生徒が使うiPadアプリ一覧表も提供
同志社中学校がiPad miniで実現した“英語が話したくなる授業”とは?
「iPad mini」を生かし、授業の中で個別学習やグループ学習、一斉学習などさまざまな学習場面を作る同志社中学校。その授業の様子をリポートする。併せて、同校が使うiPadアプリ一覧表も提供する。
2014年度から中学1年生全員が米Appleのタブレット「iPad mini」を活用している同志社中学校。前編「『iPad mini導入』は始まりにすぎない――同志社中学校がIT活用に挑む訳」では、同校のタブレット導入の経緯と、同校が採用した「教科センター方式」と呼ばれる教室運営方式を紹介し、「タブレット」と「学びの場」の両輪で新しい教育に挑む姿をリポートした。
今回の後編では、同志社中学校におけるタブレット活用授業の様子を紹介する。取り上げるのは、同校のICT導入責任者である図書・情報教育部主任の反田 任教諭による、1年生の英語授業だ。加えて反田教諭の協力を得て、同校が現在iPad miniで使用する、主要なアプリケーションの一覧表を用意した。教育関係者にとって大いに参考になるはずだ。
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前編でも説明したが、同志社中学校のタブレット活用の現状について簡単に触れておこう。同校は2014年度の新1年生を皮切りに、生徒の私物端末を利用するBYOD形式でiPad miniを導入した。同校では2012年から2年掛けて、9.7インチの「iPad」を使った実証検証を実施。中学生のかばんの重さや使い方、価格などを考慮してiPad miniを選んだ経緯がある。
同志社中学校のタブレット活用の大きな特徴は、教科センター方式という教室運営方式に合わせた学びの場や空間を生かしていることだ。教科センター方式は、生徒が毎時間、教師のいる専門教室に赴いて授業を受けるスタイルであり、欧米の教育機関などでよく導入されている。同校では、校舎も教科センター方式に合わせてデザインしており、校舎を教科ごとのゾーンに分け、それぞれのゾーンに「メディアスペース」という学びの共有空間を設けている(写真1)。近年、大学などで導入が増えている「ラーニングコモンズ」とよく似ている。
iPad miniとNetCommonsを授業に活用
取材当日の授業は、反田教諭の英語のあいさつで幕を開けた。テーマは単元「命令文」の学習だ。授業開始直後、生徒は同教諭の指示に従い、当日使用する教材を各自のiPad miniにダウンロードした。教材は、同校が学習ポータルサイトとして採用しているオープンソースの情報共有システム「NetCommons」(開発:国立情報学研究所)にあらかじめアーカイブしておいたものだ(画面1、画面2)。
生徒がNetCommonsからダウンロードした教材は、Appleが無償提供する電子書籍作成アプリケーション「iBooks Author」を使って反田教諭が作成したものだ(画面3)。同教諭はiBooks Authorを使い、文法を説明した簡単な解説動画と、例文や例題を掲載した教材を自作しているという。「iBooks Authorは、ドラッグ&ドロップといった簡単な操作で写真や動画を盛り込んだ電子書籍を作成できるのがメリット。特に家庭学習の充実を図る目的で作成している」と反田教諭は話す。
教材を各自のiPad miniにダウンロードした後、生徒は例文の音読練習に取り掛かった。教材の中には音声ファイルがあり、生徒は音声を再生しながら音読練習をしていた(写真2)。
生徒同士で発音チェック、ドリルで理解の定着図る
個人の音読練習が終わると、続いて生徒は2人一組のペアになり、互いの音読をチェックし合った。聞き手は相手の話す英語を聞きながら、反田教諭が配った紙のチェックシートに発音の間違っている部分を書き込み、A、B、Cの3段階で評価する。こうした相互チェックは、生徒が正しい発音やイントネーションを自然に意識して発話するようになるので効果的だという。
コラム:教室では“会話”、ITのメリットは家庭学習に生かす
iOS向けの発音認識アプリの中には、独学での利用を想定したものも多い。反田教諭はこうしたアプリの有効性を認めつつも、「授業内で使用する機会は少ない」と話す。あくまでも授業の中では、クラスメイト同士が互いに向き合って会話をする時間を大切にしたいと考えているからだ。「生身の人間相手に英語で話しかけることで、相手を意識したコミュニケーション手段としての英語を身に付けてほしい」と同教諭は語る。
一方、音読テストの際はデジタルを大いに活用すると反田教諭は説明する。生徒には、米Nuance Communicationsの音声認識アプリ「Dragon Dictation」、米Future Appsのテキスト音声読み上げアプリ「Speak it!」、仏L'Escapadouの発音確認アプリ「Word Wizard」などを用いて自宅で発音練習をしてきてもらう。
反田教諭は授業支援システム「ロイロノート スクール」を使い、生徒に音読テスト用のスライドを配布。生徒は上述した各種アプリを使った学習の後、ロイロノート スクールのアフレコ機能を使い、音読テスト用スライドに音読内容の録音データを付加して提出する。
ロイロノート スクールのアフレコ機能を使うと、秒数や分数単位で録音時間を設定できる。反田教諭はこの特徴を生かし、決められた尺の長さで音読をするよう生徒を指導しているという。「練習しないと上達しないような時間設定をしている」(同教諭)。生徒に何度も練習をしてもらい、発話回数を自然に増やすのが狙いだ。
音読チェックを終えた生徒が次に取り組んだのは、反田教諭がNetCommonsで作成した3択の確認問題だ(画面4)。この確認問題はドリル形式で、1問ごとに生徒の解答を自動採点し、解説やポイントなども表示する。またNetCommonsの機能を使い、ログインをし直したら何回もチャレンジできるようにしたり、設問をランダムに入れ替えたりできるようにしている。
反田教諭は、こうしたドリル形式の確認問題を「生徒に前回の授業を思い出してもらいたいとき、短時間で復習してもらいたいときに使う」と言う。生徒がNetCommonsの確認問題を解いている間、同教諭は生徒の机の間を巡回(机間巡視)して、つまずいている生徒に個別指導をする(写真5)。生徒は授業だけでなく、テスト前の勉強にも確認問題を活用できるようにしている。
紙とデジタルの良さを生かす
生徒は確認問題を解いた後、紙のワークブックを使った文法問題にも取り組んだ。反田教諭は紙の問題をNetCommonsへ全て置き換えるのではなく、目的によって両者を使い分けている。振り返り学習や内容確認にはデジタル、英単語のスペル学習や記述式の問題には紙を使うなど、紙とデジタル両方の良さを生かす。
反田教諭の授業では、生徒に宿題としてプロジェクト課題を課すという興味深い取り組みをしている。プロジェクト課題では、特定のテーマに基づく作品を生徒に作成してもらう。取材当日の授業では「My Treasure」(私の宝物)をテーマに、生徒が手書きで作成した作品をロイロノート スクールで撮影してもらい、デジタルデータとして提出してもらっていた(画面5)。従来、紙の作品のみを許可していたが、2014年度からはデジタルデータも許可しているという。
1年生の英語ではその他、「自己紹介」「家族紹介」などのプレゼン資料もロイロノート スクールを用いて制作している(画面6)。生徒の家庭での姿や育ってきた環境は、学校生活の一面だけ見ているだけでは分からない。作品を通して、今まで見えにくかった生徒の側面を垣間見ることができるという。
反田教諭はでき上がった生徒のプレゼン資料などの作品を見て「『表現がここまで多彩になるのか』と感動することも多い」と話す。動画や写真、音声などをうまく使いこなし、見ている相手を楽しませようと感じられる作品に、生徒の高い表現力を感じているようだ。
さらに反田教諭は、生徒が作成した紙ベースのオリジナル作品を、学びの共同空間であるメディアスペースにも展示しているという。メディアスペースには、英語に関するさまざまな展示や資料を並べている。その空間に生徒の作品を展示することで、他生徒や教員の目に触れやすくするのが狙いだ。「生徒は、自分の作品が展示されている場所を楽しみに探す」と同教諭は語る。
音声なども入れたデジタルデータとして仕上げた作品がある一方で、その基となった紙ベースの作品も併せて展示する。同志社中学校は、生徒の個性が感じられる表現豊かな作品を通して、学校内におけるコミュニケーションの活性化につなげていく考えだ。
IT活用が話すことへの“ためらい”を無くす
反田教諭は、自身の授業におけるIT活用の効果について、「生徒の英語に対する慣れ方を格段に早くし、会話の機会を増やし、苦手意識や恥ずかしさをなくすことだ」と話す。
同志社中学校では以前、生徒は1年生の秋くらいになると、だんだんと英語を話すときの声が小さくなる傾向が見られたと反田教諭は明かす。だがiPad miniをスピーキングの補助ツールとして活用し初めた2014年度は、秋になってもこうした変化は見られなかったという。生徒は1人で発音練習をしたり、自分の音声を録音したりする機会が多くなったために、声を出すことに“ためらい”が無くなったのだといえる。
英語の授業において「声を出す」ことはとても大切なことだ。にもかかわらず、紙と鉛筆だけの授業では、この大切かつ単純な声を出す機会を広げることが難しかった。英語授業における一番大切な部分のハードルを下げた、IT活用の意味は大きいと考える。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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