LLMの信頼性や業務適用性を高める技術として注目される「RAG」。その効果を最大限に引き出すための6つのベストプラクティスとは。
AI(人工知能)導入に当たり、自社独自のデータを活用したいと考える企業は多い。そうしたニーズに応える手法として、近年注目を集めているのが「RAG」(検索拡張生成)だ。RAGは、学習データ以外に外部のデータベースから情報を検索、取得し、LLMが事前学習していない情報も回答できるように補う手法だ。
しかし実際には、「RAGを導入したものの期待通りに精度が出ない」「運用がうまくいかない」という課題に直面するケースは少なくない。こうした事態を回避し、社内の情報資産を最大限に生かすには、設計から運用までを見据えた戦略的なアプローチが不可欠だ。本稿は、RAG活用の精度と効果を引き出すための6つのベストプラクティスを紹介する。
RAGの検索精度は、元となるデータの質に大きく左右される。そのため、まず取り組むべきはデータ戦略の明確化だ。まず、自社にとって価値のある情報源を特定する。これには、ナレッジベース、社内レポート、顧客対応の通話ログ、社内Wikiなどが含まれる。
次に、以下のようなデータパイプライン(分析用のデータを準備するための一連の工程)を構築する。
これらは一度きりの取り組みではなく、継続的であるべきプロセスだ。新しい情報の追加や変更を自動的に反映できるよう、ナレッジベースの更新を自動化するワークフローを構築するのが望ましい。
RAGの検索処理では、文書をベクトル(数値のリストや配列)化するプロセスが不可欠だ。埋め込みモデルによって文章をベクトルに変換することで、意味的に類似する文書を埋め込み空間上で近い距離に配置し、意味ベースの検索が可能となる。
例えば、「パスワードをリセットする方法」と「ログインに必要な認証情報を忘れた場合の対応」という文章は、表現こそ異なるが意味は類似している。ベクトル検索は、こうした類似性を正確に捉えるのに効果的だ。
ベクトルの格納および検索で必要となるのがベクトルデータベースだ。代表的な製品には、「Pinecone」「Weaviate」「Milvus」「Qdrant」などがある。既存のデータベースにベクトル検索機能を追加するケースも少なくない。
ベクトルデータベースの選定時には、以下の点を考慮するとよい。
RAGにおいて「どこまで情報を検索するか」は生成結果の品質に直結する。情報が多過ぎるとノイズが増え、少な過ぎると回答が不十分になるため、バランスが重要だ。
検索精度を高めるための具体的なアプローチは以下の通り。
RAGシステムの導入に当たっては、情報漏えいや法令違反のリスクを未然に防ぐため、セキュリティおよびコンプライアンス対応が不可欠だ。
推奨される対策は以下の通り。
プロンプトエンジニアリングとは、LLMから望ましい出力を引き出すためのプロンプト(情報生成のための質問や指示)を作成する設計プロセスだ。LLMの出力品質を大きく左右する要素の一つだ。ユーザー任せにせず、企業側で用途別のテンプレートや出力フォーマット、出典表記のルールを定めておくべきだ。
プロンプト設計のコツは以下の通り。
RAGは導入して終わりではない。時間の経過とともにナレッジベースが古くなったり、情報が偏ったりすることもある。RAGシステムの信頼性を維持するためには、以下のようなガバナンス体制を確立することが求められる。
RAGの導入を検討する際は、初期の段階でアーキテクチャチームや運用チームを含めて議論することが重要だ。これにより、後々のナレッジ統合やスケーラビリティの確保もしやすくなる。
まずは、高品質な構造化データが存在し、明確な用途がある領域から着手するとよい。例えば、カスタマーサポート、社内ナレッジ管理、コンプライアンス関連文書の検索などがある。
導入は段階的なアプローチを採用すべきだ。小規模プロジェクトから始め、成功体験を積み重ねながら範囲を拡大していくことで、リスクを抑えつつ定着を図ることができる。
併せて、社内人材の育成やナレッジの蓄積も、長期的な成功に向けた重要な投資だ。RAGの運用にはデータ整備、ベクトル検索、プロンプト設計など専門的なスキルが求められる。
RAG単独にとどまらず、ファインチューニング(追加学習)や教師あり学習など他のAI技術との組み合わせも視野に入れることで、自社業務に最適化されたAI活用が実現できるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...