“脱Excel”か“活Excel”か
脱Excelすべき理由を「コスト削減」と考えていると見落とす、大事な価値とは
一般的に、ITツール導入に期待する効果は「コスト削減」「付加価値」「新技術への追随」でしょう。しかし、脱Excelを目的に何らかのシステム導入を検討しようとする際には、別のアプローチが必要かもしれません。
システムを導入する理由とは
“脱Excel”、つまり「Microsoft Excel」から他のシステムへの移行を検討する場合、検討する理由として「企業内に点在する各種Excelファイルをできるだけ一元管理したい」というニーズが考えられます。「Microsoft Word」(以下、Word)や「Microsoft PowerPoint」(以下、PowerPoint)では、脱Wordや脱PowerPointといったニーズを耳にすることはそれほど多くない印象です。Excelについてのみ脱Excelというニーズが存在するのは、それだけExcelが企業内において利用頻度が高く、ビジネスでも重要なポイントで多く使われているからといえるでしょう。とはいうものの単に一元管理したいという理由だけで、Excelを代替するシステムを導入することはできるでしょうか。クラウドサービスの急速な普及によりシステム導入コストは低下していますが、それでもコストが発生することに変わりはありません。一元管理したいという理由だけでは、そのコストをかける必要性があると経営陣に説得するには理由としては弱いと言わざるを得ません。
一般的にシステムの導入理由として、以下のような目的の達成が挙げられます。
- トータルコストの削減
- ビジネスへの付加価値付与
- 新技術への追随
「トータルコストの削減」は、システムの導入によって、そのシステムがもたらす削減コストが導入前よりも削減し、最終的にはシステム導入費および運用費をペイできるからシステムを導入すべき、という論調です。例えば、毎週出張によって集合し開催していた会議を、電話会議システムを導入して実施することにした場合、出張費用よりも電話会議システムの導入・運用費用が安くなれば、トータルとしてコストは削減されたことになります。近年、主要な業務はおおむねシステム化されていることもあり、製品ライフサイクルも考慮した上で、システム自体のコスト削減を目的として、オンプレミスからクラウドサービスへ移行するといったコスト削減手法が主流になりつつあります。
「ビジネスへの付加価値付与」とは、システムの導入によって企業が提供する製品やサービスに付加価値を付与することです。例えばERP(統合業務)システムは、企業の“ヒト、モノ、カネ”といった資源を最適配分するための基幹システムですが、導入することで製品の生産効率が上がって納期を短縮できるようになったり、カスタマーサポートセンターで迅速な応対が可能になったりするなどの付加価値を生み出すことにつながります。
「新技術への追随」は、例えば人工知能(AI)のように注目されている新しい技術分野に取り組むことで、自社のプレゼンスを高める効果を目指すことです。しかしその技術が一過性のブームで終わったり、取り組みが失敗に終わったりすると、投資費用が無駄になる場合もあります。もちろん、追随しないという判断も可能ですが、投資費用は抑えられるものの、競合がその技術に取り組んで何らかの成果を生み出した場合には、競合と比較されてクライアントからの自社評価が下がる可能性もあります。
これらの理由は、システム導入の検討時において1つだけを根拠にするわけではありません。システムを導入する際の評価ポイントとして使用し、総合的に判断することになります。企業にとってシステム導入する理由が多ければ多いほど、導入の可能性は高くなります。前述した理由以外にもセキュリティ対策など、企業の信頼性向上を理由とするシステム導入もあります。
システム導入目的から脱Excelの価値を考える
では脱Excelを目的としたシステム導入を検討した場合、前述のようなシステム導入の目的も果たせるでしょうか。
Excelを使用する業務には、例えば次のようなものが考えられます。
- データ集計
- レポート作成
- 見積書、請求書などの帳票作成
- ガントチャートなどのタスク管理
- 営業用の名刺リストなどのデータ管理
これらの業務に対して、データ集計やレポート作成であればビジネスインテリジェンス(BI)ツール、帳票であれば帳票管理システムといったように、代替できるシステムは、何かしら存在するといってよいでしょう。
しかし、どのシステムを導入したとしてもExcelを企業内から無くすことは非常に困難でしょう。上記のような業務以外のちょっとした業務にもExcelを使用することは一般的ですし、他社からExcelで帳票や書類を受け取って閲覧するような場面も考えられます。
例えば今までExcelを使用していた業務のために代替システムを導入しようとしているのに、Excelを完全に廃止できない場合、システム導入によるトータルコストの削減効果は見込めないことになります。システムを導入することで、Excelで作業していた時間と比較して業務時間が段違いに削減し、その削減コストがシステム導入にかかるコストを上回るぐらいでないと、トータルコストの削減は難しいでしょう。
ビジネスへの付加価値付与についてはどうでしょうか。例えばガントチャートなどのタスク管理をシステムで一元化することにより、進捗(しんちょく)状況を可視化することは可能です。ただし可視化した進捗状況を確認し、問題がある場合は適切な対策を施すような体制も同時に構築しなければ、納期順守という付加価値を作ることはできません。他にも、例えばBIツールを導入すれば、見たいデータをより早く確認できたり、データをより深く分析したりする環境は整いますが、「それらの結果を用いて何をするのか」が明確になっていなければ、ビジネス上の付加価値を作ることは難しいでしょう。
新技術への追随についても考えてみましょう。例えばExcelで扱うようなデータはAIシステムとの相性自体は悪くありませんし、BIツールや帳票管理システムなどでAI機能搭載をうたったシステムもあります。しかし自社のプレゼンスを高めようという目的の場合、対外的にアピールできるような使い方を考え出す必要があります。導入前にどのような使い方ができるか、仮説をしっかり構築しないと、せっかくの投資が無駄になる可能性が高いといえます。
脱Excelを進めるのに必要なものとは
このように、システムの導入理由に照らし合わせていくと、脱Excelを理由としたシステム導入においては、一般的なシステム導入メリットを享受できることはそれほど多くない可能性が高いことが分かります。このような状況を踏まえた上で、脱Excelを目指すのであれば、Excelが便利な故にもたらす業務の個別化、属人化を排除する経営層の強い意志が必要となります。強い意志を持った上で、現場の反対を忍耐強く説明し、脱Excelを進めるためのツールとしてシステムを導入していくこと――これが遠回りのように見えて、実は脱Excelの一番の近道なのです。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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