AI活用に必要なデータ基盤の鉄則
「データ散在ならAIは無理」 Citiが18カ月で挑んだ脱サイロ
AI活用を掲げてもデータが散在していては成果は出ない。世界5拠点に分散したデータを18カ月で統合し、数千時間を削減したCitiの事例から、AI本格活用に必要なデータ基盤とガバナンスの要点を解き明かす。
Citi Global Wealthは過去18カ月をかけて、各地域のデータセンターに分散していた顧客データや市場データを単一のクラウドプラットフォームに移行させた。同行のIT部門のリーダーらは、同行がAIを本格的に活用する前にこの取り組みを進める必要があったと説明した。
米金融大手Citiの富裕層向けウェルスマネジメント部門である同組織はこれまで、シンガポール、香港、アラブ首長国連邦(UAE)、チューリヒ、米国の各拠点で独自にデータを保持していた。
「AIを活用しようと野望を抱いても、データを1カ所に集約していなければ実現は不可能だ」。Citi Global Wealthでマネジングディレクター兼データアナリティクステクノロジー部門グローバルヘッドを務めるプラティーク・ゴエル氏は、2026年8月に開催された「Snowflake World Tour Singapore 2026」でそう語った。
本記事では、世界5拠点に分散したデータを18カ月で統合し数千時間を削減したCitiの事例から、AI本格活用に必要なデータ基盤とガバナンスの要点を解き明かす。
Snowflakeの採用に踏み切った理由
富裕層顧客へのサービス提供は、顧客が同行に預託しているポートフォリオと、それらの資産が属する市場についての正確なデータにかかっている。「市場が変動すれば、ポートフォリオは一変する」(ゴエル氏)
データへのアクセス性も課題だった。データが常に利用可能な状態でなければ、リアルタイム処理の価値は薄れてしまう。さらに、データの受け渡しの過程で人手が介在するたびに「疑念が生じる余地」が生じ、データの信頼性という問題もあったとゴエル氏は説明する。
Citiは他社がどのようにデータの課題を解決したかを調査した上で、2017年からアジア太平洋地域で事業を展開するSnowflakeの採用に踏み切った。その後、テクノロジースタックを選定し、データアーキテクチャを決定して、双方にガバナンスを整備した。
同行はこれまでTeradata、SAS、Hadoop、Oracleを運用していたが、「必要だったのはクラウド対応のソリューションだった」とゴエル氏は述べる。同行はSnowflakeのほかにAmazon Web Services(AWS)とも連携し、データの重複を避けるという原則を当初から定めた。データはグローバルで1回だけ保存し、あらゆる用途で同じデータを参照する仕組みだ。
Citiのデータアーキテクチャは、ブロンズ、シルバー、ゴールドの各層からなる「メダリオンアーキテクチャ」を採用している。ブロンズ層には各ソースシステムのデータモデルを格納し、シルバー層では共通のタクソノミー(分類体系)の下でそれらを統合する。同行はこれを「統合データモデル」と呼ぶ。ゴールド層には特定の用途向けに構築したモデルを格納し、エンドユーザーやシステムにデータを配信する際に適用する。
ゴエル氏によると、シルバー層はこのアーキテクチャで最も重要かつ基盤となる部分だという。共通の定義はIT担当者だけで決められるものではないため、タクソノミー策定の際にはビジネス側の関係者も巻き込んだ。
ガバナンスの範囲はデータリネージ(データの系譜)、データ品質の検証、照合作業に及ぶ。「適切なテクノロジーやデータアーキテクチャを導入しても、データの信頼性を利用者に証明できる強固なガバナンスがなければ意味がない」(ゴエル氏)
5つの領域で投資効果を測定
Citiは、プラットフォームの投資効果を5つの領域で測定している。1つ目はレポーティングと経営管理情報だ。以前はデータがあちこちに分散していたためレポートの作成に何週間もかかっていたが、現在は数日で済むようになった。
2つ目はデータ分析で、ゴエル氏はこれが最大の効果をもたらしたと語る。CitiはSnowflakeと協力し、分析ツールをデータセットに直接接続した。「データクリーンルーム」を活用することで、ビジネスユーザーが従来なら何週間も何カ月も待たされていたデータに直接アクセスできるようにした。
3つ目はシステム連携だ。従来は日次バッチ処理によるファイル送信でデータを共有していたが、現在はAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)やイベント駆動でデータがやりとりされる。同行はAI活用の深化に伴い、「Model Context Protocol」(MCP)サーバの活用も検討している。
4つ目は機械学習で、主にリスク管理、財務、コンプライアンスの各チームが利用している。Citiは特徴量開発からモデル構築、デプロイまでをカバーするパイプラインを構築し、本番環境のモデルについてデータの傾向変化(データドリフト)を監視している。
5つ目は適切なコンテキスト層の構築だ。「データは基盤層であり、その上に必要な第2の層がコンテキスト(文脈情報)だ」とゴエル氏は述べる。「基盤となるデータ層の構築は大いに成功した。コンテキストを構築する取り組みは始まったばかりで、ここでAIの真のインパクトが現れる」(同氏)
かつて何カ月もかかっていた作業がいまや数週間で完了し、数千時間もの時間が節約されたという。だが、ゴエル氏はこうした成果は当たり前に得られるものではないと付け加える。
「IT業界に20年以上携わる中で、投資を行ってもステークホルダーにとって有意義な成果やメリットにつなげられないケースを何度も目にしてきた。だが今回の取り組みでは、その価値を十分に伝えることができている」(ゴエル氏)
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