山梨英和中学校・高等学校の生徒が利点と課題を紹介
私物iPadで「反転授業」を体験、女子高校生が感じた利点と課題は?
山梨英和中学校・高等学校では、生徒の私物iPadを利用した「反転授業」に挑んでいる。同校の生徒は反転授業の効果や課題についてどう考えているのか。生徒自ら明かす。
2012年度から米Appleのタブレット「iPad」を活用してきた山梨英和中学校・高等学校(山梨県甲府市)。同校のiPad導入の経緯は、2013年12月に「『物理キーボードなんていらない』――私物iPadを使いこなす女子中学生」でも紹介した。現在は中学課程の2、3年生、高校課程の1年生が個人所有のiPadを利用し、授業をはじめとする学校生活全般に生かしている。
そんな山梨英和中学・高校の生徒が2015年3月、東京・銀座にあるアップルストア銀座で開催したイベントに登壇。生徒自ら、iPadを中心とした同校のIT活用について紹介した。当日は中学課程の2年生3人、3年生4人、高校課程の1年生5人が参加。Appleのプレゼンテーションツール「Keynote」を使い、夏休みの自由研究から海外姉妹校との交流まで、多岐にわたるIT活用事例を披露した。
中でも参加者の注目を集めたのは、授業と家庭学習の役割を一部逆転させる「反転授業」の取り組みだ。山梨英和中学・高校では、既に一部の授業で反転授業を取り入れており、その具体的なメリットや課題が見えてきたという。本稿では生徒による講演内容を基に、同校の反転授業の取り組みを紹介する。
「iTunes U」「Apple TV」を駆使して反転授業を実現
ITを活用した新たな学習の形として、山梨英和中学・高校が取り組み始めた反転授業。既に数学や英語など一部の授業で実施している。イベントでは、山梨英和中学・高校の高校課程に当たる山梨英和高等学校1年の網野理彩さんが、数学での反転授業の取り組みを紹介した。
数学の反転授業の基本的なプロセスはこうだ。まず、生徒はオンライン教材を使って個別に予習する。授業ではグループに分かれ、グループ内で生徒同士が問題の解法を教え合い、その解説をクラス全員に向けて発表。その後、応用問題に挑戦する。
予習と授業の内容を、もう少し詳しく見ていこう。
予習: iTunes UとNHK高校講座を活用
予習で生徒が取り組む課題は、教員が教材配信サービス「iTunes U」に登録して共有する(写真1)。生徒は課題をiPadにダウンロードした上で、基本的には自宅で課題に取り組む。一方、「校内の施設が充実しているので、部活の開始前の空き時間を使って予習する生徒もいる」(網野さん)という。
教員が出す課題は、生徒がまだ授業で学習していない内容を含む。生徒は事前準備として、日本放送協会(NHK)がオンラインで無償公開している映像講義「NHK高校講座」を視聴し、解答に必要な基礎知識を学習する。教員は課題と併せて、該当する映像講義のURLをiTunes Uに登録。生徒がURLをタップするだけで必要な映像講義を閲覧できるようにしている。「おおよその基礎問題は、NHK高校講座を見れば解けるようになる」(網野さん)という。
授業: Apple TVで解法を共有
授業では、生徒は4、5人のグループに分かれ、グループ内で課題に含まれる問題の解法を確認し合う。予習で解けなかった問題は、「グループ内で解けた生徒に聞き、お互いに納得するまで議論し合う」(網野さん)ことで、グループ全員が解法を理解できるようにする。
教員はその後、各グループに対して課題の中から1~3題の問題を割り振り、クラス全員に向けてその解法を解説してもらう。グループのメンバー全員で解法に関する解説を考え、その内容を紙の解説用紙に記入して教員に提出する。教員はAppleのセットトップボックス「Apple TV」を使い、各グループが作成した解説用紙をスクリーンに表示。生徒はその内容を基にクラス全員に解法を解説する(写真2)。
各グループの解説用紙の画像データは、iTunes Uにも保存する。「発表者が口頭のみで発表したことも、各生徒が必要だと思えば書き足すことができる」(網野さん)ようにしている。
「データ共有」ではなく「リアル共有」が学びを深める
iTunes Uで解説用紙を共有するのであれば、授業中にApple TVを使って解説内容を表示する必要はないのでは、という考えもあるだろう。網野さんは、Apple TVを使ってクラス全員で解説を確認する利点として、「大画面でクラス全員が一斉に解説内容を見ることで、グループ内では気付けなかった間違いに気付くことができる」ことを挙げる。個別学習やグループ学習では得にくい利点だといえる。
発表中に解答の間違いに気付いたときは、解答をスクリーンに写したまま、iPadの手書きノートアプリを使って直すようにしているという。「皆の前で直すことで、見ている生徒もどこがどう間違っているのかに気付くことができる」(網野さん)からだ。データの共有で効率化できそうなところも、あえてクラス全員に向けた発表という一手間を加えることで、クラス全体の学習効果向上につなげている。
反転授業“だからこそ”予習する
クラス全員が予習することを前提とした反転授業には、「予習してこない学習者が一定数出てくると、授業が成立しなくなる」との指摘もある。だが網野さんのクラスでは、反転授業時には「全員が確実に予習をしてくる」という。むしろ、「反転授業を取り入れることで、予習の習慣が身に付きやすくなった」と網野さんは説明する。
予習の原動力となるのは「恥ずかしさ」だと網野さんは言う。生徒は上述の通り、予習した課題の解答をクラス全員の前で解説する。予習をせず、課題や解法を理解しないまま授業に臨めば、うまく解説できずに恥ずかしい思いをすることになる。「誰でも人前で恥をかくのは嫌なもの」(網野さん)という気持ちが、予習をしないといけないという意識につながるという。
生徒は予習をしておけば、たとえ完璧な解答を導き出せなくても、課題について理解を深めた状態で授業に臨むことができる。分からない部分が明確化できるので、授業中に疑問点を効率的に解消することも容易になる。授業時に余裕が生まれ、解法の解説の検討に集中しやすくもなる。
もちろん、山梨英和高校の生徒の基礎学力や学習意欲が比較的高いことも、高い予習率を下支えしている可能性はある。ただし、予習を含む学習者の自発的学習を促す上で、クラスでの発表の役割を見直すことは一定の効果があると考えられる。
解説内容をクラス全員の前で発表することは、予習の習慣化以外にも「学習内容を本当の意味で理解することにつながる」と網野さんは語る。「人に説明するには、どうすれば分かりやすくなるかを考える必要がある。そのために、ただ公式を覚えるだけではなく、なぜその公式が成り立つのかなど、深いところまで知識を身に付けるようになる」(網野さん)
日常的実施には「時間短縮」が課題
利点が多い反転授業だが、解決すべき問題もあるという。網野さんが最大の問題として挙げるのが「時間がかかること」だ。現状の授業では、グループ単位の話し合いやクラス全体への発表などに多くの時間を割いている。授業の進度が遅くなることなどから、毎回の授業で反転授業ができているわけではないという。「今後の課題は、より時間を短縮して反転授業を実施すること」と網野さんは語る。
時間短縮のために、解法の共有は解法用紙のデータ共有だけで済ませて、クラス内での話し合いや発表の時間を短縮することはできる。だがそれでは、網野さんが挙げた反転授業の利点を損ないかねない。「予習は大変だし、普通に授業をするよりも進むのが遅いなど、反転授業には課題がたくさん。それでも授業への集中度が高まるなどの効果があり、反転授業に対する生徒の評判はいい」と網野さんは話す。反転授業の課題をどう克服し、どう効果を伸ばすのか。山梨英和中学・高校の今後の取り組みに注目が集まる。
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