賃借対照表や損益計算書の作成が自動になる?
人工知能がいよいよビジネス実用段階に? 業務システムはどう変わる(2/2 ページ)
AIが業務システムの“不便さ”を打破
AIが業務システムに取り込まれることで、業務はどう変わるのだろうか。まず挙げられるのが業務の効率化だ。そこでの“肝”は、システムでルール化されていながらも、人手が必要なイレギュラーな作業の学習にある。
例えば帳票作成時には変更が多いフィールドや入力頻度が高い項目を学習し、カーソルを入力場所へ自動的に移動したり、入力項目を候補から自動で選択したりといった補助機能により使い勝手を向上させる。既存システムは、入力項目や入力方法などをシステムに合わせる必要があり、いわば人がシステムに使われる状況だった。
業務システムへのAI技術の活用で、こうした状況が変わる可能性がある。AI技術を搭載したワークスアプリケーションズのERP「HUE」では、サジェスト機能の社内検証を通じて入力作業に要する時間の5割減が既に確認されており、学習用ログの増加に伴い、7割近く減らすことができる見通しだという。
「AI活用の幅は確実に広がるはず」と牧野氏は予想する。一例が人事への応用だ。人材募集時には膨大な応募が寄せられ、書類審査だけでも一苦労である。AIが過去の採用実績を基に評価基準を学習することで、効率的に選考を進めることができる。さらに評価の高い人材の傾向を学習して、「人材判断の精度向上のみならず、個々人に応じたフォローへのAIの活用により人材開発の質も高められるはずです」と牧野氏は話す。
賃借対照表や損益計算書の作成などを要す決算処理は、極めて煩雑な作業だ。だが手続きのルールは厳格に定められているため、学習による作業の自動化も不可能ではない。「勘定項目の名称変更時にも、データ項目の中身や過去の名称とひも付けることで、既存の学習効果を引き継げるのです」(牧野氏)
AIの恩恵を享受できる業務は、極めて多岐にわたる。
人の仕事は“知恵”と“コミュニケーション”に特化する
AIは企業にとって良いことずくめに思える。だが現場からは懸念点が幾つか指摘されている。代表的な懸念点は「人の仕事がAIに奪われる」というものだ。
業務の“効率化”は“省力化”も意味し、必然的に人の仕事が奪われるとの危惧は現実となる可能性が高い。だが「人しかできない仕事の領域があるのもまた確かなのです」と牧野氏は強調する。
AIの決定的な弱みは、プログラムや解析したデータの範囲にないことへの判断が一切できないことだ。人は感情を持ち、その時々の感情で会話が複雑に変化する。現状のAI技術は感情を踏まえて会話を定義することが難しく、人との深いコミュニケーションも不得手とする。
これらを基に牧野氏は将来をこう見通す。「業務効率の点で帳票作成や経理の仕分けなど、知識が必要とされながら単純作業の面がある業務は、AIに代替される可能性が高いでしょう。しかし、業務の中には課題克服に向け、知恵が求められるものも確実に存在します。コミュニケーションのプログラム化も極めて難しく、人の仕事はそれらにシフトしていくと考えられます」(牧野氏)
AIはプログラムである以上、学習の方向性は人にしか設定できない。そのため、AIが学習により人に害をなすとの恐れは無用だ。「現状のAI開発は、人に害を与える方向には向かっていません」と牧野氏は断言する。
一方、IT部門にとって自社システムへのAIの取り入れが可能かどうか、大いに疑問の残るところだろう。
結論を言えば、一般企業での自社単独での活用は難しい。主な理由は2つ。1つ目は、AIがTPO(時、場所、場合)を基とした大量のログデータから学習する必要があることだ。多様かつ大量なログデータの収集に加え、大量のデータを高速処理するシステムの構築・運用を1社で全てこなすのは極めて難しい。
2つ目は、現状ではAIのプログラムを一から組む必要があることだ。AIとして広く知られるIBMの「Watson」はAIエンジンであり、自社システムに取り込むには、振る舞いを一から規定する必要がある。ただし前例がないだけに、作業は一筋縄ではいかないと容易に想像できるだろう。
AIがシステムの差別化ポイントに?
これらを勘案すると業務でのAI活用は、これから増えるであろうAIを搭載した業務システムの利用が現実解となる。そこには、AIならではの機能が実装される可能性も高い。例えばHUEのITオペレーションの可視化機能もその1つだ。
HUEではミスの発生率やサジェストなどの正確性を、導入企業の使用ログから平均化して開示している。「当社の顧客は1100社以上に上り、ベンチマークとしてそれらの情報を利用することで、自社のITの成熟度を客観的に把握でき、オペレーションの改善にもつなげられるのです」(牧野氏)
もっとも、今後AIがいくら進化しても、人の各種判断が重要なことに今後も変わりはない。
「全てをAIが処理するようになっては、そこでAIの進化が止まってしまいます。つまり、判断精度のさらなる向上のために人の思考は将来的にも不可欠なのです」(牧野氏)。AIはベンダーにとって久しぶりに登場した、あらゆる企業が活用できる技術である。より便利なAIの実現に向けたベンダー各社の知恵の絞り合いは、これからがいよいよ本番になるだろう。
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