多くのサプライヤーが機械学習アプリケーションを製品化し、誇大宣伝を繰り返している。だがユーザー企業はサプライヤーの思惑通りに踊る気はまだないようだ。
451 Researchが実施した調査によると、これまでに何らかの形で機械学習ソフトウェアを業務に1つ以上実装している企業は5社に1社しかなく、20%の企業はまだ概念実証の段階にあるという。13%の企業が今後12カ月以内に、15%の企業が今後3年以内に機械学習の導入を予定している。だが、3割弱の企業では全く導入の予定がないことが分かった。
興味深いことに、人工知能(AI)の導入を決めた企業の約38%がサードパーティーの機械学習パッケージを導入している。これに対し、オープンソースツールを利用して独自のアプリケーションを構築している企業は27%、サプライヤー固有のツールを利用して構築している企業は24%、サービスプロバイダーの機械学習対応ソフトウェアを利用している企業は11%だった。
451 ResearchでAIアプリケーションおよびプラットフォーム部門のリサーチバイスプレジデントを務めるニック・ペイシェンス氏は、アプリケーションを用いた導入の人気が高い理由を次のように説明する。「機械学習アプリケーションの構築は難しく、多くのソフトウェア開発者がいまだにその方法を理解していない。またデータサイエンティストが不足しており、データサイエンティストの人件費が高騰している。その結果、大きなソフトウェア企業が多くのデータサイエンティストを確保し、他の企業の雇用が進まない状況になっている」
問題なのは全般的なスキル不足だけではない。ユーザー企業にとっての最大の課題にはデータ収集、準備、品質の問題が関係する。AIベースの世界ではデータが全てだからだ。他の分野よりも「ガーベッジイン、ガーベッジアウト」(無意味なデータを入力すると無意味なデータが返される)という格言がよく当てはまる。
サプライヤーは積極的に宣伝活動を行っているが、今後2年は採用が広がる可能性は低い。当面の間、OracleやSAPなどのソフトウェアサプライヤーとIBMやAmazon.comなどのプラットフォームサプライヤーが争いを繰り広げるだろうとペイシェンス氏は予測する。
「市場を巡る争いが起きるのは確実で、決着までには時間がかかる。問題は機械学習を構築すべきか購入すべきか、主要プラットフォームベンダーとアプリケーションベンダーのどちらを利用すべきか、またはその両方を利用すべきかだ」と同氏は言う。
顧客が購入を決めるに当たってのもう一つの課題は、どの機械学習モデルを選ぶかだ。機械学習モデルは貴重な知的財産であり、アプリケーションの機能を制御するため重要な検討事項になる。
ペイシェンス氏は次のように警告する。「Oracle製品を利用している場合、同じモデルをSalesforce.comのサービスで利用することはできない。つまり、全てのレベルで機械学習を巡る争いが生じるだろう」
将来何が待ち受けているかはさておき、以下に挙げる3つの導入事例はアプリケーションサプライヤーの機械学習製品の利用が始まっていることを示している。
Flint Hills Resources(FHR)は、機械学習が今後3〜4年の同社の精製、化学、バイオ燃料事業の効率化を図り、安全性を最大限に引き上げる重要な手段になると考えている。
FHRが「Infor Coleman AI Platform」を導入したのは時間と費用を節約するためだ。Infor Coleman AI Platformは、毎年何億ドルもかかっている保全作業(6カ月ごと)を予知保全型アプローチに移行させるのをサポートする。このアプローチは従来の保全作業よりもはるかにジャストインタイムであり、高額な在庫を保管する必要性が減少する。
FHRでデジタル変革のディレクターを務めるルーカス・ランドール氏は次のように述べる。「当社の重要なユースケースは予知保全だ。必要もないのに6カ月ごとに装置を停止して保全に取り組むことはない。精製処理にとっては全ての装置を稼働しておくのが効率的なので、運用と保全のちょうど良い割合を見つけて作業を最適化することが重要だ」
数カ月前からInforのデータサイエンティストとの連携を開始したところであり、このプロジェクトはまだ初期段階にすぎない。データサイエンティストは2つの精製所の保全に関する10年分の作業指示履歴に基づき、次に作業が必要になる可能性が高い時期を把握するために作業指示のスケジュールを予測するモデルを作成した。このモデルが機能するかどうかを確認するため、現場での検証が行われている。
ランドール氏によると「データをInfor Coleman AI Platformに移行するのは簡単だった」という。多くのテストで確認されたのは、そのデータをシステムが利用できる状態にすることだった。システムで利用するには、正確な結果を得るのに十分な程度にデータがクリーンであることを確かめる必要があった。
「少量のデータでクリーンアップレポートを行ったことはあったが、これほど大規模での経験はなかった。そのため品質プロセスを導入して、機械学習に使えるだけのデータ品質があることを確かめなければならなかった」とランドール氏は話す。
この戦略の次の段階は、センサーの導入になるだろう。センサーのコストは下がっている。センサーを使って「定常状態」以外の温度変化やその他の変化を認識し、設備内で何が起きているかを示せるようにする。最終的には、センサーを現場作業員の代わりに使う。現場作業員は再度技術を習得して、安全で付加価値の高いデータ分析作業を行うようになるだろう。
「企業資産管理をInfor Coleman AI Platformとつなぎ、プロセスデータとセンサーデータを融合させて監視することで、装置の状態と作業指示の状況を把握することが当社の考えだ。この2つを組み合わせることが、予知保全に関する当社のビジョンを実現するのに役立つ」(ランドール氏)
後編(Computer Weekly日本語版2月19日号掲載予定)では、機械学習の残り2つの事例を紹介する。
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