デジタル時代のERP再考(4)
マルチデバイス対応だけでは不十分、デジタル時代にあるべきERPの形(1/2 ページ)
ERPシステムによってビジネスの効率化が進んだが、よりリアルタイム性の高いビジネスを実現するには、多様化するモバイルデバイスをうまく生かすことが重要だ。だが、ただデバイスを導入すればよいわけではない。
会計や販売、購買、生産、人事など、企業の基幹となる主要な業務を1つのシステムで支援するERPシステムは1990年前半に登場して以来、多くの企業で導入されてきた。ERPシステムは、オンライントランザクション処理(OLTP)によりシステム内で主要業務に関連する情報をリアルタイムに更新する機能を備え、業務に掛かる工数の大幅な削減を可能にする。またERPシステムに蓄積された膨大なデータをデータウェアハウスに抽出し、エンドユーザーがそのデータに直接アクセスして分析する「オンライン分析処理」(OLAP)システムを別途導入することで、企業活動における意思決定の精度や透明性を高めることもできる。
昨今のインメモリコンピューティング技術によりデータへのアクセスが高速で処理できるようになると、OLTPとOLAPは1つのシステムで実現可能となった。以前はOLAPの機能を実装していなかったERPシステムでも、リアルタイムに高度なデータ分析ができるようになったのである。SAPジャパンの「SAP S/4 HANA」の最新版「SAP S/4 HANA Enterprise Management」はその代表的な例だ。
企業活動をさらに高度化するための技術は絶え間なく進化し続けており、これまで以上にリアルタイム性やインタラクティブ性の高いビジネスを実現することが可能な時代がやってきている。
しかし、こうした最新技術を実装したシステムを導入しただけで、デジタル時代に競争優位を確立でき、先進企業に早変わりできるわけではない。まずバリューチェーンにおける川上から川下に至るさまざまな企業活動からデータを吸い上げ、最新データをリアルタイムにシステムにインプットすることが肝要だ。インメモリコンピューティング技術を採用した高速システム基盤を持っていても、結局は過去の古い情報を参照、分析してビジネスをしているようでは、企業活動そのものを変革することはできない。
技術が進化する時代の中で、企業活動を変革するには、従業員がどこにいてもリアルタイムに情報を更新できるマルチデバイスの活用と、マルチデバイスの活用を促進するユーザーエクスペリエンス(UX)の向上が重要になる。まず、2つの対照的な仮想事例を基に、マルチデバイスの活用とUXの向上を実現した次世代のERPシステムにより、どのようなリアルタイム性の高いビジネスを実現できるのか考える。
現在の現場
ある大手メーカーの営業担当者Aさんは顧客との商談で、顧客の望むスペックや希望の取引量などを手持ちのカタログを見せながら一通り確認し、手書きで見積書を作成。価格交渉を経て、商品の注文を受けた。Aさんは早速、商品名や数量などの注文情報を手書きで記入し、夕方オフィスに戻って受注システムに受注伝票をまとめて入力した。
翌朝、その受注内容を受注システムで確認した倉庫担当者Bさんは、倉庫内で出荷指示書を確認しながら、注文を受けた商品を倉庫の棚から取り出した。Bさんは商品名、数量などの集荷情報を手書きで記入後、デスクに戻って出荷実績をシステムに入力した。
極端な事例かもしれないが、こうした現場では、担当者がなるべく早くシステムにデータを入力したとしても、リアルタイムにインプットされているわけではない。また実際の業務処理とデータ入力のタイミングが異なり、入力ミスが発生しやすくなる。そのため高速なERPシステムを導入しても古い情報や間違った情報を基に業務を進めてしまう可能性があり、商談の提案漏れや在庫切れなどによる機会損失が発生しかねない。
一方、デジタル時代のあるべき現場の姿とはどのようなものなのか。
デジタル時代のあるべき現場
ある大手メーカーの営業担当者Xさんは顧客との商談で、顧客の購買実績や現在の市場トレンドなどに基づく推奨商品をタブレットに表示して提案。さらに顧客の要求に応じて、それぞれの商品在庫や納品までのリードタイム、購入後のサポート体制などもタブレットを活用してリアルタイムに提示した。顧客の欲しい商品が決まるとタブレットで注文書を作成。その場で発注業務を終えた。
発注を受けた倉庫現場では、ロボットが対象商品の在庫を棚から取り出し、倉庫担当者の近くまで運んできた。倉庫担当者は、装着したスマートグラス経由でピッキングの指示を受け、バーコードをスキャンしながらピッキング作業をした。
デジタル時代のあるべき現場では、スマートデバイスやウェアラブルデバイスを積極的に活用している。こうした現場を実現するためには、エンドユーザーが業務の中で無理なく活用できるユーザーインタフェース(UI)が不可欠だ。こうしたUIをデザインするには、業務そのものとエンドユーザー特性の双方を理解する必要がある。まさに業務プロセス設計そのものだ。
こうした現場の変化は、コスト構造や市場の見える化、新たな業務プロセスの構築、現場がデータを見て自ら行動できるネットワーク型組織(分権型組織)へ移行していく上で欠かせないものだ。これによって、企業全体としては変化する顧客の要求や市場状況に迅速に対応でき、顧客との効率的なコミュニケーションや顧客サービスの向上による密接な関係構築と収益増加を見込むことができる。
このような優れたUXは、あらゆる業務効率を向上させ、コストの削減やエンドユーザーの満足度向上につながるだけでなく、新たなビジネスイノベーションによる企業価値を創造することになるだろう。
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