もう競争は始まっている
先進企業の量子コンピューティング活用例&実証実験
多くの企業が、将来の競争優位を得るため量子コンピューティングのテストを始めている。量子コンピューティングからメリットを得るには、効果がある領域を特定する必要があり、先進企業はそれを見つけつつある。
D-Wave Systems(以下、D-Wave)は、次世代プラットフォームとして量子クラウドサービス「Leap」と量子システム「Advantage」を公開した。このプラットフォームには、5000超の量子ビットと15ウェイの量子ビット接続を提供するAdvantage量子システムに加えて、最大100万個の変数を含む問題を処理できる拡張ハイブリッドソルバーサービスが含まれている。
同社は量子教育プログラム、開発者キット、シミュレーター、ハイブリッドアーキテクチャ、そしてパブリッククラウドで量子コンピューティングリソースを利用可能にすることに取り組んできた。これらは、企業が量子コンピューティングを実験してそのメリットを理解し始めるのに役立つ。
ビジネスチャンス
2020年の初め、McKinseyパートナーのアレクサンドル・メナード氏、イワン・オストジック氏、マーク・パテル氏とシニアコンサルタントのダニエル・ボルツ氏は量子コンピューティングに関する記事を共同執筆し、ビジネスリーダーが量子コンピューティング時代に向けた計画を検討し始める必要がある理由を説いた。
多くの企業は今後10年以上、量子コンピューティングから大きな価値を得ることはできないだろうと彼らは述べている。だが、5年以内にメリットを得る企業が出るという見方もある。彼らは次のように書いている。「全てのビジネスリーダーは、量子コンピューティングの仕組み、解決に役立つ問題の種類、可能性を生かすためにすべき準備についての基本的な知識を持つ必要がある」
D-Waveが451 Researchに委託し、253社の企業に対して行った調査に回答した企業の5分の4以上は、量子コンピューティングからメリットを得られる応用事例があると答えている。この調査では、回答企業の39%が既に量子コンピューティングの実験を行っていると報告している。
回答企業の半数以上(55%)は、複雑な問題を解くことがビジネス上重要だと答えている。意思決定者の57%は量子コンピューティングの潜在能力が自社に大きな影響を与えると考えていることも分かった。
ただし、現時点で量子コンピューティングを使う計画はないと答えた企業も62%に上る。3年以内に使う計画はないと回答した153社の68%が、量子コンピューティングで解決できる可能性のある問題領域を特定していることを認めている。
451 Researchでリサーチ部門のディレクターを務めるオーウェン・ロジャース氏は次のように話す。「驚くほど多くの企業が既に実験を行っており、その大多数は量子コンピューティングが影響を及ぼす可能性のあるユースケースを念頭に置いている。量子コンピューティングによって優位性が得られることを考えると、今実験していない企業は将来不利になる恐れがある」
ロジャース氏は次のようにも指摘する。「調査の回答は、量子コンピューティングが単に学術的問題や理論上の問題を解くためのメカニズムではなく、財務上の見返りに結び付いていることを示している」
量子コンピューティングの活用と実証事件
自動車メーカーVolkswagenはD-Waveの顧客の1社だ。Volkswagen Group of Americaで高度テクノロジー部門のディレクターを務めるフロリアン・ニューカート氏は次のように語る。「量子コンピューティングは当社にとって新しいものではない。2019年11月、リスボンでバスを配車するアプリケーションを使ってハイブリッド量子アプリケーションを初めて運用した」
「Volkswagenは量子コンピューティングについて理解を深めることを重視している。D-Waveのシステムは、多数の変数を持つ最適化タスクに驚くべきスピードで対処する機会を当社に提供してくれる。これらがビジネスに適した量子アプリケーションの前進につながる」
2020年7月、スペインの銀行Banco Bilbao Vizcaya Argentaria(BBVA)は、動的ポートフォリオ最適化に量子アルゴリズムを使う実験の方法を検討した。動的ポートフォリオ最適化では、非常に多くの変数を使って資産の最適な組み合わせを判断する。時間経過に応じたポートフォリオの運用実績、可能性のある取引手数料、大量売買による市場価格への潜在的な影響の計算に量子コンピューティングを試している。
計算に数百の資産や要因が関係する場合は量子コンピューティングに利点があることを実証するために、AccentureとD-Waveが協力して量子アニーリングを使ったテストを行った。BBVAによると、このテストで有望な結果を得たため、他の技術を使ってこのケースの調査を継続するようチームを説得しているという。
BBVAでリサーチおよび特許部門のグローバル責任者を務めるカルロス・クチコフスキー氏は、量子コンピューティングの金融サービスへの潜在的な影響を議論する中で次のように話している。「量子コンピューティングはまだ開発の初期段階だが、金融部門への潜在的な影響は既に現実になっている。当行の調査は、ツールが十分成熟したときに量子コンピューティングが競争上大きな優位性をもたらす可能性のある領域を特定するのに役立っている。ある具体的なタスクについては、今後2~5年でこの優位性が実現すると考えている」
D-WaveのCEOアラン・バラッツ氏は次のように話す。「量子コンピューティングは企業(特に大企業)が重大な問題を解決する方法を根本的に変えるところまできている。企業のリーダーや意思決定者がビジネスプロセスを見直し、よりアジャイルで革新的になるにつれ、アイデアをビジネスに大きな影響を与える量子アプリケーションに変えるためのツールやサポートが必要になる」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly日本語版
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソミック石川に学ぶ、ICT浸透後に直面した「工数管理」の課題と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
2
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
「有線LAN環境」に関するアンケート
-
5
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
6
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
7
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
8
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
-
9
「データを国内に置く」だけでは不十分 情シスが知るべきAI時代の「デジタル主権」
-
10
AWS障害でも補償ゼロの衝撃 サイバー保険で情シスが見落とす「細則の壁」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
4
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
5
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
9
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
10
少額減価償却資産が40万円未満へ拡大、令和8年度税制改正で押さえるべき変更点
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー