現場機器のデータ化とセキュリティの壁
製造業以外も直撃する「ITとOTの融合」 現場機器を巻き込む情シスの新潮流
従来は工場やインフラだけの話だったOTが、普通のオフィスや学校の情シスにも降ってきている。セキュリティ確保やデータ品質の壁を越え、ITとOTの境界線をどう統治すべきか。直面する6つの潮流を解く。
歴史的に情報技術(IT)と運用技術(OT)は別々に運用されてきた。大半の企業ではOT環境をインターネットや社内ITネットワークから物理的に隔離するため、エアギャップを設けていた。
しかし近年は、ITとOTの融合が進んでいる。新技術の登場やOTデータの活用需要の高まりにより両者の接続が求められるようになったためだ。
さらに、OT環境へAIを導入する必要性が生じたこともITとOTの接続を加速させている。
コンサルティング会社ProtivitiでOTプラクティスのセキュリティ、プライバシーおよびグローバル責任者を務めるジャスティン・ターナー氏は、ITとOTの融合は現在進行形のプロセスだと話す。同氏は融合の理由として「データ分析やリモートアクセス、監視への需要が時間とともに高まってきた」と指摘する。
現場の制御機器やスマート設備がネットワークにつながり、情シスの管轄領域が急拡大している中、セキュリティ確保やデータ品質の壁を越え、ITとOTの境界線をどう統治すべきか。本記事では2026年にITリーダーが注視すべき6つのトレンドを解説する。
IT/OT融合の主要トレンド
1.幅広い業種のCIOがOTを所管
ITサービス企業DXCでAdvisoryXビジネスおよびアドバイザリー業務のグローバルリーダーを務めるダン・オルブライト氏は、従来、OT環境を保持していたのは製造、エネルギー、公益事業、運輸、医療など一部の業界に限られていたと話す。
しかし同氏によると、ネットワーク接続機器の増加に伴い、より多くの企業でOT環境が生まれている。そうした企業のCIOは、自社のIT組織にOT要素を統合すべきかどうかや、その方法と理由の判断を迫られている。
セントトーマス大学でチーフデータおよびAIオフィサーを務めるジーナ・ザングス氏の学内でも、気象センサーやスマートビル設備、ネットワーク接続型自販機などOT機器の導入が増加している。過去には施設管理部門が担当していたが、現在はIT部門がOTや生成データ、活用戦略に責任を持つようになったという。
「OTデータの取り込みは全く新しい取り組みだ。以前は全てが分断され、施設情報の多くはスプレッドシートに保存されていた。現在はそれらを中核のデータレイクハウスやERPに統合している」とザングス氏は話す。さらに、ネットワーク接続型の防犯機器やビル制御など、過去に担当しなかった技術の管理もIT部門が担うようになったと付け加えた。
2.ITとOTの戦略的一致が必要
調査会社Info-Tech Research Groupでリサーチディレクターを務めるベビン・チャウ氏は、ITとOTの融合には事業部門とIT部門の足並みをそろえることが求められると指摘する。
チャウ氏によると、ITとOTの相互作用が増すにつれ、一方の事象がもう一方に影響を与えるようになる。そのため、ITとOTで別々の戦略ロードマップを持つ運用は今後は通用しにくくなるという。
チャウ氏は、ネットワークやサイバーセキュリティを中心にITとOTのサービス管理の統合がすでに進んでいると話す。IT部門はこれらの分野でOT部門よりも知見やスキルに長けているため主導権を握る傾向にある。
「専任のIT担当者と事業部門が協力し、戦略策定や新技術の導入、ライフサイクル管理を支援するCoE(センター・オブ・エクセレンス)の設置が増えている」と同氏は補足する。
両チームの連携は深まっているものの、大半の企業では依然として別組織のままだとチャウ氏らは述べる。
3.OTデータ需要の増大と品質の壁
ザングス氏は、OTから得られるデータが大学の業務やサービスの改善に役立つと考えている。例えば、気象センサーのデータを悪天候時の計画策定や注意喚起の伝達に活用する構想を描いている。
調査会社IDCでインダストリーオペレーションインサイトおよびIT/OT融合戦略プラクティスのリサーチディレクターを務めるジョナサン・ラング氏も、OTデータには同様の可能性があるとみる。各企業はIT環境のデータと同じように、OTデータの活用機会を模索しているという。効率性や生産性、セキュリティ、サービス提供の向上に加え、AI利用の促進に向けてOTデータを分析したいと考えている。
だがラング氏によれば、大半の企業がこの過程で壁に直面する。OT環境のデータには、重大な品質上の問題が潜んでいることが多いためだ。従来のOT環境のデータは、現場での局所的な判断や規制対応など閉じた用途を想定していた。「大規模モデルに統合し、組織全体の意思決定に活用する設計にはなっていない。IT部門はAIで利用できるよう、データの管理や保存、文脈付けの仕組みを構築する必要がある」とラング氏は説明する。
4.融合に伴うセキュリティ懸念の拡大
ターナー氏は「OT技術の利点を最大限に引き出すには、これまで存在しなかった情報経路を確立する必要がある」と述べる。
しかし、そうした経路の構築はOTとITの接続を意味し、かつてOTの安全性を支えていたエアギャップを事実上消滅させる。「ITとOTの間の接続や情報経路が増えれば、攻撃者や国家による悪用の隙が生まれる」とターナー氏は警鐘を鳴らす。
この状況を受け、CIOやCISOらはOT環境および新規接続ネットワークのセキュリティ体制の強化を急いでいる。
チャウ氏によると、IT部門はネットワークやシステムの保護についてOT部門よりも経験が豊富なため、その専門知識を提供しているという。ただしOT環境にはサポート終了済みでパッチを適用できない旧式技術が多く残っており、対応の難しさに直面している。
5.専門知識の融合と相互補完
ITとOTの融合を成功させるには、両チームの協力が必要だ。
CIOは、双方のスキルを互いにどう生かし、企業文化の違いをどう克服するかの検討を進めているとターナー氏は語る。例えば、IT部門は最新のベストプラクティスや技術に詳しいため、その知見をOT環境のセキュリティに適用する動きがある。
一方でOT部門は、高い信頼性を誇る稼働環境の構築や、稼働時間の維持についての知見を提供する。同時に各組織は、より円滑に連携できるよう双方のチームのスキル向上や相互教育に取り組んでいる。
ITとOTの管理職や経営陣を結び付ける動きも強まっている。ターナー氏は「セキュリティやIT、インフラの担当者と、工場のエンジニアリング部門や現場チームで構成される委員会やワーキンググループの設置が有効だ」と話し、成功例も多いと語る。社内環境とOT環境の橋渡し役として、専任のOTセキュリティチームを立ち上げる企業もあるという。
6.融合しつつも組織は分離を維持
環境自体の融合が進む一方で、チャウ氏はIT部門とOT部門の完全な統合はないとみている。以前ほど分断されることはないにしても、両者は独立した組織として存続する見込みだ。「報告系統が異なれば、優先順位もおのずと変わる」とチャウ氏は指摘する。
経営層も同様に、融合の利点とリスクの比較検討を続ける姿勢を見せている。効果が見込める領域では連携を深めるものの、完全な統合は避けてリスクを抑える方針だ。特にOT環境には旧式技術や業務上の要件があるため、セキュリティリスクへの配慮が必要だ。
ラング氏は「価値の適切な評価が必要だ」と述べる。プロセスの最適化や生産性向上、可視化、サイバー脅威を含む環境監視へのOTデータ活用は高く評価されている一方で、OTのネットワーク接続に伴うセキュリティリスクの高まりも認識されている。
それでも融合の流れは止まらないとラング氏は指摘する。「論点はOTを接続すべきか否かではない。被害を最小限に抑えつつ利点を最大化するために、OTのどの部分を分割または隔離すべきかだ。これまでもその方針で進められてきた」
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