中堅・中小企業を先手必勝へと導く「一歩進んだIT活用」を学ぶ【第3回】
3社に1社がクラウドを選択 クラウド活用の阻害要因は?
クラウドサービスの活用はもはや大企業だけにとどまらない。中堅・中小企業にとっても重要な選択肢の1つとなっている。中堅・中小企業におけるクラウドへの移行状況や懸念点について考察する。
2014年から、サーバをクラウド形態で利用するサービス(IaaSやホスティング)におけるベンダー間の価格競争が激しくなっている。米Amazon Web Services、米Microsoft、米IBM、米Googleといった大手クラウドベンダーが相次いでサービス価格改定を発表したニュースを目にされた方も多いだろう。
一般の中堅・中小企業にとっても、クラウド形態でのサーバ活用(以後、本稿で「クラウド」といった場合はこの形態を指す)が選択肢の1つとなってくる可能性が十分に考えられる。今回は、既存で自社内運用されている業務システムなどをクラウドへ移行すべきか、その際の留意点とは何かについて考えていくことにする。
今後1年以内のサーバ活用においてクラウドが選ばれる割合は3割弱
以下のグラフは年商100億円未満の中堅・中小企業に対して、「今後1年以内に新規導入または刷新/更新するサーバの導入形態」を尋ねた結果である。つまり、今後1年のスパンで見たとき、クラウドがどれだけを占めるのかを示すデータということになる。
「クラウド=ユーザー企業がサーバを購入せずにサービス形態で利用する形態」という定義に立った場合、上記のグラフ内でクラウドに相当するものは選択肢の下4つである。その合計割合は26.6%となる。つまり、3割弱の中堅・中小企業は既に1年以内のサーバ活用においてクラウドを選ぶことを考えていることになる。この数字を大きいと見るか、小さいと見るかは意見が分かれるところだが、「およそ3社に1社の割合」と考えると「ごく一部のユーザー企業における特殊事情」とはいえなくなってくるだろう。
クラウドの活用を阻害する要因とは
中堅・中小企業のサーバ活用におけるクラウド選択がこのまま増えていけば、サービス価格の低下や使い勝手の向上が急速に進む可能性がある。そうした変化に取り残されないためにも、中堅・中小企業におけるクラウド活用の最新事情を理解しておくことが重要となる。
その際に参考となるのが以下の調査データだ。年商100億円未満の中堅・中小企業に対し、「クラウド(IaaS/ホスティング)の活用を阻害する要因」を尋ねた結果を現時点でのクラウド活用状況別に集計したものだ。グラフ中でグループ分けされているクラウド活用状況の詳細は以下の通りである。
- オンプレミスを継続(以下、「グループ1」):以前からオンプレミス(自社内設置型)のサーバ活用を行っており、今後1年以内に新規導入または刷新/更新するサーバもオンプレミスを選ぶ予定のユーザー企業
- オンプレミスからクラウドへ遷移(以下、「グループ2」):以前にはオンプレミスのサーバ活用を行っていたが、今後1年以内に新規導入または刷新するサーバにおいてはクラウドを選ぶ予定のユーザー企業
- オンプレミスからクラウドへ移行済み(以下、「グループ3」):以前からクラウド形態でのサーバ活用を行っており、今後1以内に新規導入または刷新/更新するサーバにおいてもクラウド形態を選ぶ予定のユーザー企業
選択肢に挙げた3つの項目について順に見ていくことにしよう。
まず注目すべきなのは「サーバハードウェアを購入した方が導入費用は安く済む」という項目の回答割合はグループ1、グループ2、グループ3とクラウド活用が進むにつれて低くなっている点だ。
サーバハードウェアも安価になってきているため、「月額/年額の利用料を払うよりもサーバハードウェアを購入してしまった方が安い」という状況も確かにある。だが、冒頭でも触れたようにクラウド側の提供価格も下がってきている。「社外から安全に利用したい」「平常時とピーク時で要求される性能に大きな差がある」などといったニーズは自社内設置型で実現しようとすると相応のコストを必要とする場合もある。その際にはクラウドを選択肢の1つに加えてみると良いだろう。
2点目に留意すべきなのは「社内に存在する他システムとの連係ができなくなる」といった項目だ。
社内に存在する全てのシステムを一気にクラウドに移行するのは現実的とはいえない。その結果、多くの場合は自社内設置型とクラウドが共存することになる。
例えば、問い合わせ窓口を担うWebサイトや受発注窓口を担うeコマースサイトをクラウドに移行した場合を考えてみよう。これらのシステムは社外からのアクセスがあり、アクセス頻度も変動することからクラウドに適した用途といえる。しかし、問い合わせや受発注で得た顧客情報は社内設置型の顧客管理システムで管理したいというケースも少なくないはずだ。となると、クラウドから社内環境に顧客情報を安全に引き渡す仕組みが必要となってくる。ここで外部システムとの連係手段が十分ではないクラウドを選んでしまうと、「社内に存在する他システムとの連係ができなくなる」という課題が発生するわけだ。
グラフを見ると、グループ2ではそうした課題を挙げる割合は2割程度とやや高いが、グループ3では1割程度に下がっている。つまり、初めてクラウド活用に踏み出した時はシステム連係の課題に直面しやすいが、経験を積むにつれて課題が徐々に解決されていくという流れがあると考えられる。これからクラウド活用を検討する中堅・中小企業としては余計な試行錯誤を最小限に抑えることが大切だ。クラウド事業者や販社/システムインテグレーター(SIer)に自社で利用しているシステムの全体像をきちんと見せて、クラウドと連係が必要となる社内システムを把握してもらうというプロセスが非常に大切だ。
3点目として挙げておきたいのは「自社内設置型に戻る道筋を確保しておく」という点だ。
「クラウドに移行したが、何らかの理由で自社内設置型に戻る必要が生じた」という事態も十分考えられる。具体的なシーン例としては「期待していたほどサイトのアクセス数が伸びず、アクセス頻度の変動がない状態では自社内設置型の方が安価に済む」「システム内で個人情報を扱う必要が生じ、社内規定の関係で社外にシステムを置くことができない」などが挙げられる。
実際にクラウド活用に取り組んでいるグループ2やグループ3に比べ、グループ1では「サーバ環境を自社に戻すことが難しくなる」の回答割合が低い。つまり、自社内設置型に戻らなければならない事態が生じるリスクについて、グループ1は認識が十分ではない可能性がある。
では、どうすれば良いのだろうか。実はクラウド形態で利用されているシステムの多くはサーバ仮想化環境で稼働している。そのため、既存システムをクラウドへ移行する際には、まずサーバ仮想化環境に対応させる「仮想化」のステップが必要となる。逆に言えば、社内にサーバ仮想化環境を構築しておけば、いったんクラウドへ移行したシステムを戻す際の受け皿とすることができる。
社内にサーバ仮想化環境を構築するためには「ハイパーバイザー」と呼ばれるミドルウェアが必要だ。だが、ハイパーバイザーの代表例である米VMwareの「VMware vSphere」やMicrosoftの「Microsoft Hyper-V」などはサーバハードウェアに組み込まれて販売されていたり、OSの機能として包含されていたりという形で中堅・中小企業も手軽に導入できるようになってきている。
従って、「自社内設置型に戻る道筋を確保しておく」という意味でも、クラウド活用に至る最初の一歩として「サーバ仮想化環境を社内に構築する」ことを検討してみることをお勧めしたい。
以上、中堅・中小企業がサーバ活用においてクラウドを選択する際に留意点などについて考察してきた。自社内設置型とクラウドはどちらか一方が常に優れているというものではなく、適材適所で選ぶことが非常に大切だ。本稿がそうした取捨選択における1つの参考となれば幸いである。
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