MetaのAIは“違法”か? 「Llama」学習を巡りEU最高裁へMetaのAIモデル学習で揺れるEU【前編】

Metaは同社のLLM「Llama」の性能向上のため、EU居住者の個人が公開したデータによる学習を開始した。EUのデータ保護当局はこの動きを問題視し、法廷闘争は最高裁まで続く見通しだ。データ活用はどこまで許されるのか。

2025年09月15日 08時00分 公開
[Mark BallatdTechTarget]

 欧州連合(EU)は、一般データ保護規則(GDPR)の観点から、Meta Platforms(以下、Meta)による人工知能(AI)モデルの学習を抑制しようとする動きを見せている。この差し止めはいったん取り下げられたものの今後も対立は続き、最終的には欧州司法裁判所(ECJ)で決着が着く見込みだ。

何が起こったのか

 Metaのオープンソース大規模言語モデル(LLM)「Llama」の学習は、法的な攻防の末に始まった。

 当初、Metaは学習の開始日を2025年5月27日(中央ヨーロッパ時間)と発表していたが、これに対してドイツの公的な消費者団体が学習の差し止めを求めて緊急申し立てを実施した。しかし学習が始まる4日前に当たる同月23日、ケルン裁判所はこの申し立てを却下した。この司法判断を受けて、同社は予定通りAIモデルの学習を本格的に開始した。

 この学習は、EU圏内のデータを学習することで得られる文化的知識を活用する、MetaのAIモデル搭載スマートグラス「Ray-Ban Meta」といった製品に不可欠なものだ。そのためEUの一部のAIベンダーは、Metaに対する裁判所の司法判断を歓迎した。それらのベンダーの間には、「過剰な規制が業界の発展を妨げており、欧州委員会(EUの執行機関)が進める『AI法』(Artificial Intelligence Act)の施行がビジネスを抑制するのではないか」という懸念があるからだ。

 ただし今回却下されたのは、あくまで緊急の差し止め命令であり、Metaのデータ利用の是非を問う本案訴訟は、原稿執筆時点の2025年7月でまだ審理されていない。

それでも学習は停止すべきだと主張する理由

 この差し止め命令の申し立てを支持していたハンブルクのデータ保護委員長トーマス・フックス氏は、自身が管轄するハンブルク州のデータ保護監督機関は「MetaのAIモデル学習は停止されるべきだ」という考えを撤回していないと主張する。

 フックス氏は当初、GDPRに基づくプライバシー保護の緊急権限を行使することを検討していた。しかし同氏はこの手続きを取り下げた。その背景には、MetaのEUにおける主要監督機関であるアイルランドのデータ保護委員会の判断がある。同委員会は、Metaが人々のプライバシーを保護するために厳格な措置を講じることを条件に、AIモデルの学習を進めることには「正当な利益がある」と認めたのだ。

 フックス氏は、今回の判決はあくまで緊急措置に関するものであり、本案の最終的な判断とは異なると強調した上で、法廷闘争を継続する姿勢を示した。

 MetaやEUのAIベンダーは、「EUの複雑なAI規制が業界の発展を妨げている」と主張しているが、フックス氏はその主張に同意していない。

 フックス氏によると、この決定はEU管轄地域にある企業が、自社のAIモデルの学習に公開されている投稿を使うことに「ゴーサイン」を与えたとも言える。「Metaのような厳しい審査の対象になる企業でさえ、正当な利益を根拠として個人データを用いたAIモデルの学習が認められたのであれば、他の企業もおそらく認められるだろう」と同氏は懸念を示す。

 Metaのドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)担当公共政策ディレクターであるセミヨン・レンズ氏は、「MetaのAIモデル学習を中止させれば、ドイツのAI業界は弱体化する」と主張する。ドイツ企業は、EUのデータからドイツの文化的、歴史的、言語的なニュアンスを学習したLlamaを使ってAIアプリケーションを構築できなくなるからだ。「国ごとにAI規制が異なれば、EU域内を1つの巨大な市場として扱う『単一市場』の原則が崩れることにもなる」と同氏は警告する。


 次回は、EUのプライバシー保護の考え方が同地域のAI技術開発に与える影響を考える。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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