授業だけじゃない、「教職員1人1台iPad」の使い道
「iPad用校務アプリ」を自前で作る桜丘中学・高校 開発者はたった1人の職員(2/3 ページ)
iPadとFileMakerアプリの活用状況:入試関連を中心に幅広い校務に活用
桜丘中学・高校では現在、入試関連校務をはじめとするさまざまな校務に、iPadやFileMakerアプリケーションを活用している。特に導入のきっかけとなった入試関連校務については、出願から入試前日・当日の校務まで、さまざまな作業の効率化に生かしている。
「成績データ入力アプリ」でWeb出願の穴を埋める
西岡氏はFileMaker Proを使い、教員のiPadから成績データを入力できるFileMakerアプリケーションを開発した。教員が受験番号を入力すると受験生の基本情報を表示し、そこに成績を数値入力できる仕組みだ(画面1)。
桜丘中学・高校では、全てのFileMakerアプリケーションをサーバソフトウェア「FileMaker Server」が稼働するサーバに配備している。この成績データ入力用のFileMakerアプリケーションも同様であり、教職員全員のiPadから一斉にデータの確認や入力ができるようにしている。入力された成績データは最終的に、校内システムに取り込む。
最近では、出願の受け付け作業を効率化する「Web出願」と呼ばれるオンラインサービスが登場し、教育機関の間で導入の動きが広がっている。Web出願を利用すれば、教育機関は受験生の氏名や住所といった基本的な情報をデータで入手できる。
ただし桜丘中学・高校の場合、受験生の現状の成績を記した調査書は、受験生本人が別途郵送で同校へ送付する。調査票は現状では紙ベースが一般的であり、受験時の成績も含めてデータとして管理する場合、教職員のデータ入力作業を完全になくすことはできないことになる。
桜丘中学・高校も、入試関連校務の効率化を目的にWeb出願を利用しており、成績データの入力と確認に膨大な時間と作業負荷を要していた。さらに同校の校内システムに備わる成績データ入力機能にも問題があった。画面レイアウトが複雑で、職員にとって使いやすいものではなかったのだ。
システム改修をするにもコストや時間がかかることもあり、現実的な選択肢にはならなかった。そこで職員自らアプリケーションを開発できるFileMaker Proを活用し、課題解決を図った。
「課題特化型アプリ」で入試の当日や前日の作業負荷を軽減
入試当日の作業にもFileMakerアプリケーションを生かす。西岡氏が作成した「高校入試システム」というFileMakerアプリケーションの起動画面には、「入室 問題配布確認」「試験監督確認」といった機能ごとのボタンが並ぶ(画面2)。各機能の名前は、入試で発生する各作業の内容をそのまま反映している。いずれも、簡単な入力で情報共有や進行状況の把握ができるシステムで、入試当日の教職員の動線を効率化するのに役立てている。
このうち入室 問題配布確認の機能は、受験生の入室状況や受験生への問題配布状況を一元管理できる(画面3)。受験生の入室や問題の配布を確認したら、該当する受験生の欄にあるボタンをタップすればよいという簡単な仕組みだ。
試験監督確認機能は、教室や入試科目ごとに、どの教職員が試験監督を務めるのかを一覧で表示する(画面4)。各教職員はこの画面を見て、自分がどの教室の、どの入試科目の試験監督なのかを確認する。
2014年度の入試では、入試当日に加えて前日の会場設営の準備にもFileMakerアプリケーションを生かした。開発したのは全教室の会場設営の進行状況が一元管理できるアプリケーション(画面5)。どの教職員でも、全ての情報をiPadからリアルタイムに把握できるようにして、人海戦術や校内放送による進行状況の確認作業をなくした。
イベントの受け付け作業にも活用
桜丘中学・高校は入試関連校務だけでなく、IT活用授業を公開する「ICTオープンスクール」や学校公開など同校の各種イベントの受け付け作業でも、FileMakerアプリケーションを活用している。
受け付け作業で活用するのは、来校者の名前を入力して名簿を検索し、該当する来校者の欄にある出席ボタンを押すだけで受け付け作業が完了するFileMakerアプリケーションだ(画面6)。来場者の名簿入力は、CSVファイルを読み込むだけで完了する。全ての教職員が、「現在の来校者数」「来校者の所属」といった情報をリアルタイムで把握できる。
以前は紙の名簿で受け付け作業をしており、確認作業に時間がかかって来校者が長蛇の列を成すこともしばしばだったという。FileMakerアプリケーションの利用で、来校者の待ち時間短縮を狙う。
在校生の個人面談記録にもFileMakerアプリケーションを生かす。外回りの教職員には、セルラーモデルのiPad miniを使って外出先から個人面談記録にアクセスできるようにし、訪問先でのコミュニケーション充実に役立てているという。
学習塾などへの外回りを担当する教職員は、訪問先で卒業生の現状が話題に上がることが多い。今までは該当する卒業生の情報を事前に調べていく必要があったが、個人面談の記録をアプリケーション化することで、訪問前の準備を軽減できるようにした。
「一工夫」をFileMakerアプリで実現
西岡氏はこれらのFileMakerアプリケーションについて、「少しの自動化で現場の効率がアップすることを目的に開発している」と話す。目指すべき完成形のシステムがあってインハウス開発をしているわけではなく、個別の校務や各学校行事の課題解決にフォーカスしたアプリケーションの開発に限って、FileMaker Proを利用しているという。
データ管理の方法にも工夫を凝らす。桜丘中学・高校は、全てのデータを学籍番号にひも付けて管理している。年度更新時のデータ処理については、生徒に関するマスターデータ(生徒マスター)の学年を変更すれば、全てのデータに反映される仕組みにしている。またFileMakerアプリケーションで管理するデータ量は必要以上に大きくならないように注意し、秘匿性が求められるデータなど管理が複雑なデータについては、校内システムで管理している。
「デザイン」と「レスポンスの早さ」にこだわり
FileMakerアプリケーションをインハウス開発する上で、西岡氏がこだわったのは「デザイン」と「レスポンスの早さ」だったという。シンプルな画面構成で誰もが使いやすい見た目にすることで、ITが不得手な教職員でも「使ってみよう」と思えるようにした。また、教職員から改善点の要望が挙がれば、早めのレスポンスを心掛けた。
レスポンスの早さを象徴する例を紹介しよう。桜丘中学・高校には左利きの教職員が多く、「左利き用のテンキー配置を設定に加えてほしい」と依頼があった。根本的な機能強化に直結しないこうした要望は、システム開発を外注する場合は優先順位が低くなりがちで、すぐには反映されないことも少なくない。だがこの要望は、同校が目指す教職員全員のiPad利用率向上につながると判断し、優先的に取り組んだという。
その後も、教職員からの改善依頼や「こうすればもっと良くなるのではないか」といった気付きも西岡氏の耳に届くようになったという。桜丘中学・高校の現場では、iPadやFileMakerアプリケーションをさまざまな場面で活用し、効率化や課題解決につなげようという意識が定着しつつあるようだ。
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