物理コアの役割分担が決め手に
キャッシュメモリと物理コアの使い分けで「ムーアの法則」に挑戦するメインフレームプロセッサ
IBMはメインフレームプロセッサの処理能力を高める手法として、キャッシュメモリと物理コアコントロール技術に着目した。この技術が利用する「HiperDispatch」という機能とともに、その概要を説明しよう。
ムーアの法則がいずれ成立しなくなるのは不可避だが、IBMはこの状況に備えるべく、従来とは異なる方法でプロセッサの能力を高めようとしている。同社が利用するのは、命令パイプライン化、ハイパースレッディング、プロセッサキャッシュといった手法だ。
これらの手法は、システムの処理内容によっては、メインフレーム性能に変革をもたらすかもしれない。メインフレームの性能を最大限に発揮できる手法の1つが、プロセッサのキャッシュメモリと物理コア制御の最適化だ。
メインフレームプロセッサだから重視すべき機能とは
最近のメインフレームプロセッサは、命令パイプラインへのフィードでキャッシュメモリを積極的に利用する。IBMメインフレームの最新モデル「z13」が搭載するプロセッサは、扱う容量とセントラルプロセッサ(CP)からの距離が異なる4レベルのキャッシュメモリを備える。プロセッサの物理コアはそれぞれ1次(レベル1、L1)キャッシュメモリと2次(レベル2、L2)キャッシュメモリを搭載する。3次(レベル3、L3)キャッシュメモリはプロセッサに実装する全ての物理コアが共有し、4次(レベル4、L4)キャッシュメモリは同じドロワーに搭載した全てのプロセッサがアクセスできる。ただし、プロセッサが利用するデータはL1キャッシュメモリ内に存在しなければならない。
メインフレームは、異なるワークロードを高い効率で処理する必要がある。これは、オンライントランザクションと巨大ファイルを処理するバッチジョブなどで、ハードウェアレベルで頻繁なコンテキストスイッチを実施することを意味する。
業務部門と開発部門で共有するメインフレームを例に説明しよう。このメインフレームでは、業務用の論理区画(LPAR:Logical PARtitioning)を稼働するときに作業データのセットをキャッシュメモリに構築する。こうすることで、プロセッサがメモリあるいは下位キャッシュメモリからデータを読み出す時間が短縮するため、パフォーマンスが向上する。その後、ある時点で業務用LPARはCPの制御を開発部門のテストシステムに渡す。開発用LPARは同様に、必要なデータをキャッシュに収集するプロセスを実行して効率改善を達成したら、業務用システムに制御を戻す。最大負荷が掛かったプロセッサでは、この制御システムが切り替わるときに発生するスラッシング(物理メモリが不足してシステムの処理能力がデータの読み出しと書き込みで“手がいっぱい“になった状態)はパフォーマンスの低下とプロセッサ処理能力の浪費につながる。
メインフレームでは、この状況の改善にキャッシュメモリの多層制御とプロセッサの物理コアに対する動的割り当てを利用できる。この方法では各LPARを同じ物理コアに置くことにより、キャッシュデータの読み出しと消去にかかる時間を短縮するのが目的だ。IBMは、この制御を促進するために「HiperDispatch」機能と効果を計測するための2つの指標を提唱した。
HiperDispatchを有効にすると、OSディスパッチャーがメインフレームハイパーバイザー「Processor Resource/System Manager」(PR/SM)と連係する。両者は協調動作を通じて、全てのLPARに対して、同じ物理コアで整合性を維持することにより、キャッシュデータの内容を保持してキャッシュミスを減らし、処理効率を高める。
キャッシュメモリ利用効率を示す指標の1つがRNI(相対ネスト集中度)だ。IBMはさまざまなレベルのキャッシュとメモリからデータを読み出す時間に基づいて、各メインフレームプロセッサモデルによって異なる複雑なRNI計算式を用意している。低いRNIはキャッシュの利用が効率的であることを示す。これはプロセッサが命令とデータを待つ時間が短いことを意味する。
第2の指標がCPI(1命令当たりのクロック数)だ。これは、1つの命令を実行するのに必要なクロックサイクル数を示す。プロセッサからキャッシュメモリまたはシステムメモリへの距離が遠いほど、1つの命令を実行するのに必要なサイクル数が多くなる。CPI値は小さいほど処理速度が速いことになる。これは、同じプログラムの同じデータでも、キャッシュメモリの奪い合いによってCPUの消費量が異なることを示す分かりやすい“ものさし”としても使えるだろう。
物理コアにおける役割分担とは
物理コアの役割には次に示す3つのモードがある。
- バーティカル・ハイ(VH):実質的に1つのLPAR専用になる物理コア
- バーティカル・メディアム(VM):複数のLPARで共有できる物理コア
- バーティカル・ロー(VL):必要になるまで待機する物理コア
一般に、PR/SMはLPARウェイトと論理コアまたは物理コアの数に基づいて適切なモードを割り当てる。LPARウェイトは、区画の相対的重要性とビジー状態(負荷が掛かり過ぎて処理能力をフルで使っている状態)にあるコアの割り当て量を指定する。
HiperDispatchを有効にすると、個々のLPARウェイトを総LPARウェイトで割り、これに物理コアの数を掛けて、1つのLPARが使用できるCPの数を決定する。実際には、z/OS(IBMが開発したメインフレーム用OS)とPR/SMが連係している場合、各z/OSはできる限り1つのVHモード物理コアに処理を割り当てようとする。VHモードの物理コアが過度にビジーになると、MHモードの物理コアに処理を送る可能性がある。
PR/SMはプロセッサが実装するキャッシュ構造を認識しているので、CPを同じ物理コアまたは近くの物理コアにあるLPARへ割り当てることにより、データを読み出す時間を短縮する。PR/SMの意思決定は複雑で分かりにくいため、開発者はIBMの「LPAR Design Tool」をダウンロードして使うのがいいだろう。このツールは複雑な「Excel」ワークシートの形で提供されており、これを使ってLPARを構成するとハードウェアを最適化できる。
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