MetaのAIモデル学習で揺れるEU【後編】
「欧州からGPT-5は生まれない」――EUのAI企業が苦しむ“規制疲れ”の実態
個人データの取り扱いに厳しいEUで、Metaが個人データを使ってAIモデルを学習させることが許可された例は、EUのAI業界にとって朗報だとの見方がある。厳格なプライバシー規制と革新の両立は可能なのか。
Meta Platforms(以下、Meta)が、同社の大規模言語モデル(LLM)「Llama」の学習に欧州連合(EU)居住者の個人データを利用することが認められた。この決定は、停滞が懸念される欧州のAI業界にとって「追い風」になると歓迎する声が上がる。
一方で、EUの厳格なプライバシー規制が技術革新の足かせとなり、米国企業との競争力に致命的な差を生んでいるという“悲鳴”も上がっている。欧州のAI業界が抱える“規制疲れ”の実態に迫る。
AI開発で後れを取るEU
併せて読みたいお薦め記事
連載:MetaのAIモデル学習で揺れるEU
Metaと法規制
Metaのドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)担当公共政策ディレクターであるセミヨン・レンズ氏によると、EUの規制によって、Llamaの新バージョン「Llama 4」のEUデータによる学習とその後の活用は6カ月から18カ月遅れ、EU圏内の文化に関する文脈理解能力の限界も生じている。一方で、米国やインドの企業はすでにこのモデルを活用しているという。
EUの執行機関である欧州委員会の議題は、EUの競争力を向上させ、他国のAI技術の進歩に追い付くための緊急の取り組みが中心となっている。2024年夏にEUの規制がLlamaの学習とその後の展開を停滞させる以前から、AI分野においてEUが大きく後れを取っていることは明らかだった。
EUのAI企業Pleiasの共同設立者イワン・ヤムシチコフ氏は、今回のMetaに対する許可がEUの市場を活性化させると考える。米国企業がEU圏内で、米国と同じ条件で事業を展開できる自由を得ることによって、EUへの投資が加速する見込みがあるためだ。
ヤムシチコフ氏は、Metaが主張するように、「EU企業はEU居住者の個人データで学習したLlamaから利益を得られるようになる」と考える。一方でこの構造は、米国の資金や技術がなくても、EUのAIベンダーがAI技術開発に取り組む上での「ゴーサイン」でもあるという。
「Metaのように厳しい基準で審査される企業でさえ、個人データを用いたAIモデルの学習が認められるならば、他の企業も同様に認められるだろう」とヤムシチコフ氏は付け加える。EU規制当局に対して、同氏は「ビジネス、イノベーション、社会全体の利益のバランスを取ること」の重要性を伝える。
EUの大手AIベンダーSiloAIの共同創設者、ピーター・サーリン氏は、「欧州委員会の焦点が規制から成長とイノベーションの実現に移ったことをうれしく思う」と語る。サーリン氏は、EUの起業家が事業を拡大しようとする際の障壁に対して、欧州委員会が適切に対処することが「極めて重要だ」との意見を示す。
欧州の別の大手AI企業の法務顧問は、匿名を条件に、「規制がEU市場に損害を与えている」と語る。この法務顧問は、「EUの一般データ保護規則(GDPR)やAI法(Artificial Intelligence Act)の下で生まれる規制は、EUのイノベーションに対する大きな脅威だ」と懸念する。
「米国人はまず行動して、もしグレーゾーンであれば、後から許しを請うが、欧州人はただ実行しないだけだ」とこの法務顧問は言う。そしてこれが、米国のIT企業が巨大化し、欧州の企業が小規模なままである理由だという。「同じことが今、EUのAI企業にも起きており、『GPT-5』やLlama 4のような大規模のEU製AIモデルは現れないだろう」と同氏は示唆した。
法律事務所Goodwin Procterの弁護士であるグレッチェン・スコット氏によると、Metaに関する今回の決定はEUのAI業界にとって朗報であり、規制当局がイノベーションを受け入れていることを示している。同時に、その法的な正当性は「欧州司法裁判所(ECJ)が判決を下すまでは不確かなままだろう」とも話す。「最終的には最高裁判所を通じてしか解決できない。GDPRはAIモデルの学習に対処するようには作られていない」というのがスコット氏の見解だ。
プライバシー活動家マックス・シュレムス氏が率いるドイツの権利団体NOYBは、Metaに対してAIモデルの学習停止を求める法的手続きを進めている。Metaの最高技術責任者(CTO)アンドリュー・ボスワース氏は、2025年6月開催のカンファレンスで、同社のスマートグラス「Ray-Ban Meta」について「エンドユーザーが聞いたり、見たり、行ったりしたことの全ての文脈をAIモデルが理解すれば、エンドユーザーにとって大きな助けになる」と語った。NOYBはこの発言を受けて、欧州中のデータ保護当局にMetaのAIモデル学習を停止させるよう要求する書簡を送った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget発 グローバルITピックアップ
TechTargetジャパンの記事の一部で生成AIを補助的に活用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳・編集して国内向けにお届けします。編集部による内容の確認を徹底しています。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー