「思考の相棒」として使えるかが分かれ目に
ExcelもAIも同じ――"使える人"と"使いこなす人"の決定的な違い
AIのせいで仕事が減ると言われる時代、評価される人材はAIを使って何をしているのか。その差を分ける“使い方”をAI Mindset創業者でニューヨーク大学の最高AIアーキテクトが紹介する。
AI(人工知能)の活用が進む中で、企業の現場では「生成AIツールを使ってはいるが、成果につながらない」という声がある。一方、ユーザーの中には、AIで仕事の進め方そのものを変え始めている場合がある。その違いはどこにあるのか。AI Mindset創業者で、ニューヨーク大学(New York University)経営大学院でChief AI Architect(最高AIアーキテクト)を務めたコナー・グレナン氏の考え方を紹介する。
「使っているのに差がつく」理由
グレナン氏は最初に、「自分はもう取り残されているのではないか? どうやってついていけばいいのか? 自分の仕事はなくなってしまうのではないか」と不安に思うユーザーにこう声を掛けた。「第一に、ストレスを感じないでほしい。誰もが『これを使ってこんなものを作った』と大騒ぎしているが、そんなことは気にしなくていい」
グレナン氏によると、AI活用の現場で起きている差は、「ツールの違いではなく使い方の深さ」にあるという。同氏によると、多くの人はAIツールを「一応使っている」状態にとどまっているが、それでは仕事の質は劇的には変化しない。
「最も重要なのは、自分が使いやすいAIツールを、自分のやっていることに適用し始めることだ」(グレナン氏)
この構造はMicrosoftの「Excel」に似ている。Excelは誰もが使うソフトウェアだが、業務を根本から変えるレベルで使いこなしているユーザーは限られる。AIも同様で、「質問できる」ことと「仕事を変えられる」ことの間には大きな隔たりがあるとグレナン氏は指摘する。
グレナン氏によると、AIツールを通して実際に仕事を変えている人は、AIツールを単発の質問ツールとしてではなく、継続的に対話する相手とみているという。家庭でも仕事でもAIツールを使い、思考の途中にAIを介在させる。その結果、アウトプットの質だけでなく、考え方そのものが変わる。
AIは「検索」ではなく「思考の相棒」
多くのユーザーがAIを誤解する理由は、そのインタフェースにある。チャット形式というフォーマットが検索エンジンに似ているため、無意識のうちに「質問して答えを得て終わる」という使い方になってしまう。
しかし実態は異なる。AIは検索エンジンの延長ではなく、思考を補助する存在だ。例えば「近くのホテル」を調べたい場合、検索エンジンであればキーワードを入力すれば完結するが、AIをパートナーとして使う場合は、自分の目的や行動、価値観まで含めて相談することになる。その結果は単なる情報の羅列ではなく、意思決定の補助になる。
つまりAIツールは何かを置き換えるツールではない。思考の進め方そのものを変える存在である。この前提に立てるかどうかが、活用の分岐点になる。
AIは「答え」ではなく「プロセス」を変える
AIの価値は、正解を出すことではない。むしろ、正解に至るまでのプロセスを変える点にある。
ある企業の意思決定を例にすると、AIツールが最終判断を下すことはできない。しかし、その判断に至るまでのプロセスを分解すると、ほぼ全ての工程でAIが機能する。情報収集や論点整理、仮説の検証、抜け漏れの指摘といった領域で、思考の補助として強力に働く。
重要なのは、結論をAIに委ねることではなく、思考の各段階にAIを組み込むことだ。AIは「回答マシン」ではなく「プロセスマシン」である。この認識が、AIツールの使い方を変える。
「ツールが非常に速く変わる中で、どうやって着いていけばいいか?」。グレナン氏はこう尋ねられることがある。この質問に対して同氏は、「ついていく必要はない」と話す。同氏は仕事柄、AIツールの最新情報を追っているが、最新情報は全人口の99.9%には関係ないという。「昨晩出たばかりのGeminiやClaude 4.5、GPT-5.2の違いは、ほとんどの人にとって重要ではない」(グレナン氏)
グレナン氏は続いてこう語る。
「スプレッドシートやスライドを作る際、『どのツールが一番か?』と悩むより、『自分のプロセス』を考えてほしい。『AIツールが素晴らしいスライドを作ってくれない』と不平を言うユーザーがいる。しかし、素晴らしいメッセージを考えるのがあなたの仕事であり、給料をもらっている理由だ。そこを丸投げしてはいけない。代わりに、『こういうメッセージを伝えたい。各スライドには何を載せるべきか? どんなビジュアルが効果的か?』とAIツールに相談し、自分自身でスライドを構築するのだ」
評価されるのは「作業量」ではなく「再設計」
AIの普及によって、評価軸も変わり始めている。これまでは多くの業務をこなすことが評価につながったが、今後はその業務をどう変えたかが問われる。
単に自分の業務を早く終えるだけでは評価されにくくなる。重要なのは、そのやり方を他のメンバーにも適用できる形にすることだ。プロセスを再設計し、それを組織内で再現できる状態にすることで、初めて価値が生まれる。
実際、同じ成果でも「自分だけ業務を効率化した人」と「チーム全体のやり方を変えた人」とでは、評価は大きく異なる。AIはこの差をさらに拡大させる。
AIで変わるのは「仕事」ではなく「入口」
AIがもたらす変化は、業務そのものの消失ではない。より正確には、エントリーレベルの業務の変化である。
これまで若手は単純作業を通じて経験を積み、スキルを身に付けてきた。しかしその領域がAIに置き換わることで、従来の成長経路が機能しにくくなる。この問題は、企業にとっても無視できない。
その結果として求められる人材像も変わる。AIの出力をそのまま使うのではなく、その質を判断し、業務全体の構造を理解し、必要に応じて修正できる人材が必要になる。単なる利用者ではなく、設計者としての役割が求められる。
情シスの役割は「業務の設計者」へ
この変化の中で、情報システム部門(情シス)の役割も変わる。従来のようにツールを導入・管理するだけでは不十分になる。
今後は、AIを前提とした業務プロセスを設計し、それを組織全体に展開する役割が求められる。AIは導入すれば効果が出るものではなく、使い方によって結果が大きく変わる。そのため、標準的な使い方やプロセスを定義し、再現性を持たせることが重要になる。
企業はもはやAIを導入すること自体を目的としていない。AIによって働き方を変えることを求めている。その実装を担うのが情シスだ。
差を生むのは「ツール」ではなく「捉え方」
AI活用で差がつく本質は、ツールの違いではない。AIを何として捉えるかにある。
AIツールを検索ツールとして使えば、業務の効率化は進むがそれ以上の変化は起こりにくい。思考の相棒として使えば、仕事そのものが変わる。この違いが、そのまま成果と評価の差になる。
AIツールは便利な補助ツールではない。業務の前提を変える存在である。その前提に立てるかどうかが、今後の分岐点になる。
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