なぜそうなるかを説明しなさい
企業に求められる「説明可能なAI(Explainable AI)」
AIの普及に伴い、AIの説明可能性のニーズも高まっている。企業はどうすれば、技術的課題と倫理的課題を解決できるのか。
「なぜそうなるかを説明しなさい」。数学を学ぶ学生はいつの世代もそう言われて育ってきた。適切な答えを出すだけでは不十分。学生が最高点を獲得するには、そこへどう至ったかを説明する必要がある。今、機械に対して同じことが求められている。
消費者が次にどの映画を見たいかといった判断だけでなく、雇用や金融、あるいは司法に影響する判断に人工知能(AI)が使われるようになる中で、その理由についての説明を求める声が強まる。
AIとロボット工学を専門とするシェフィールド大学のノエル・シャーキー教授はThe Guardianの取材に対し、機械学習に基づく判断は「偏見に汚染され過ぎていて」信頼できない可能性があると指摘した。
その上でシャーキー教授は、医薬品の実用化が承認されるような形で安全性が証明されるまで、人生を変えさせるような判断に機械学習を応用することはやめるよう提言した。
この脅威に目覚めたIT業界に、次の大きな出費の波が押し寄せている。
シャーキー氏と言い方は異なるものの、機械学習ツール企業H2O.aiのデータサイエンス製品担当上級ディレクターのパトリック・ホール氏は、説明できない判断は消費者に強い「不快感」を覚えさせると語る。
「人の好奇心を満たすためには、説明可能なAI(Explainable AI)を作り出す必要があると企業が認識し始めている。われわれは、このクールで新しく、非常にパワフルな技術をビジネスに普及させようと試み、『コンピュータに否定された』というこの不快な感覚を防ごうとしている」とホール氏は言う。
4400人の消費者を対象に実施されたCapgeminiの面接調査では、倫理とAIに対する見方が企業の評判と業績の両方を脅かすという結果が出た。41%はAIの介入が倫理問題につながった場合は苦情を言うと回答し、36%は説明を要求すると回答。34%はその会社との付き合いをやめると回答した。
この調査結果は、機械学習倫理と説明可能性が別の問題でありながら、つながっていることを示すとホール氏は言う。
「データと機械学習モデルの偏見をテストする方法は差別的効果分析と呼ばれる比較的よく知られたプロセスであり、技術的には説明可能なAIとは異なる。確かに両立は可能だが、私は説明可能なAIを第一線の公平性テストツールとしては決して利用しない」(ホール氏)
機械学習の判断に関する組織の説明を支援する目的でH2O.aiが開発したツールは、独自のAIモデルが出した結果と、他のプロセスを通じて構築されたモデルが出した結果の両方について説明するためのダッシュボードを企業に提供する。
IBMは2019年8月、同じような目的のツールを発表した。同社は「AI Explainability 360」を「機械学習モデルの解釈可能性と説明可能性に対応した最先端アルゴリズムの包括的なオープンソースツールキット」と説明する。IBMはオープンソースコミュニティーに対し、その拡張に貢献してほしいと呼び掛けている。
AIを専門とするIBMフェローのサスカ・モイシロビッチ氏は、企業が説明可能なAIを採用すべき理由は消費者に信頼してもらう必要があるからだと説明する。
「われわれが生活の中で非常に重要な判断を下す参考にする、あるいは判断を導く目的でそうした機械学習アルゴリズムを使おうとするのであれば、安心感や信頼性が真に必要とされる」(モイシロビッチ氏)
ただし、機械学習による判断をデータサイエンティストに説明するのとはわけが違う。これを一般消費者に説明するためには、はるかに創造的な思考が求められると同氏は言う。
「公正性は複雑な倫理問題かもしれないが、ある意味で説明可能性はそれ以上に難しい。人が物事をどう説明し、私たちが自分の周りの世界をどう切り抜けて、どのようにコミュニケーションしているかを考えてみてほしい。私たちがそうしている方法はあまりに多く、違いは大きい。私たちは実例と反例を探したり、物事を要約したりする。私たちは、人の交流のそうした表現力を取り入れて、(AIが結論を出すための)コミュニケーションの手段をどう創出するかを考えた」
「そうした形で説明を引き出す手段はある。そこれでわれわれはこの1年から1年半の間に、人の説明のそうしたさまざまなモードを取り入れて複数のモデルを開発した」
一例として、IBMが開発した「ProtoDash」と呼ばれるモデルはプロトタイプ(予測を引き出す筋書きの実例)を使ってAIの結果を説明する。「Boolean」決定ルールというモデルは、人が解釈可能な一連のルールを生成する。このモデルはFICO(Fair Isaac Corporation)の第1回「Explainable Machine Learning Challenge」で表彰された。
最後に、欠けているものを見つけようとする「対照説明」のコンセプトに頼るアプローチもある。
「例えば医師は、表れている症状と同じくらい、表れていない症状に基づいて患者を診断する傾向がある。もし何かが欠けていれば、それは重要な差別化の要因になる。もしもそれがあったとすれば、全く違う結論になっていたはずだ」。モイシロビッチ氏はそう話す。
不可欠なガバナンス
グローバルコンサルタント企業EYのAI責任者ソフィア・イーサン氏によると、説明可能なAIの意思決定を創出するという課題は、ツールや技術だけの問題にはとどまらない。
イーサン氏は言う。「私が自分の仕事をしているときは、真に優秀なデータサイエンティストの立場に立つことがある。彼らを動機付けるのは正確性だ。説明可能性は、彼らが考えていることではない。少なくとも、最初に検討することではない。それについて考えるときは、制約的要素として考えるかもしれない。彼らは制約を受けることは望まない」
従って、最初からAIプロセスの説明可能性を含む全体的なガバナンス構造を作り出すことは、多くの組織にとって難しいとイーサン氏は言い、「データのトレーニングについて考えるのは、開発ライフサイクルを始めるときだ」と指摘した。
説明可能性は最初から始める必要があると同氏は言う。「これは、後になってコントロールや確実性を持ち込もうとするようなものではない。開発ライフサイクルを通じてリスクの発見と管理を行い、モデルが使われている間にモニターして、想定通りに機能していることを確認する必要がある」
AIの判断の公正さに対する一般の関心は高まっている。最初から説明可能性を構築することは、会社の社会的責任の範囲になるとイーサン氏は予想する。
「社会に対して、精神や肉体の健康に対して、そして環境に対してどんな影響を与えるのか。一般人は全般的に賢くなっている。この問題はブランドの観点から考えられるようになる。人は自分が個人として公平に扱われているかどうかを知りたいと思うだけではなく、もっと広い範囲で物事が公平であり、偏見が入っていないことを知りたいと考える」
AIが倫理的に受け入れられるようになるためには、単純に機械学習の判断理由を説明する以上のことが求められると指摘するのは、サンフランシスコ大学応用データ倫理センターのディレクター、レイチェル・トーマス氏だ。
「AIが人々の生活に真に影響を与える判断を行う際は、説明がなければ人をひどくいら立たせる。だが説明だけでは不十分だ。例えば判断をアピールできる能力のような、何らかの頼れるシステムも必要とされる」
説明可能なAIを最初から構築することの難しさ、そして問題を指摘されたときにそれを正当化することの難しさを考えると、一部組織はそうしたプロセスの一部を飛ばしたい誘惑に駆られるとトーマス氏は言う。
「これは『フェアウォッシング』と呼ばれる。不公正なシステムを取り上げて、自分たちが下した判断をより公正に正当化できる理由を後付けする。もしも性別を理由にローンを断られた人がいたとすると、後に振り返って『これはクレジット信用スコアのせいだ』と言い聞かせる。人は常に、疑わしさが少ない説明を見つけることができる。なぜ説明可能性そのものが、(倫理的AIを作り出すために)不十分かというもう一つの理由だ」
一部の組織は、採用に関する判断や犯罪予測の助けになるAIを約束しているが、トーマス氏は企業があらゆる用途のために一律にAIを採用することに対して警鐘を鳴らしている。
「組織は自分たちの具体的な用途について考える必要がある。何もかもうまくやってくれる魔法のような存在としてAIを見るべきではない。特定の分野では確実な進歩があるかもしれないが、全く進歩がない分野もある。人がこれから何をするかの予想を試みることを前提とするアイデアそのものが、非常に疑わしい」
AIの人気が高まるほど、その影響に対する一般の懸念も強まる。人が理解でき、受け入れることのできる方法で自分の判断について説明できるAIのみが、それを構築する組織にとっての長期的な価値をもたらす。
説明可能AI:用語集
機械学習開発環境の「H2O Driverless AI」は、多数の技術を駆使して機械学習の仕組みに関する説明を支援する。以下にその一例を挙げる。
- LIME(Local Interpretable Model-agnostic Explanations):入力するデータサンプルを変更し、予想がどう変化するかを理解することによってモデルの理解を試みる技術。
- シャープレイ値:ゲーム理論を使って機械学習機能に重要性を割り当て、どれが決定に結び付く公算が大きいかを示す。
- 部分的依存:1つの機能がモデル予測に与える微妙な影響を記述し、そのモデルの他機能の一貫性を保つ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly日本語版
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー