普通のPCを「ハニーポット」にして情報収集
PCをわざとマルウェアに感染――“斜め上”のセキュリティ対策に賛否両論
攻撃者をおびき寄せる目的で構築される「ハニーポット」。その役割を専用システムではなく通常の端末に担わせることで、マルウェアの早期発見・早期対処につなげる手法が議論を呼んでいる。
米調査会社Ponemon Instituteは、ITセキュリティ担当者数百人を対象に、エンドポイントセキュリティで最も差し迫ったリスクについて調査した。この中で浮かび上がったマルウェア対策に関する新しいトレンドは、論議を呼ぶ可能性もある。
Ponemonがこのほど発表したエンドポイントの状況に関する2015年版の報告書では、平均的な企業のネットワークに存在する無数の端末が直面するリスクについて調べた。他の調査でも判明している通り、Ponemonの調査でも、ITセキュリティ担当者は従業員の不注意や怠慢をエンドポイントセキュリティにとっての最大の脅威だと見なしていることが分かった。
「シャドーIT」への対処
コンピューティング分野で浮上している幾つかの主要トレンドは、エンドポイントのセキュリティ問題に結びついているというのが、Ponemonの見方だ。調査対象のITセキュリティ担当者は、エンドポイントのセキュリティリスクを著しく増大させる要因として、クラウドアプリケーションの利用(73%)、私物端末の業務利用(BYOD、68%)、自宅や社外で作業する従業員(63%)を挙げた。
Ponemon創業者で会長のラリー・ポネモン氏はこれについて、従業員の責任ではなく、どちらかといえば時代の変化の速さを反映したものだと話す。「企業にこれほど速くクラウドサービスが普及したり、『シャドーIT』(会社やIT部門の許可なくIT製品/サービスを利用すること)が進んだりすることは、5~10年前には誰も予想していなかっただろう」(ポネモン氏)
回答者の4分の3は、過去1年の間にモバイル端末がマルウェアの標的になったと回答した。この割合は2013年の68%から増加している。
他のセキュリティ専門家も同様のトレンドを指摘する。「ネットワークにおけるクラウド利用とモバイル端末の増加は、組織にとって間違いなくエンドポイントセキュリティのリスクになる」。そう語るのは、米セキュリティ会社Rook Securityのセキュリティプログラム戦略コンサルタント、ルーク・クリンク氏だ。
「モバイル端末を通じて常時接続していたいという欲求、クラウドストレージなどを使ってどこでもデータへアクセスしたいという欲求がある。こうした欲求が企業を動かし、会社や顧客のデータを守るための詳細な戦略を正式に検討し、作成する必要を生じさせた」とクリンク氏は説明する。
ポネモン氏によると、BYODとシャドーITによって痛みが生じたことで、検出か防止かの問題に対するIT部門の姿勢に変化が生じたという。調査によれば、IT部門は、
- 脅威インテリジェンス(Threat Intelligence、驚異に関する情報や知見)
- 検出・対処(Detect and Respond)ポリシー
- ビッグデータの利用増加
といった手段で、こうした新しい課題に対処することに前向きな姿勢だ。30%が今後2年以内に検出・対処ポリシーを導入し、41%はエンドポイントセキュリティ強化のためにビッグデータを使い始めると答えている。
完璧な要塞は構築できない
過去に主流だったエンタープライズセキュリティ戦略では、ウイルス対策やファイアウォールといったセキュリティ技術に依存し、マルウェアを寄せ付けないようにする防止策に重点を置いていた。だが今回の調査から、防止よりも早期検出に重点を置く検出・対処ポリシーの方に動く組織が増えていることが分かった。
「防止はコストが高くつくだけでなく、ほぼ不可能だとITプロフェッショナルが気付き始めた」とポネモン氏は言う。組織はマルウェア感染の防止よりも、マルウェアを早期に検出し、識別して対処するためのセキュリティインテリジェンスとビッグデータツールに投資するようになっている。
早期の検出と対処を実現するためには、マルウェアに関する情報収集量を増やす必要がある。そこで現れたのが、標準的な端末を実質的な「ハニーポット」として使うという新たな対策だ。ハニーポットは、攻撃者をおびき入れてマルウェアを収集、解析するための“わな”のことである。
「ファイアウォールの鎖を緩め、端末をセンサーにして防御の第一線とする。感染した端末をサンドボックス化すれば、何が自分たちを攻撃しているのか、攻撃ベクトルや攻撃の目的が分かり、それに応じた対処ができる」とポネモン氏は言う。
これは、一般的なハニーポットを使ってマルウェアをおびき寄せる従来型の方法とは異なる。こうしたハニーポットには限界があるのに対し、本物の端末にマルウェアを感染させれば、攻撃についてもっと詳しく知ることができるとポネモン氏は主張する。
ただし、実環境の端末をハニーポットに仕立て上げることに対して、一部のセキュリティ専門家からは異論もある。ポネモン氏も、「適切な安全策や隔離技術、収集されたデータに対応できる能力がなければ、これは大きな危険を伴いかねない」と注意を促す。だがうまくやればワクチンのように、悪い部分を取り入れて企業の守りを強化できるはずだと説明する。
米Cisco Systemsの首席エンジニアであるジェイソン・ブルベニック氏は、この対策についてある程度は理解できると言う。「意図的にマルウェアを社内の環境に入れることを許すというアイデアは好きになれないものの、感染が避けられないことは組織も理解している」(ブルベニック氏)。どんな組織でも、侵入から復旧までの時間を短縮する目的で脅威を目に見えやすくすることを目指すべきであり、そのデータはネットワーク全体およびそれを越えた範囲で共有すべきだというのが、同氏の主張だ。
「1人の人間にとって、ワクチンにはそれほど大きな意味はない。ワクチンは集団全体のためのものだ。1人が病気になったら直ちに、その集団と近隣の集団の全員にワクチンを接種する必要がある。病人と医師団は、病気がどう進行して自分たちでそれをどう治すかを知るために、そこにある全てを知る必要がある」。ブルベニック氏はこう語る。
セキュリティとコンプライアンスを手掛ける米Trustwaveで製品管理担当副社長を務めるジョシュ・ショウル氏は、スキルを持ったチームに管理させなければ、ハニーポットの利用は難しいと指摘。ハニーポットを機能させる鍵はネットワークの隔離にあると話す。従来型のハニーポットを使っても貴重な脅威インテリジェンスは得られ、ポネモン氏が説くようなユースケースに伴うリスクも緩和されるというのが、ショウル氏の考えだ。
実際の端末をハニーポットにするトレンドは興味深いが、潜在的な不安もあるとショウル氏は話す。「機密性の高いデリケートなシステムを含む実際の本番環境で、防御技術の層を無効にするやり方に従うことは、顧客にも誰にも勧めない。調査目的でこの方法を取る場合、隔離したネットワークで実行することを勧める。もしこうしたハニーポットが社内のネットワークで、本物の重要データを持つシステムと並んで運用され、インターネットからの攻撃にさらされるなら、データ流出が起こるのを待っているようなものだ」(同氏)
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