「2024年ISDNデータ通信終了とEDI移行」まる分かりガイド【第3回】
インターネットEDIへの本格移行は時間がかかる、やるべきセキュリティ対策は?
ISDNのデータ通信が終了することを見据えて、インターネットEDIを採用するなら2022年末までには移行を終わらせるのが理想的だ。タイムリミットまでに準備すべき「接続テスト」と「セキュリティ対策」とは。
本連載ではこれまで、ISDNサービス「INSネット」の「ディジタル通信モード」終了の背景やEDI(電子データ交換)のユーザーに与える影響について紹介してきた。これを機にISDNでEDIを運用してきたユーザーがインターネットEDIへと移行する企業が、事前に押さえておくべきポイントや検討事項を紹介する。
はじめにインターネットEDIへ移行する際の大まかなスケジュールを、業界団体、センター側、端末側に区分して図1の通り示す。
移行スケジュールの検討に当たっては、2つのポイントに留意する必要がある。1つ目のポイントは「期限」だ。インターネットEDIの販売に携わるキヤノンITソリューションズの花澤健二氏によれば、移行の事実上の期限は「2022年末」に設定するのが理想的だという。
インターネットEDI移行における「接続先との調整」
INSネットのディジタル通信モードは2023年いっぱい継続する見込みだが、2023年頭からデータ伝送速度の低下が始まる可能性があるため、事実上の移行期限は遅くとも2022年末に設定しなくてはならない。移行に当たっては図1の通り、センター側(主に発注者やサービス事業者)と端末側(主に受注者)との間の接続テストを個別に実施する必要がある。1つのセンターに多くの端末がぶら下がっている場合、テストに長い期間を要す可能性がある。「個別の接続テストにかける時間を確保するためにも、移行は早ければ早いほどよいでしょう」(花澤氏)
花澤氏によれば、接続テストを全て終えるまでの日数を大まかに計算すると「接続する端末側の数×2、3」日になるという。もしセンター側が100社の受注者(端末側)とEDIでつながっている場合は、テストには200営業日、場合によっては300営業日が掛かると見込んでおいた方がいいということだ。200社なら約2年間、さらに多ければそれ以上の日数を要する可能性があるため、あらかじめこれを考慮したスケジュールを引いておく必要がある。
2つ目のポイントは、インターネットEDIへの移行は決して「1社だけでは完結しない」点だ。EDIの標準規約を策定する「業界団体」、発注者やサービス事業者で構成される「センター側」、そして受注者である「端末側」が、お互い密接に連携しながら移行作業を進めることになる。
まずは業界団体が、有識者との意見交換を通じて、その業界におけるインターネットEDI標準規約を策定する。センター側はその結果を受けて、新たに策定された業界標準を基に自社の方針を定め、新システムを整備する。それと同時に、接続している端末側企業に対して方針を説明し、それを受けた端末側企業でもシステムを整備。その後両社の間で接続テストを実施する。
このように「業界団体とセンター側」「センター側と端末側」は密にコミュニケーションを取り合う必要がある。センター側は常に業界団体の動向に気を配りながら、そして端末側は常に自社が接続するセンター側の動きに足並みをそろえて、具体的な対策を進める必要がある。
インターネットEDIには欠かせない「暗号化」「証明書」の知識
さまざまな業界団体が、業界の特性に合わせたインターネットEDI標準の策定作業を進めているが、その進捗(しんちょく)度合いはまちまちだ。特にインターネットEDIの取り組みが進んでいる流通業界では「流通ビジネスメッセージ標準」(流通BMS標準)と呼ばれる標準規格が広く使われており、2019年6月時点では約1万3400社以上が既にこれを採用してインターネットEDIに移行している。他の業界は進捗に多少の差はあるものの、本格的な移行はまだこれからという段階だ。
多様な業界で採用が前向きに検討されているのが「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」(以下、全銀TCP/IP手順)だ。これはもともと、銀行業界の業界団体である全国銀行協会(全銀協)が定めたインターネットEDI向けプロトコルだが、その信頼性の高さから金融以外の業界でも広く採用されている。
全銀TCP/IP手順は、インターネットでやりとりされるEDI情報の盗聴や改ざんといったセキュリティリスクを回避するために、通信内容を暗号化することを定めている。ただし具体的な暗号方式については特に規定がなく、各企業や業界団体がそれぞれ最適な方式を選ぶことを想定している。暗号化方式は、IPsecをはじめとした代表的なものが幾つかあるが、一般社団法人の情報サービス産業協会(JISA)はSSL/TLSによる暗号化方式を推奨している。
SSL/TLS以外の方式には「相互接続性やコストの面で課題があります」と花澤氏は説明する。一方でSSL/TLSは既にインターネットの世界に広く普及している暗号化方式であり、JISAのEDIタスクフォース(現在のJiEDIA。注1)も参加ベンダーによる接続テストを実施しているため相互接続性が高い。対応製品やサービスも多いため「インターネットEDIのための暗号化方式としても適していると考えられます」というのが、同氏の見方だ。ただしSSL/TLSの場合「『証明書の管理』という新たなタスクが発生する点には注意が必要です」と同氏は注意を促す。
※注1 2019年7月に「インターネットEDI普及推進協議会」(JiEDIA)が設立し、JISAのEDIタスクフォースの活動を継承している。
SSL/TLS証明書の運用管理は、Webサイトの運用管理に携わる人にとっては、既にごく当たり前のタスクだ。一方これまで長らく固定電話やISDNの世界でEDIを運用してきた人たちにとっては未知の領域だろう。従って、定期的にSSL/TLS証明書を更新したり、失効確認ができるようにしたり、接続先ごとに異なるSSL/TLS証明書を用意したりといった作業を、EDI管理者が一から学ばなくてはならない可能性がある。場合によっては、SSL/TLS証明書の運用管理を自動的に処理してくれるようなシステムを導入する必要があるだろう。
セキュリティは認証制度と脆弱性対策に注目
SSL/TLS証明書に関しては「どの認証局が発行した証明書を利用すればいいのか」という課題もある。インターネットEDIの取り組みが先行している流通業界では、流通BMSに有効な証明書を発行する認証局の基準が定められており、これに準拠した認証局が発行した証明書を導入することで流通BMSが利用できる。
それ以外の業界ではまだ認証局の基準が定まっておらず、各業界の自主的な取り組みに委ねられている状況だ。こうした状況を改善すべくJISAは、業界を問わずあらゆるインターネットEDIにおいて利用可能なSSL/TLS証明書を発行するための、認証局の基準および認定制度の策定に取り組んでいる。2019年6月10にJISAが公開したプレスリリースによれば、2019年7月に新たに発足した「インターネットEDI普及推進協議会」(JiEDIA)において、こうした作業を進める計画だという。
インターネットEDIのシステムはインターネットを通じて取引相手とデータをやりとりするため、当然のことながらサイバー攻撃のリスクに備える必要があり、脆弱(ぜいじゃく)性対策は必須となる。具体的には、システムを構成するソフトウェアやパッチ、SSL/TLS証明書などに脆弱性がないかどうか、確実にチェックする必要がある。特にセンター側に設置するシステムはサーバをインターネットに公開するため、端末側と比べてより確実に脆弱性対策を講じておかなくてはならない。
基本的には、ファイアウォールやルーターでネットワーク経路を制御し、フォワードプロキシやリバースプロキシを使ってアクセスポイントを限定する必要がある。これらはWebサーバやメールサーバなどを運用する場面においてはごく当たり前の施策だが、EDIの世界においては当たり前ではなく、場合によっては担当者がインターネットセキュリティについて基礎から学ぶ必要も出てくるだろう。
ISDNや電話回線の通信においては、盗聴や改ざんのリスクは「事実上心配する必要がなかった」(花澤氏)が、インターネットの世界では極めて厳格なセキュリティ対策が求められる。このギャップに戸惑うEDI担当者も少なくない。「場合によっては社内のセキュリティ部門や社外のシステムインテグレーター(SIer)、ITベンダーなどの助けも借りながら乗り越えてほしいと思います」(同氏)
インターネットEDIへの移行時に陥りがちな“落とし穴”
最後に、多くの企業が陥りがちな落とし穴や、ちょっとしたコツなどを幾つか挙げてみよう。
軽減税率やインボイス制度も視野に
今後予想される消費税率アップと、それに伴う軽減税率の導入は、当然のことながらEDIにも大いに影響を与える可能性がある。場合によってはインターネットEDIへの移行と同時に軽減税率やインボイス(適格通知書)に関する対処をしなくてはならなくなる。そのため、インターネットEDI移行プロジェクトの計画を立てる際には、軽減税率とインボイス制度への対処をどのようなタイミングで誰がどんな体制でするのか、常に考慮しておく必要がある。採用するインターネットEDI標準や、業界団体が打ち出す標準プロトコルの中で、軽減税率とインボイス制度対応がどの程度考慮されているかについても、早めに情報を集めておくべきだ。
EDIソフトウェア同士の接続性に注意
近年のEDIソフトウェアは、カタログに掲載される仕様としてはどれも代表的なEDIプロトコルに準拠している。しかし実際には、同じプロトコルに準拠している製品同士が、必ずしもすんなり連携するとは限らない。ベンダーによるプロトコルの解釈に差異が生じた結果、同じプロトコルに準拠している製品同士がうまくつながらないことは往々にしてある。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、互いに正常に接続できることが既に検証されている製品を導入するのが無難だ。センター側が「われわれが採用しているシステムと相性がいい製品はこれ」と、端末側が使うべきソフトウェアを推奨している場合もあるので、可能であればそうしたソフトウェアを採用した方が無用なトラブルに巻き込まれずに済むだろう。
証明書や脆弱性のメンテナンス性が重要
固定電話やISDNを使ったEDIシステムと、インターネットEDIシステムを比較すると、導入後の運用に掛かる手間が大きく異なる。前者は一度導入してしまえば、後はさほど手間を掛けずに使い続けられる。後者はWebサイトやメールと同様にインターネットとつながるシステムである以上、証明書の更新やセキュリティパッチの適用といった日々のメンテナンス作業がどうしても発生する。こうしたタスクは、インターネットに不慣れなEDI担当者にとってなじみのない業務ばかりで、つい作業を忘れてしまったり、誤った操作をしてしまったりしがちだ。そこで、人間を支援してくれるような機能を備えたシステムを採用できると便利だろう。証明書や脆弱性に関するタスクを自動化したり、作業負荷を軽減したりしてくれるような機能があれば、すんなりとインターネットEDIへ移行できるはずだ。
今回紹介した各種機能は、EDI製品によって大きな差がある要素であるため、製品選定の際には重点的に検討してほしい。この他にも自社の要件に適したインターネットEDI製品を選ぶために押さえておくべきポイントが幾つかある。次回はこの点について詳しく紹介する。
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「2024年ISDNデータ通信終了とEDI移行」まる分かりガイド
2024年初頭にISDNの「ディジタル通信モード」が終了となる。「ISDNのデータ通信が終了」または「固定電話のIP網移行」といった言葉を目にした読者もいるだろう。ISDNはEDI(電子データ交換)においても通信回線として広く利用されており、自社のEDIが要件に該当していた場合は何らかの対処が必要となる。この連載は、ISDNデータ通信の終了がEDI利用にどのような影響があるか、今後の移行に当たって対策すべきポイント、新システム選定のコツなどについて解説する。
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