湾岸諸国の医療IT事情【中編】
湾岸諸国が重点投資する医療IT「遠隔医療」「データドリブン」「自動化」とは?
コロナ禍の影響もあり、デジタルヘルスケア産業への関心が世界的に高まっている。湾岸諸国では「遠隔医療」「データドリブンなヘルスケア」「インテリジェントオートメーション」への投資が進んでいる。その理由は。
「デジタルヘルスケア」は急速に成長している国際産業だ。モバイルヘルス(mHealth)、遠隔医療、人工知能(AI)技術、ビッグデータといった技術に支えられている。調査会社Global Market Insightsは、2025年末にはデジタルヘルスケアの市場規模が5044億ドル相当になると予測する。ここで言うデジタルヘルスケアとは、医療ITとデジタルコミュニケーションを広く網羅した概念だ。
市場調査会社IDCの中東・アフリカ地域産業ソリューション担当プログラムマネジャーであるジェビン・ジョージ氏は、デジタルヘルスケアへの関心の高まりに刺激されて、医療が湾岸諸国で最も早く拡大する産業分野になると予測する。前編「コロナ禍が早めた『デジタルヘルスケア』の普及 湾岸諸国で急進の医療IT改革」に続く中編となる本稿は、湾岸諸国の医療ITへの投資動向を解説する。
ジョージ氏によると、おおまかに「遠隔医療」「データドリブンなヘルスケア」「インテリジェントオートメーション」の3分野が、デジタルヘルスケア投資の重点になる。
湾岸諸国が注目の「遠隔医療」「データドリブン」「自動化」
遠隔医療は、ウェアラブルデバイスが収集した生体情報を利用し、Web会議によるコミュニケーションを通じて、オンライン診療や個人の健康管理を実現する。データドリブンなヘルスケアとは、医療機関が連携して患者のデータを共有し、患者がシームレスな医療体験を得られるようにするための技術分野だ。インテリジェントオートメーションはAI技術を用いた高度な業務自動化のことで、医療においては機械学習による診断支援、ロボット手術、IoT(モノのインターネット)に基づくアセットトラッキングなどがある。
デジタルヘルスケアの分野は、運営効率化を目指す湾岸諸国の医療機関にとっての助けになっている、とジョージ氏は言う。「病院運営のスリム化とコスト削減は、病院経営者にとって最大の優先事項だ」と同氏は指摘。プロセスの自動化、データドリブンの知見、IoTによるアセットマネジメントなどの技術が、病院経営のために活用されつつあるという。
患者体験と満足度の向上も、湾岸諸国の医療機関にとって鍵となる優先事項だ。場所にとらわれない治療や効率化された治療体験など「デジタル技術を利用して患者にシームレスな体験をもたらすことが最も重要だ」(ジョージ氏)。
デジタルヘルスケアによるコスト抑制に期待
システムインテグレーターのCloud Box Technologiesでマネージングディレクターを務めるランジット・カイッパーダ氏は「がんや糖尿病といった非感染性疾患(NCDs)に対処するコストの増大は、湾岸諸国の政府当局にとって大きな懸念になっている」と話す。
「デジタルヘルスケアはNCDsの管理に役立つ可能性がある」とカイッパーダ氏は言う。同氏によると、医療機関はウェアラブルデバイスを用いることで、患者の運動量やカロリー消費を追跡し、慢性疾患を効率的に管理できる。ペースメーカーといった植え込み型デバイスの中にもインターネットを介して定期的にデータを送信する製品があり、臓器の状態をモニタリングして術後のリスクを低減可能だという。
カイッパーダ氏は、医療機関が情報をより正確かつ精密に処理する能力を獲得し、地域医療を改革する動きの最前線で活躍している技術こそがAI技術だと考えている。同氏によると、湾岸諸国は遠隔医療関連の技術導入を急速に進めており、世界中の医師に門戸を開いて地理的境界を乗り越え、地域医療にかかるプレッシャーを緩和している。
後編は、湾岸諸国がデジタルヘルスケアを推進する上で解決すべき課題を整理する。
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