「エッジコンピューティング」事例集【前編】
変圧器製造のダイヘンが「エッジコンピューティング」導入 年1800時間を削減
「エッジコンピューティング」は企業にどのようなメリットをもたらすのだろうか。変圧器メーカーのダイヘンが工場にエッジコンピューティングを導入した事例から探る。
「エッジコンピューティング」は、データが発生する場所の近くでデータ処理をする。「エッジ」は、ユーザー側のネットワークの終端であり、データを生み出すさまざまなデバイスが稼働している。
機械学習などの人工知能(AI)技術やモノのインターネット(IoT)技術と掛け合わせることで、エッジコンピューティングはビジネスモデルを一変させる可能性を秘めている。具体的には、次のようなメリットを企業にもたらす。
- データ分析速度の向上
- ビジネスプロセスの改善
- データ伝送における遅延の低減
調査会社Gartnerの予測によると、オンプレミスまたはクラウドの中央集約型のデータセンターではなく、エッジで処理されるデータは、現在の約10%から2025年に約75%まで拡大する。
どのような場面で、どのような理由でエッジコンピューティングが必要になるのだろうか。まずは日系企業であるダイヘンが工場でエッジコンピューティングを導入した事例を紹介する。
併せて読みたいお薦め記事
「エッジコンピューティング」をもっと詳しく
機械学習を取り入れる際に考慮すべきこと
ダイヘンが工場に導入したエッジコンピューティングとは
産業用変圧器をはじめとした産業用機器を製造するダイヘン。同社はこれまで、工場の装置や機械を手作業で監視し、ログを分析していた。常務執行役員で産業電機事業部長を務める山野一郎氏は「大阪工場は製造工程を監視する多数のセンサーでデータを取得し、素早く分析する方法を必要としていた。手作業は減らさなければならなかった」と話す。これに対して同社が下した答えが、エッジコンピューティングだった。
ダイヘンは、FogHorn Systemsのエッジコンピューティング用ソフトウェア「FogHorn Lightning」の機械学習機能を使用することで、産業用変圧器の製造プロセスの監視を自動化した。FogHorn Lightningは複雑な機械学習モデルを構築できる。
FogHorn Systemsは、工場を構える製造業の顧客が、AI技術をエッジに取り入れ、リアルタイムのデータ分析を可能にするためのソフトウェアを提供している。「全てのデータをクラウドで処理することはできない。エッジとクラウドとの間で負荷のバランスを取らなければならない」。同社の副社長兼アジア太平洋事業本部長を務める遠藤雄太氏はこう語る。同社のソフトウェアは、負荷の大きな作業をエッジ側で担う。クラウドやオンプレミスのさまざまなシステムと連携させることで、機械学習とデータ分析を実現しているという。
FogHorn Systemsのリアルタイム分析と機械学習をエッジに導入したことで、ダイヘンは製造工程におけるミスを即座に特定できるようになった。データの精度向上にもつながった。
ダイヘンは、RFID(無線ICタグ)を使って工場全体の温度、湿度、ほこりのレベルを監視する新しいセンサーを導入した。製造する産業用変圧器の各部品の組み立て状況と保管状況を監視するため、センサーが生み出すデータをリアルタイムで収集する。センサーの他、プログラムによって機器を制御するプログラマブルロジックコントローラー(PLC)、データ分析や機械学習のアプリケーションなどを組み合わせることで、エッジでさまざまな洞察を得ている。そうした洞察を基にして、製造する製品の品質に影響を及ぼす可能性のある要因を分析し、改善につなげることができる。
「工場で生み出されるデータを活用することで、工場の生産性を改善できることは分かっていた」と、山野氏は説明する。FogHorn Systemsのソフトウェアによるリアルタイムのデータ処理によって、製造工程に関するデータを視覚的に分析できるようになった。「手作業で実施していた大量の工程を削減し、生産性が高まった」(同氏)
製造工程を可視化するために、ダイヘンが頼ったのはFogHorn Systemsのパートナー企業であるエネルギア・コミュニケーションズ(以下、エネコム)だった。エネコムはIoTアプリケーションの構築を支援するサービスを提供している。
エネコムでITサービス事業部のマネジャーを務める増田剛洋氏は「ダイヘンのネットワークから取得した多様なデータを整理し、その質を向上させる必要があった」と話す。
結果はダイヘンの期待を上回るものだった。導入から6カ月以内に、ダイヘンの大阪工場は、RFIDを使った監視のカバー率が工場内の約70%に達した。これは手作業で実施していた監視とログ分析に換算すると、年間で約1800時間の短縮となる。
詳細な製造工程のデータから洞察を引き出すことで、ダイヘンはビジネスの意思決定をより迅速かつ正確に下せるようになった。
「FogHorn Systemsのソフトウェアを国内の全ての工場に導入すれば、年間で約5000時間の作業工程を削減できる見込みだ」と山野氏は期待を込める。
中編は農業分野でエッジコンピューティングを取り入れた事例を紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「エッジコンピューティング」事例集
データ分析の重要性が高まるに連れ、「エッジコンピューティング」が注目されるようになった。本連載は、企業の事例を基に、エッジコンピューティングが企業に何をもたらすのかを紹介する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー