数十億年間稼働しても誤差は1秒未満
量子技術の軍事利用事例 英国が「量子電子時計」を開発した目的とは
英国の国防を担う政府機関が量子技術を用いた原子時計の開発に成功した。軍事目的での利用が前提だが、今後、企業のセキュリティにも影響する可能性がある。量子原子時計は、どのような役割を果たすのか。
英国防科学技術研究所(Defence Science and Technology Laboratory、以下Dstl)は2025年1月、量子技術(電気信号ではなく電子、光子などの量子力学的な性質を利用して計算をする技術)を用いた原子時計(以下、量子原子時計)の開発に成功したと発表した。量子原子時計は高精度で、数十億年間稼働した場合に生じる誤差は1秒未満とされる。量子原子時計を使うことで正確な時刻同期が可能になる。これは、金融取引、電力網、通信ネットワークなどのセキュリティにおいても重要な役割を果たす可能性がある。英国が量子原子時計を開発した狙いは何か。
原子時計が担う役割は
量子原子時計の開発は、英国の国家戦略計画「Plan for Change」の構成要素の一つで、国家の安全保障を支援するものだ。
英国軍は量子原子時計によって、以下を実現する予定だ。
- 部隊や兵器の位置情報の把握、経路の決定、移動の管理といったナビゲーション用システムの精度向上
- GPS(全地球測位システム)への依存の減少
- GPSは、電波妨害や物理的な攻撃に弱く、通信が遮断される恐れがある。量子原子時計で正確な時刻が分かれば一定時間の通信断があっても位置情報を算出できる
- より安全な、軍事情報用の暗号化通信システムの構築
- 正確な時刻同期ができれば、通信のタイミング制御、改ざん検知、リプレイ攻撃(過去の通信を再送して悪用する攻撃)防止が可能になる
- 兵器システムの精度向上
- 誘導ミサイルをはじめとする先進的な兵器システムは、軌道の計算や攻撃の調整に正確な時刻の情報を必要とする
英国務調達、産業担当大臣のマリア・イーグル氏は次のように述べる。
「最先端技術を防衛能力に統合することは、防衛分野における政府の技術革新への取り組みを示している。量子原子時計の試験運用は作戦能力の強化だけでなく、産業界や科学分野の発展、高度技能職の創出にもつながる可能性がある」と強調する。
Dstlは、防衛やセキュリティ分野に、約2800万ポンドの研究開発投資を実施してきた。
量子原子時計の試験にはDstlの量子研究所が開発した独自技術が使用され、量子技術を使った製品開発を展開するColdQuanta(Infleqtionの名称で事業展開)やAquark Technologies、時間の基準となる正確な周波数を作り出す「恒温槽付水晶発振器」(OCXO)を開発するHCD Research、インペリアルカレッジロンドン(Imperial College London)といったパートナーが参加した。
英米カナダの共同研究も進行中
英海軍司令官のマット・スティール氏は量子技術そのものに注目しており、「GPSと量子技術を併用することで、今後数年間の軍事的な作戦の優位性を維持、強化できる」と説明する。
この取り組みには米国以外も賛同している。2024年9月には、英国、米国、カナダの三国間で協力協定が締結された。Dstlは各国の研究機関と連携して、防衛技術の研究、評価、試験を実施する形だ。この三国の連携は、地政学的な情勢変化に対応する実践的な作戦のコンセプトを構築し、新しい手法やアルゴリズム、ツールの開発を通じて、三国の防衛力と安全保障体制を強化することを目的としている。
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