InformaticaがエージェンティックAIへの本格的な取り組みを発表した直後に、Salesforceによる買収が発表された。買収直前に開催されたInformatica World 2025の内容から、その戦略的意図を読み解く。
データマネジメントツールベンダーInformaticaは、2025年5月14〜15日(現地時間、以下同じ)に米ラスベガスで開催したプライベートイベント「Informatica World 2025」で、AIエージェント領域に本格的に取り組む姿勢を印象付けた。AIを軸に業界が回り始めている現在、同社が長年磨き上げてきた強力なデータプラットフォームが武器になる。
特に印象的だったのが「AIエージェント」「エージェンティックAI」への注力ぶりだが、そのイベントからおよそ2週間後の5月27日には、Salesforceが同社を買収するという大きな注目を集める発表があった。Salesforceは2019年にTableau、2021年にSlackと数年置きに大型買収を繰り返しており、約80億ドルとされるInformaticaの買収はこれらに次ぐものとなった。
ここでは、買収直前のタイミングとなったInformatica Worldの主な内容を振り返り、Salesforceによる買収へとつながった背景を考察すると同時に、業界の先行きを展望してみよう。
イベント初日の5月14日に、InformaticaはエージェンティックAI(自律的に目標を設置し、それを達成するために行動するAI)に対する包括的な戦略を発表した。方向性としては大きく2軸ある。まず同社のデータ統合プラットフォームに組み込まれ、ユーザーの運用管理作業を支援するための「自律型デジタルアシスタント」となる「CLAIRE Agents」。もう一つは、ユーザー企業がインテリジェントなAIエージェントを構築、運用するのを支援する「AI Agent Engineering」だ。プラットフォーム内部での活用と、AIエージェントを開発、運用したいユーザー企業向けの支援機能の両方をカバーしていく。
AI Agent Engineeringの取り組みは、SalesforceのAIエージェント機能「Agentforce」と狙いが同じとみることもできそうだ。一方、5月14日付でInformaticaはSalesforceとのパートナーシップ拡大に関する発表を行っており、同社のデータ管理プラットフォーム「Intelligent Data Management Cloud」と、SalesforceのAgentforceを統合する計画だと説明されていた。
この統合計画の中核となっていたのは同社のマスターデータマネジメント(MDM)で、前述の2軸では前者のCLAIRE Agentsを含むデータプラットフォームに関する話だと言える。イベント前の段階ではInformaticaのデータプラットフォームをAgentforceで活用するという方向性で進んでいたが、AI Agent Engineeringを含む同社のエージェンティックAIに対する取り組みのインパクトが大きかったことから、パートナーシップにとどまらず買収を決断するに至ったのではないか――。というのは想像でしかないが、パートナーシップの拡大を正式に発表した2週間後に買収発表、という一連の流れはさすがに唐突感があるので、やはりInformatica Worldにおける発表内容がこの決断に影響しているとみるのが妥当ではないかと考えられる。
ともあれCLAIRE Agentsは、今後本格化していくであろうエージェンティックAIの時代に向けた取り組みに必要な機能要素を、漏れなくカバーしている感がある。この自律型デジタルアシスタントは、「高度なAI推論とプランニングモデルを活用して、データの取り込みやデータリネージ(データの生成源から最終利用点までの流れを追跡、記録する機能)からデータ品質保証に至るまで、複雑なデータ操作を自動化する」ツールだと説明されている。現在AIエージェント間の連携を実現するためのプロトコルとして事実上標準の地位を固めた感のある「MCP」(Model Context Protocol)もサポートしている。
具体的なAIエージェントの例として、以下の提供が予定されている。
発表時点での計画によれば、2025年秋からプレビュー版が提供開始される見込みだ。
買収が発表された5月27日付のSalesforceのプレスリリースの中で、同社の会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏は「それぞれ世界ナンバーワンのAI CRM(CRM:顧客関係管理システム)とAI搭載MDMおよびETLプラットフォームがついに一つになります」とコメント。今回の統合により、Salesforceの「Einstein」(AI機能群)と、InformaticaのCLAIRE Agentsという2つのAIエンジンが結集し、信頼性があり、説明可能で、スケーラブルな“AI×データプラットフォーム”が実現する点を強調した。
Informaticaはデータ統合プラットフォームの機能強化を図り、満を持してエージェンティックAIへの本格的な取り組みを発表した途端に買収が決まったわけだが、逆に言えば同社の戦略的な取り組みの正しさが実証されたと見ることもできる。Salesforceによる買収では、TableauもSlackも以前からの魅力を損なうことなく時間をかけて丁寧に統合を進めているように見えるので、Informaticaに関しても同様の展開になることを望みたい。
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