教育機関iPadセキュリティ/運用管理座談会【前編】
iPad活用先進校が直面した、セキュリティや運用管理の課題とは?
授業や学校生活に米Appleの「iPad」を活用する教育機関は、どのような考えでセキュリティや運用管理に向き合うべきなのか。先駆的なiPad活用校の座談会から探る。
教育機関への導入が急速に進むタブレット。中でも、操作性や教育系アプリケーションの充実度から、米Appleの「iPad」を選定する教育機関は少なくない。教育機関のiPad導入というと、授業や講義での活用シーンが注目されがちである。だが忘れてはいけないのが、こうした活用を支える日々の運用管理だ。さらに、安全なiPad活用のためには、セキュリティ対策に目を向けることも必要になる。
教育機関がiPadを効果的かつ効率的に活用する上で、セキュリティや運用管理面でどのような課題があるのだろうか。その解決策として最適な手段とは何か。こうした疑問を解き明かすべく、iPad導入の先進校、先進地域のキーパーソンを招き、教育機関のiPad活用で生じるセキュリティや運用管理の課題や、その最適な解決策を検討する座談会を開催した。
パネリストとして、学校関係者3者とベンダー1者を招いた。学校関係者は、桜丘中学・高等学校(東京都北区)の品田 健 副校長、同志社中学校(京都市)の図書・情報教育部主任である反田 任 教諭、茨城県の古河市教育委員会 教育部指導課 課長の平井 聡一郎氏の3者。ベンダーは、iPadの運用管理や関連製品に詳しい、教育産業 チーフICTソリューションアドバイザーの山口宗芳氏だ。モデレーターは、教育ICTコンサルタントの小池幸司氏が務めた。
前編では、iPad活用で生じるセキュリティや運用管理に関する課題と、その解決策に関する議論の内容を紹介する。
パネリスト3者の学校・地域のiPad導入状況
議論の詳細に入る前に、パネリストの学校関係者3者が勤める学校・地域における、iPadの導入状況を整理しておく。
桜丘中学・高等学校
2013年には教職員60人、2014年5月には中学校1年生と高校1年生全員を対象にiPadを導入した。一部の教員用端末を除き、3G/LTE接続機能がないWi-FiモデルのiPadを採用し、2013年には学内の無線LAN環境も整備した。生徒の端末には私物端末を利用する「BYOD」を採用。MDM製品としてマジックハットの「TARMAC」(開発:独TOWER ONE)を導入する他、エヌ・ティ・エスの学校向けポータルサイト「CYBER CAMPUS」も利用している。
同志社中学校
2012年に学校保有として20台、2013年に追加で40台のiPad(Wi-Fiモデル)を導入し、共有利用を開始した。2014年5月には1年生全員にiPadの小型版である「iPad mini」のWi-FiモデルをBYODで導入。現時点ではMDMは利用しておらず、Appleが無償提供するiOS端末管理ツール「Apple Configurator」で管理している。ただし、導入台数の増加を見込む2015年度には、MDMを導入する計画がある。ポータルサイトは、国立情報学研究所が開発したオープンソースの情報共有基盤システム「NetCommons」を利用し、反田教諭が独自に構築した。
古河市教育委員会
同市の古河第五小学校で、平井氏が校長を務めていた2013年度に40台の共用iPadを試験導入した。2014年度は、実証実験用に60台のiPadを借りて運用している。2015年度には、教育委員会としては全国的にも極めて珍しい、3G/LTE回線の利用が可能な「Wi-Fi+Cellularモデル」(以下、セルラーモデル)のiPadを市内の小学校に配備する計画を練っている。この導入と併せて、MDMとポータルサイトを導入予定だ。
それでは、議論の内容を見ていこう。
“学校iPad”のセキュリティ課題とは何か
小池氏(以下、敬称略) 皆さまの学校や地域では、iPadの活用を通してさまざまなメリットを享受していると思います。一方、教育機関がiPadを活用する上では解決すべき課題もあるといわれています。特に最近関心が高まりつつあるのがセキュリティに関する課題です。皆さまの学校や地域での、iPadのセキュリティ対策に関する現状を教えていただけますでしょうか。
桜丘中学・高等学校 品田副校長(以下、所属/敬称略) 学校によってiPad利用のポリシーはさまざまだと思いますが、当校は割と自由にiPadを使ってほしいと考えています。教員用端末には特に制限は施しておらず、生徒用端末にも、ガチガチなセキュリティ対策をしているわけではありません。
ただし、当校のこうした考えに甘え、不適切な行為をする生徒が出てこないとも限りません。そのため、保護者に安心さや安全性を示すことが必要だと考えてMDMを適用しました。中学生、高校生を問わず、生徒のiPadを同一のセキュリティポリシーで運用しています。
公式アプリストア「App Store」の利用は制限していませんが、これまではアプリをダウンロードしないことをルールとしていました。ただ、iPadの利用開始から半年程度経過して利用動向が見えてきたことから、2014年12月からは教育用アプリに限ってダウンロードを認める方針です。もちろん、どんなアプリをダウンロードしているのかはMDMでチェックしているので、教育上ふさわしくないアプリを見つけたら指導することを考えています。
これとは別に、無線LANのネットワーク経路でWebフィルタリングも設定しています。当初、フィルタリングのレベルが強すぎて、学校のWebサイトすら見ることができないという問題がありました。現在は適宜設定変更をして対処しています。
同志社中学校 反田教諭(以下、所属/敬称略) 本校は、生徒がアプリを勝手にダウンロードできないようにするため、App Storeと公式コンテンツストアの「iTunes Store」を表示しないよう、Apple Configuratorで制限をかけています。
Webフィルタリングは、事前設定したWebサイトの閲覧を制限するブラックリスト方式で適用しており、ゲームサイトなど学習に関係ないWebサイトを無線LANのネットワーク側でブロックしています。主に、授業や学校活動の中で問題が発生した場合に、URLをフィルタリングリストに適宜追加していく方法で運用しています。
本校の場合は中学生での導入なので、保護者からは「きちんと制限をかけてほしい」という声が多く挙がっています。一方で、生徒のセキュリティ意識や情報モラルを育成する意味でも、セキュリティ対策は状況を見て継続的に見直していきたいと考えています。
古河市教育委員会 平井氏(以下、所属/敬称略) 当教育委員会の管轄下にある古河第五小学校では現在、デジタルアーツの「i-FILTER」以外のセキュリティ対策は特に適用しておらず、アプリのダウンロード制限なども特にしていません。ただ、既に各家庭でiPadなどのタブレットの使い方を知っている児童も中にはおり、勝手にiPadのログインパスワードを設定してしまったケースもあります。
全国的に見ても今後数年の間、公立の小中学校の8、9割は、タブレットを複数人で共有する「共有型」で使うことになると考えられます。こうした状況を考慮すると、ある程度しっかりとしたセキュリティ設定は必須になるでしょうね。
最適なポリシーは学校ごとに異なる
小池 学校によって、セキュリティに関する考え方や対策はさまざまなのですね。さまざまな学校でiPadの導入支援をされている山口さんにお伺いしたいのですが、セキュリティ対策やポリシー設定は学校によって異なることが多いのでしょうか。
教育産業 山口氏(以下、所属/敬称略) その通りです。現状ではポリシーを一から作っている学校が多く、「他の学校の状況はどうなのか」との問い合わせが非常に多い。モデルケースとしてよく聞くのは、当社がiPad運用を支援させていただいている広尾学園 中学校・高等学校のポリシーです。
広尾学園では、iOS端末とのデータ同期機能を持つ「iTunes」での同期ができないようにiPadを設定しています。生徒がiTunesを導入した家庭のクライアントPCにiPadを接続した場合でも、データの同期はできない仕組みです。加えて、アプリは生徒が自由にインストールできないように制限しています。さらに同校は、セキュリティ対策を討議するための教員などのメンバーを組織し、顕在化した問題への対処を定期的に検討しつつ、学内運用ポリシーを適時修正しながら運用しています。
学校でiPadを大量導入、運用管理はどうすべきか
小池 iPadの活用に当たってはセキュリティだけでなく、多くのiPadをどう運用し、どう管理するかも課題となります。大量のiPadを導入するには、事前設定などのキッティング作業が大変だったと思いますが、いかがでしょうか。
品田 当校では、導入時のキッティングはベンダーにお願いしました。大量導入ではあったものの、学校の作業はそれほど発生していません。導入段階では特に問題はありませんでした。ただ、運用の段階になり、サポートの体制に課題を感じるようになりました。
授業中などでiPadに故障などのトラブルが発生した場合、トラブルが解消するまで生徒を待たせるわけにはいきません。そのためベンダーには、学内の教員やサポートスタッフが運用保守の方法を身に付けることができるように支援してほしいと考えていました。しかし、その辺りで契約当初と話が違う部分が出てきてしまったのです。2015年度は、ベンダーの変更も視野に入れて検討しています。
反田 当校は、iPad自体はダイワボウ情報システムから仕入れ、キッティングは地元ベンダーのケイアイエスユーにお願いしました。実は当校には、1000万円以上の案件の場合、3社に相見積もりを取らなければならないという規定があります。ケイアイエスユーは価格面に加え、当校の教員用Windows端末の導入や設定の実績があることと、地元の業者ですのでトラブルがあったときに20分程度で駆け付けてくれる迅速さを評価しました。
キッティングは、ケイアイエスユーならびに本日いらっしゃっている山口さんの支援を受けながら、第1段階では私の手作業で20台、第2段階ではApple Configuratorを利用して40台を設定しました。ケイアイエスユーは積み上げた経験を生かして対処してくれたと考えています。
トラブル時の体制については、学内にもIT関係の支援を担う担当者が常駐しており、故障についてはその担当者もしくは私が学内で原因の切り分けをします。それでも駄目な場合や完全に破損している場合は、ヤマト運輸がiPadをピックアップし、ダイワボウ情報システムかAppleで修理もしくは交換してもらう、という形を取っています。その際は、購入時に加入した保険が適用されます。
平井 古河第五小学校でこれまでに導入した累計100台のiPadは、全て私が設定しました。校長室にズラリとiPadが並ぶことになりましたが(笑)。ただ、これから市内の小学校23校全てにiPadを配備するとなると、ライトユーザーである教員でも管理できるような仕組みがないと厳しいかな、と考えています。
どんなに優れたベンダーでも、23校全てをぐるぐる回るのはさすがに厳しいでしょう。だからこそ、最低でもトラブル発生時に問題の切り分けができる教員を育てていきたいと考えています。そのためにも、淡路市教育委員会が実施しているように、学校ではなく教員1人ひとりにタブレットを託す、いわば「エバンジェリスト教員」のような制度を提案しています。
ベンダーの力を借りつつ、教員のスキルアップで“自立”を図る
小池 iPadの初期設定や運用については、どの程度をベンダーに任せた方がいい、といった線引きはあるのでしょうか?
山口 シンプルなのは「最初のキッティングや設定は、全てベンダーが担う」という方式だと思います。最初は教員の方々も端末に慣れておらず、いっぱいいっぱいになってしまうことが多いことが、その理由です。
ただ、導入から少し経過すると、教員の方々から「Apple ConfiguratorやMDMでの管理方法を勉強したい」「トラブル時にはどうすればいいのか知りたい」といった声が出てくるようになってきます。そのため、導入の初期段階で全てを決めておくのではなく、教員の方々に余裕が出てきたら適宜必要なスキルを伝えていく方法を取るのがよいのではないでしょうか。
小池 確かに、“ITが分かる教員”を育てることは重要だと思います。今は特定の教員や支援員に設定の負担が集中しているようですが、それでは限界がありますよね。今後はどうしていくべきでしょうか。
品田 例えばiPadの設定については、「やろう」と思えば私自身でできてしまうのですが、なるべく自分ではやらないようにしています。当校では、iPadの運用管理は、複数の教員が構成する「ICTチーム」が担当することにしているので、例えばMDMはこの教員、Apple Configuratorはあの教員、というように、ICTチームの教員に少しずつ覚えてもらうようにしています。
反田 当校では、2013年度くらいまでは自分でかなりの作業をしたり、ベンダーに教えてもらいながら、「40台程度なら失敗したらやり直せばよい」と考えて取り組んでいました。ただ、今は桜丘中学・高等学校のICTチームに相当する「ICT委員会」を組織して、設定情報を欠かさず報告し、共有しています。
平井 公立の小中学校は地域によっては規模が小さく、1学年につき1クラスの学校もあるので、1つの学校の教員だけでITの運用管理チームを作るのは至難の業です。そのため、自治体内でエバンジェリスト教員を毎年設定し、異動なども通じて地域の学校カバー率を上げていくような動きが必要だと考えています。当市ではセルラーモデルのiPad導入を検討しているので、無線LAN周りの問題切り分けに必要なスキル習得の負担を軽減できることも期待しています。
ICT支援員への過度の依存は危険
小池 導入する立場のベンダーとしては、やはりITのスキルやノウハウを持つ教員がいてくれる方がありがたいのでしょうか。
山口 最近、ICT支援員の存在がクローズアップされていますが、予算が許すならICT支援員がいた方がよいと思います、現場の教員の方々にとって、授業に集中しやすい環境が作りやすくなるからです。ただ、ICT支援員が常駐していない学校も少なくないのが現状です。こうした学校の場合、知識がある教員がいらっしゃると、問題解決のスピードが上がるケースがあります。
例えば、ある地域の公立学校ではICT支援員が常駐していたのですが、その支援員が新年度から2校を追加で担当することになり、常駐から巡回体制へと変更になったそうです。最初に支援員が常駐していた学校では、教員にノウハウがある程度蓄積されていたのでまだ運用できているようですが、他の2校は巡回体制からのスタートとなるので大変です。そのため、最初に支援員が常駐していた学校の教員に、他校へ異動してもらうなどして対処することになりました。
平井 大多数の市町村にとっては今後、ICT支援員は現実的な解決策ではなくなるかもしれません。少なくとも、支援員に頼りっきりな状況にはしたくないですね。仮に支援員予算がなくなって仕組みが維持できなくなると、困ってしまいます。各学校や教員は、さまざまなトラブルを経験しながら、自力で対処できる状態にまで持っていくことが必要なのではないかと考えています。
反田 教員の中には、ICT支援員に授業の相談をする人も多いです。ただ、ICT支援員が授業のデザインを全て分かっているわけではありません。授業をデザインできるのは、やはり教員です。
ITの使い方を習得するには、研修を重ねるのがよいという声もあります。ただ、ITが苦手な教員はどうしても使うこと自体が目的になりがちです。授業のどの部分でITを使うかという点に目が向かないと、トラブルが起きたときに「iPadなんて嫌だ」、となってしまう。非常に難しいところですね。
小池 教員に自発的にITスキルを高めてもらうには、IT活用を推進している教員が「あの先生すごいね」と周りから認めてもらえるなど、何らかの“インセンティブ”が必要なのかもしれませんね。
後編では、MDMの具体的な選定方法や価格の目安について議論する。
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教育機関iPadセキュリティ/運用管理座談会
操作性や教育系アプリの充実度から、教育機関の支持を集めるiPad。その運用管理やセキュリティ対策はどう進めるべきなのだろうか。先駆的なiPad活用校のキーパーソンが徹底議論する。
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