製造業の「AR」(拡張現実)活用の利点と課題【前編】
GE、Caterpillar、Boeingが活用 大手製造業は「AR」で何をしているのか?
製造業で拡張現実(AR)の活用が始まっている。実際の活用例を見ると、ARは生産性向上をはじめ、さまざまなメリットをもたらすことが分かる。
拡張現実(AR)をいち早く製造業や研修に取り入れた企業は、職場の業務改善や生産性向上の効果を実感している。一方でハードウェアとソフトウェアに改善の余地があることも見えてきた。
ARは実世界にさまざまなデジタル要素を重ね合わせる技術だ。その用途の一つに遠隔地の技術支援がある。顧客や現地作業者は、前面にカメラを搭載したメガネ型のウェアラブルデバイスを装着すれば、ストリーミング配信される生映像を視聴しながら、遠隔にいる専門家とリアルタイムにハンズフリーで通話ができる。
「製造業の現場ではARも切削工具と同じく道具の一種になる」。そう話すのは、SAS Instituteのシステムアーキテクトを務め、ARに詳しいマイケル・トーマス氏だ。作業者はヘルメットや保護メガネ、ボディーカメラのような装備を身に着けることに慣れている。一般の人も、作業者がそのような装備を身に着けているのを当然のように受け止める。
「空港の保安検査員がヘッドセットを付けていても違和感はない。同じヘッドセットをバーの客が着けていたら、そうはいかないだろう」とトーマス氏は語る。「Google Glass」で分かった通り、ウェアラブルデバイスは一般社会ではなかなか受け入れられなかった。だがGoogle Glassが終わったわけではなく、組み立て工場で活用できる「Google Glass Enterprise Edition」としてよみがえった。
ARとIoT(モノのインターネット)を組み合わせることにより、機械の分析情報をリアルタイムで確認でき、機械を分解しなくても内部を調べられるようになる。
製造現場で始まっているAR活用
製造現場やその研修向けのAR活用は、まだ始まったばかりだ。調査会社IDCの予測によれば、2018年には121億ドルだったゲームその他も含めたARと仮想現実(VR)への世界全体の支出は、2019年には200億ドル以上に増加するという。
コンサルティング会社Kaleido Insightsの共同設立者で業界アナリストのジェイミー・シマンスキー氏は、「現時点で製造業がARを活用できる最大の用途は、オペレーター業務と修理指導だ」と言う。
シマンスキー氏によれば、スマートグラスやスマートフォン、タブレットを使って、物理的な機器に関する情報を現実の視界に重ねて表示すれば、作業者にとって便利だという。例えば機器のモデル名やシリアル番号、修理手順、操作マニュアルなどの情報を表示できる。「製造工場や複数の現場に派遣されるサービス技術者が、旧式の機器やなじみのない機器を扱うとき、必要な情報をARで目の前に表示できれば非常に便利だ」(同氏)
建設機械メーカーのCaterpillarはARをいち早く導入した。同社は、顧客がヘッドセットやスマートフォンのカメラを製品写真に向けるだけで、実物大の仮想モデル映像を即座に呼び出せるようにしたいと考えていた。そうすれば顧客やディーラーが実物を見に足を運ばなくて済む。
シマンスキー氏によると、Caterpillarはサービス技術者の複雑な作業の支援にもARを活用しているという。インターネットに接続せずに使える、自己完結型のモバイルアプリケーションを開発した。サービス技術者はモバイルデバイスを使ったAR環境のオーバーレイ表示によって、作業指示やパーツ組み立て手順、製品データなどを見ることができる。
航空機メーカー大手BoeingもARの導入に取り組んでおり、航空機内部の電気配線業務に試験運用している。技術者はARによってインタラクティブな3D配線図をリアルタイムにハンズフリーで目の前に表示できる。同社は、ARが配線業務の品質向上と作業時間短縮に著しい効果があることが分かったと説明する。
電機大手General Electric(GE)やその傘下のベンチャーキャピタルであるGE Venturesも、製造業におけるARの可能性を早々に認識していた。GEは現場サービス業務や製造組み立て工程、倉庫作業などさまざまなユースケースに、Upskillの産業用ARソフトウェア「Skylight」を採用している。
Upskillの技術は、音声やジェスチャーで操作するカスタムアプリケーションによって作業者を支援する。電力やエネルギー関連の現場サービス研修から、航空機エンジンの製造まで、ありとあらゆる用途に一人称視点の高品質映像/音声を提供する。GEの中心的な適用対象としては、航空機エンジンを手掛ける子会社GE Aviationの製品メンテナンス、エネルギー技術子会社GE Powerのエネルギーサプライチェーン、再生可能エネルギー子会社GE Renewable Energyの風力タービン組み立てがある。
GEとUpskillは、ARを使ったトルクレンチ(「トルク」という回転力を測定したり、設定したトルク値で締めることができるレンチ)用アプリケーションも共同開発した。作業者のスマートグラスからタイムスタンプ付き映像や細密なキャリブレーション(位置合わせ)データなどをリアルタイムに収集・保存。ヘッドセットを装着した作業者がトルクレンチを回すと、このアプリケーションが正確な回転数を把握する。「これによりミスを減らし、現場の生産性を高める」と、GE Venturesのマネージングディレクターを務めるラルフ・テイラースミス氏は語る。
ネジをどのように、どれだけ回せば適切に締まるかが重要となる組み立て工程に対し、UpskillはARとスマートグラスを使って仮想トルクレンチを構築するユニークなアプリケーションを提供している。作業者がスマートグラスを掛けて、ネジを締めると、ネジが適切に締まったか、適切に密閉できたかという情報を処理する。これによって作業効率を向上させ、作業者の視界に投影される品質メトリクスを保存して、その後の監査や品質管理に役立てることもできる。
GEはさまざまなビジネスユニットの現場サービス作業支援に、Upskillの技術を使った別の産業用アプリケーションを活用している。Google GlassなどのヘッドセットハードウェアとSkylightを使って、各種の現場サービスデータをリアルタイムで本部の画面に表示できる。
製造業にARを活用する最大の利点は、広範に導入することによって生産性や効率、品質、パフォーマンスが向上し、コスト削減や価格引き下げを実現できるといった運用上のメリットが大きいことだ、とテイラースミス氏は説明する。
後編では、製造業におけるAR活用の課題と今後を整理する。
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製造業の「AR」(拡張現実)活用の利点と課題
拡張現実(AR)が役立つのはエンターテインメントの世界だけではない。ビジネスにARを生かそうとする動きは、着実に広がっている。製造業でもそれは例外ではなく、既に大手企業の間で具体的なメリットを得るべく取り組みが進んでいる。製造業にARがもたらす可能性と限界を探る。
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