ついにGoogleも「AIの軍事利用OK」にかじを切る深い理由AI産業の軍事産業化が進む?

「邪悪になるな」「正しいことをやれ」を行動規範に掲げてきたGoogleが、AI技術を軍事目的で利用しないとする誓約を撤回した。Googleの方針転換には何が影響しているのか。

2025年02月19日 06時00分 公開

関連キーワード

データ | データ分析


 Googleの親会社Alphabetが、人工知能(AI)技術を兵器に使用しないという誓約を撤回した。これまでGoogleは「邪悪になるな」(Don't be Evil)や「正しいことをやれ」(Do the right thing)という行動規範を掲げてきた。そのようなGoogleが方針を転換した背景には何があるのか。

「AIを軍事利用しない」方針を翻意したGoogleの主張

 GoogleとAlphabetのCEO、スンダー・ピチャイ氏は2018年6月のブログエントリ(投稿)で、以下の分野におけるAI技術の開発と導入を「追求しない」と約束していた。

  • 全体的な害を及ぼす、または及ぼす可能性が高い技術
  • 人々に危害を加える、または直接的に危害を助長する兵器やその他の技術
  • 国際的に認められた規範に違反する形で、情報を収集または使用する監視技術

 しかしGoogleは2025年2月4日(現地時間)、AI技術を兵器や監視ツールの開発に使用しないとする誓約の文言を削除。同日、AI研究開発機関Google DeepMindのCEO兼共同創業者のデミス・ハサビス氏とGoogleのテクノロジーおよび社会担当上級副社長ジェームズ・マニイカ氏が共同執筆したブログエントリで、この決定の正当性を主張した。

 ハサビス氏とマニイカ氏はブログエントリで以下のように主張している。

「地政学的な状況がますます複雑化する中、AI技術のリーダーシップを巡るグローバルな競争が起きている。私たちは、自由、平等、人権の尊重といった基本的な価値観に従って、民主主義国がAI開発を主導すべきだと考えている。これらの価値観を共有する企業、政府、組織が協力して、人々を保護し、世界的な成長を促進し、国家安全保障を支援するAI技術を創造すべきだと考えている」

 ハサビス氏とマニイカ氏によると、GoogleのAI原則は、3つの方針に焦点を当てるという。

  • 大胆なイノベーション
    • さまざまな分野で人々に力やインスピレーションを与えることを目指す。
  • AI技術の責任ある開発と導入
    • 開発からテスト、導入、改良に至るまで、責任を持ってAI技術を追求する。
  • 協調的な進歩
    • 他者から学ぶと同時に、他者がAI技術を前向きに活用できるよう支援する。

 「Googleがすでに米軍(イスラエル国防軍とも報じられている)にクラウドサービスを提供していたことを考えると、Googleの方針転換は全く驚くべきことではない」。ロンドン大学クイーンメアリー校(Queen Mary University of London)政治理論教授で『Death machines: The ethics of violent technologies』(死の機械:暴力的技術の倫理)の著者であるエルケ・シュワルツ氏はこう説明する。

 一方、シュワルツ氏は、Googleをはじめとした大手IT企業の姿勢に懸念を示す。一部の大手IT企業は、軍事用AI技術の開発に関与しないことを「非倫理的だ」と主張するようになっている。

 「Googleが反発や影響を恐れることなく、このような方針転換を公表できるということは、『暴力を利用して利益を追求する』ことを社会が甘んじて受け入れたことを示唆するものだ」。シュワルツ氏は英Computer Weeklyの取材に対してこう話す。「Googleの方針転換は、グローバルなIT産業が今や軍事産業としての側面を強めていることを明確に示している」とシュワルツ氏は強調する。

 「このことは、さまざまな物事の軍事化が進んでいることを示唆している」。シュワルツ氏はこう指摘する。同氏によると、軍事用AI技術の市場は拡大しつつあり、大手IT企業がシェアを競い合っている。

 OpenAIやAnthropic、Meta PlatformsをはじめとしたGoogleの競合他社は、自社のAI技術の使用方針を改め、米国の情報機関や防衛機関によるAIシステムの使用を許可した。一方、自社が開発したAI技術が人間に害を与えることは許さないと主張している。

 Computer WeeklyはGoogleに対し、国家安全保障の文脈でAI技術開発に責任を持って取り組む方法や、AIシステムを使用するアプリケーションの種類に制限を設けるかどうかについて問い合わせたが、回答は得られていない。

TechTarget.AIとは

TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

生成AI活用を阻むメモリウォール問題、ストレージのボトルネックを解消するには

コンピューティング性能が進化し、生成AIなどのテクノロジー活用が進む一方で、メモリウォールによるストレージ性能の制約がボトルネックとなるケースが増えている。コストとリソースの増大という課題に対する効果的な解決策を解説する。

製品レビュー 日本ヒューレット・パッカード合同会社

国際宇宙ステーションでLLMの展開を実現、AIワークロードを支える技術とは?

2024年7月、NASAは協力会社とともに、低軌道で大規模言語モデルを展開することに成功した。将来の宇宙探査に大きな影響を及ぼす実験は、いかにして行われたのか。宇宙向けスーパーコンピュータの運用や展開に向けた取り組みを紹介する。

製品資料 レッドハット株式会社

柔軟でオープンな生成AI基盤を構築したい、成功を左右するのは7つの検討事項

生成AIのビジネス活用が熱を帯びているが、まだメリットもデメリットも見え始めてきたばかりだ。企業がデータプライバシーなどの課題を克服し、最適な生成AI基盤を構築するためには、どのような点に注意すればよいのだろうか。

技術文書・技術解説 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社

典型的な失敗例から学ぶ、RAG案件で成果をあげるために押さえるべきポイント

技術系トピックの中でも一大トレンドといえるRAGだが、せっかくシステムを構築しても使ってもらえないというケースも散見される。こうした事態を回避するため、RAGシステムの開発に際して押さえておくべきポイントを解説する。

市場調査・トレンド 株式会社日立ソリューションズ東日本

生成AIのビジネス活用で障壁となるのは? 調査で分かった活用状況と課題

ビジネスにおける生成AI活用が広がる一方で、その導入や活用においては克服すべき課題が多数あるようだ。本資料では、105人のビジネスパーソンを対象に行った調査結果を基に、企業における生成AI活用の実態を探る。

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ついにGoogleも「AIの軍事利用OK」にかじを切る深い理由:AI産業の軍事産業化が進む? - TechTargetジャパン エンタープライズAI 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。