく支える包括的支援システムの開発を目指している。そのリーダーを務める成本氏は、認知症患者を専門に診察している精神科医。認知機能が軽度に低下して物忘れするところから、その経過を追ってサポートしてきた。
成本氏は「認知症患者に医療ができることは限られている。特にアルツハイマー病にはいわゆる特効薬はなく、進行スピードを遅らせることしかできない。薬の処方や認知機能の検査はできるが、地域の高齢者を支えるためには医療は無力だと感じる部分もある」と語る。
認知症高齢者は意思決定能力が低下することで自身の財産管理が難しくなる。例えば、銀行のATMが操作できずに現金が下ろせなくなったり、悪徳商法の被害や親族からの虐待を受けることもある。民間企業は意思決定能力がなければ契約できなくてサービスが提供できない。銀行などの金融機関は口座を凍結したり、商品を販売しないという対応がされてきた。しかし、「高齢者が増える今後を考えると、認知機能や意思決定能力が下がっても安全に金融サービスを享受してもらえるシステムの実現が望まれる」と説明する。
COLTEMでは「高齢になっても自分の財産をうまく管理して楽しく充実した生活を過ごせるシステムの構築」「認知症になっても安心・安全に過ごせる見守りシステムの開発」を目指している。京都府立医科大学や慶應義塾大学の医学部や理工学部、千葉大学の法政経学部など大学機関、老人ホームを運営するベネッセスタイルケア、三井住友信託銀行、京都銀行、ソニー生命、シスコ、IIJグローバルソリューションズなどの民間企業15社が参画。また京都府医師会、丹後保健所、京都地域包括ケア推進機構などが協力している。2013年11月から要素技術の検証を進めている。
具体的には以下の5分野での取り組みを進めている。現在、高齢化率30%を超える京都府京丹後市での実証実験を行っている。
- 意思決定サポートセンター設置準備委員会
- 認知症の早期診断見守りシステム
- 電波センサーを用いた見守りシステム
- 高齢者の意思決定の特徴の同定
- 遠隔技術を用いた能力評価の開発
高齢者の意思決定能力の評価を検討する「意思決定サポートセンター」
意思決定サポートセンターでは、民間企業が高齢者と安心して取引・契約ができる仕組みを目指す。「その鍵を握るのが、意思決定の能力評価」(成本氏)。認知機能が下がっているかもしれない高齢者との契約を安全に結ぶためには、契約内容を正しく理解していることを証明しながら契約する必要がある。現在、意思決定サポートセンターでは高齢者が投資信託を契約する場合を想定したチェックリストや対応マニュアルを開発している。
また意思決定能力の評価では、シスコシステムズのシスコのテレビ会議システムを通じた遠隔通信技術を活用している。「意思決定能力の評価には専門的な知識が必要になる。物忘れ外来を設けるとすぐに2、3カ月予約が埋まるほど人材が不足している」という現状を踏まえて、遠隔拠点からでも対面式と同等の評価が可能かを検証している。
介護スタッフの負担軽減にも期待「認知症の早期診断見守りシステム」
認知症の早期診断見守りシステムでは赤外線センサーを活用し、高齢者の活動量から認知症を早期で発見することを目指す。今後さらに需要が見込まれる介護職員だが、その離職率の高さが問題視されている。その理由の1つに、認知症患者は予測困難な突発的に行動することがあり、介護スタッフが緊張にさらされることもある。成本氏は「センサーで行動予測が可能になれば、質の高い介護の実現、介護スタッフの負担軽減、離職率低下に効果があるのでは」と期待を込める。
地域における見守りシステム導入への期待
電波センサーを用いた見守りシステムでは、慶応義塾大学理工学部で研究している電波センサー(アレー信号)に基づく見守りシステムを採用。対象者のプライバシーに配慮した見守りシステムを採用。このシステムは電波の揺らぎを捉えることで、人の活動様子を知ることができ、監視カメラなどが不要で対象者のプライバシーに配慮されている点が特徴だという。まずは老人ホームでの活用に注力し、認知症特有のパターン識別などによる見守りデータ解析システムへの応用を目指している。また、遠隔見守り・サポートによって認知症への早期介入、少人数での効率的な見守りなどが可能になり、介護保険財政の改善につながるという。
高齢化が進むアジア諸国のロールモデルを目指す
現在、京都府立医大と志学館大学、慶応義塾大学医学部にテレビ会議システムを設置し、遠隔技術を用いた意思決定能力評価の実証実験を進めている。IIJグローバルのクラウド型ビデオ会議すサービス「COLLLABO de! World」とシスコシステムズの「Cisco TelePresence」システムを活用している。今後はセンサーとの連係、相談者の利便性の向上、セキュリティの向上、適切な端末の選定などの検討・検証を進める予定だという。
COLTEMではトライアル期間の成果を文部科学省に報告し、その評価でさらに7年間の研究開発を続けるスケジュールだ。地域に偏りがない高齢者向けサービスの充実と雇用創出、医療費削減、初期認知症対策、介護離職削減の達成を目指している。「2015年度以降も続けられることを期待したい。まずは京都府で展開、日本全国に展開するとともに、最終的には高齢化が進むアジア諸国のロールモデルとして広めていきたい」と語る。
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