製造業において、機械の想定外の停止は損失に直結する。復旧に向けた調査や手配の非効率さが課題になる中、TDK SensEIはAWSを活用した自律型の「AIエージェント」を用いて、保守を自動化するシステムを構築した。
製造業やインフラ施設の現場において、機械の予期しない停止は大きな損失をもたらす。トラブルが発生した際、保守技術者は問題の原因究明や部品手配などの調査業務に時間を奪われてしまう。この非効率な現状を打破するため、電子部品大手TDK傘下で産業IoT(モノのインターネット)事業を手掛けるTDK SensEIは、クラウドサービスを活用した新しい仕組みを提案している。
TDK SensEIが提供するエッジAIツール「edgeRX」は、センサーデータとAI技術を組み合わせることで機械の異常を未然に防ぐ。同社が目指すのは単なる故障予測ではなく、自律型のAIエージェントが修理に必要な部品を特定し、在庫確認から技術者の手配までを自動でオーケストレーションする「処方型」の保守システムだ。同社はインフラに「Amazon Web Services」(AWS)を全面採用し、セキュアかつ拡張性に優れたシステム構成を構築している。
自律的に動くAIエージェントと、工場向けの強固なセキュリティアーキテクチャ。その具体的な実装方法を、開発の最前線を知る最高技術責任者(CTO)が語る。
本稿は、年次カンファレンス「AWS re:Invent 2025」のセッション「TDK SensEI built scalable IoT platform with AWS for sensor insights」の内容から、TDKが構築した次世代IoTシステムの技術的詳細を紹介する。セッションでは、同社CTOであるボブ・ロス氏が登壇し、アーキテクチャの全貌を解説した。
ロス氏は、産業用オートメーションにおける保守の手法が大きく進化していると指摘する。従来の「状態監視」は問題が発生した際の検出を目的としていたが、近年は問題が起きる前に検知してダウンタイムを防ぐ「予知保全」への移行が進んでいる。
TDK SensEIが注力するのはその先にある「処方型」あるいは「Agentic AI」の領域だ。同社のシステムは、機械の故障を予測するだけではなく、自律的に解決策を提示し、実行に移す。
工場のポンプに組み込まれたセンサーが、振動データから「2週間後にベアリングが破損する」と予測したとする。システムは単に警告を出すだけではなく、そのポンプのマニュアルを読み込んで必要な部品を特定する。社内のERP(統合基幹業務)システムと連携して在庫を確認し、欠品があれば自動で発注する。部品の到着時期に合わせて、適切なスキルを持つ技術者のスケジュールまで確保するのだ。これによって、工場長や技術者は煩雑な調査と手配にかかる人手や費用、手間から解放される。このオーケストレーションには、RAG(検索拡張生成)を用いて構築された施設や人員の「デジタルツイン」(物理環境のデータをデジタル上で再現したモデル)が活用されている。
このような高度な連携を実現する一方で、製造業の顧客が最も懸念するのはセキュリティだ。機密情報の塊である工場のネットワークを外部にさらすことには強い抵抗を持っている。
この課題に対し、TDK SensEIはネットワーク設計に独自の工夫を凝らしている。工場内のゲートウェイデバイスからクラウドサービスへの通信は、暗号化されたIoT用通信プロトコル「MQTT」(Message Queuing Telemetry Transport)による単一の接続のみに限定している。重要なのは、通信が全て工場からクラウドへのアウトバウンド(送信)であり、クラウドサービスから工場へのインバウンド(受信)接続を一切持たない点だ。ファームウェアの更新も、デバイスからクラウドサービスに状態を確認しにいく方式を採用している。これによって、工場のネットワークのファイアウォール設定を変更して通信ポートを開放する必要がなくなり、IT部門の設定負担とセキュリティリスクを軽減している。
何万件もの施設に展開するためのデバイス管理も自動化されている。工場に配置されるデバイスは、まず「ロビー」と呼ばれる初期接続エリアにアクセスし、所属する顧客情報を確認した上で、各顧客専用に隔離された仮想ネットワーク領域の認証情報を受け取る。これによって、製造段階での複雑な事前設定を省きつつ、安全な展開を可能にしている。
システムの裏側では、AWSの各種マネージドサービスが適材適所で活用されている。IoTデバイスの接続と管理には「AWS IoT Core」、エッジデバイス向けミドルウェアには「AWS IoT Greengrass」、時系列データの蓄積にはデータベースサービス「Amazon Timestream」、AIエージェント開発ツールには「Amazon Bedrock」を採用している。
機械学習モデルの構築には、AIモデル構築・展開サービス「Amazon SageMaker」を利用し、現場の負担を減らすための自動化を徹底している。通常、機械学習の導入には専門家による設定が必要だが、edgeRXでは、設置されたセンサー自体が対象機械の「正常な状態」を自動的に学習する。学習したモデルはそのままセンサー内で稼働し、異常を自律的に検出する仕組みだ。もしクラウドサービスで障害が発生して通信が途絶えたとしても、エッジでリアルタイムなデータ処理と異常検出を継続できる耐障害性も備えている。
TDK SensEIの高度なAI技術と堅牢(けんろう)なインフラの組み合わせは、製造業のみならず、スマートビルディングや物流、エネルギー分野における保守運用の効率化を支援する。
本稿は、AWSが2025年12月9日に公開した動画「AWS re:Invent 2025 - TDK SensEI built scalable IoT platform with AWS for sensor insights (NTA204)」を基に作成しました。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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