93%がAI導入も統制は12%止まり 欧州製薬大手が選んだAIエージェント管理術OSSから商用版へかじを切った理由

AI導入企業の9割がガバナンス不足に陥る中、製薬大手UnipharはOSSから商用基盤へ移行。400超の業務フロー可視化とAIエージェント統制を両立させた、厳格な規制時代を生き抜くIT基盤の現実解に迫る。

2026年08月18日 05時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 オープンソースのワークフローオーケストレーションツールを用いてクラウドコスト管理システムを構築したグローバルヘルスケアサービス企業が、将来的なAIエージェントのオーケストレーションを見据えて商用版への移行に踏み切った。

 アイルランドのダブリンに本社を置くUniphar Groupは160カ国以上で事業を展開し、子会社を通じて製薬、バイオテクノロジー、医療技術分野の200社以上のパートナーを支援している。ダブリン本社のプラットフォームエンジニアリングチームは、Microsoft Azureのクラウドインフラと、C#および.NETで記述されたアプリケーションスタックを支えている。

 約2年前、同チームはMicrosoftの標準ツールで対応できる範囲を超えて、クラウドコスト管理を詳細に実施したいと考えた。そこで、400以上の個別ワークフローで構成される月次のコスト管理レポート作成プロセスを調整するため、オープンソースの分散アプリケーションオーケストレーションフレームワーク「Dapr Workflows」の採用に至った。

 「Mammon」と呼ばれるこのシステムによって、Unipharのプラットフォームエンジニアはリソースの使用状況や割り当てについての詳細な情報を取得し、業務部門ユーザー向けの社内予算の取り組みと結び付けられるようになった。UnipharでDevOpsコンサルタントとして同プロジェクトの指揮に携わった業務委託のオイシン・ヴァーツラフ・ハケン氏は、TechTargetの取材にその詳細を語った。

 「特定のリソースタイプにとどまらず、システムの内部メトリクスを実際に確認し、そのメトリクスを利用してコストをさらに細分化できる」とハケン氏は語る。「ワークフローの階層構造はそれを実現するための優れた手段であり、全てビジネスロジックで構成されている。オーケストレーションを記述するためのコードはごくわずかで済み、システム全体が劇的に簡素化された」(ハケン氏)

 以下では、400超の業務フロー可視化とAIエージェント統制を両立させた、厳格な規制時代を生き抜くIT基盤の現実解に迫る。

Catalystの導入、オブザーバビリティ、そしてAIエージェント

 Daprのエンタープライズサポート提供を目的に2021年に設立されたDiagridは、2023年後半に「Diagrid Catalyst」をリリースし、SaaS型のAPIやガバナンス、セキュリティ、オブザーバビリティの機能を追加した。また、エージェント型AI機能も追加し、監査可能な証明やガバナンスを備えた耐久性と検証可能性を持つワークフロー実行もサポートしている。2026年7月にリリースされた「Catalyst 2.0」では、アプリケーション、エージェント、MCP(Model Context Protocol)サーバの認証および認可のための暗号化IDを提供し、AIエージェント向けの宣言型アクセスポリシーの適用もサポートした。

 UnipharがオープンソースのDapr Workflowsから商用製品への移行を開始する契機となったのは、主にCatalystの統合オブザーバビリティダッシュボードだったとハケン氏は説明する。その移行は2026年8月に完了したばかりだ。

 「元データの上に専用のポータルを用意できたため、システムのパフォーマンスを一目で把握しやすくなった。注意すべきエラーが発生した場合でも、問題に踏み込んで詳細を確認し、調査できる」(ハケン氏)

 開発者のオンボーディングおよびオフボーディングのワークフローに向けて「Microsoft Agent Framework」の検証を開始する中、ハケン氏はエージェント型AIのオーケストレーションとガバナンスも視野に入れている。

 「これらのエージェントを開発し、Catalyst経由でホストすることは非常に容易で、オブザーバビリティも得られる。Microsoft Foundryも検討したが、自社でエージェントをホストするためのインフラに多額の投資を行っており、Catalystならそれを生かせる」(ハケン氏)

 UnipharのAIエージェントのオーケストレーションはまだ初期の実験段階にある。しかし成熟するにつれて、既存システムの設定を少し変更するだけで有効化できるCatalystのエージェントガバナンス機能が真価を発揮する可能性があるとハケン氏はみている。

 「エージェント間の通信の制御、検証、制約、そしてガードレールの設置に大きな重点が置かれている。現段階ではアーキテクチャ、実装、設計原則の検討を続けているところだが、間違いなく念頭に置いている要素だ」(ハケン氏)

AI規制が進む中で検証機能を追加したDiagrid Catalyst 2.0

 Catalystは当初Dapr Agentsフレームワークのみをサポートしていたが、Catalyst 2.0では、LangGraph、Microsoft Agent Framework、Google Agent Development Kit、AWS Strands、OpenAI Agents SDK、CrewAIなど10以上の主要AIエージェントフレームワークへと対象を拡大した。

 Catalystは従来からAIエージェントの耐久実行をサポートしており、特定のタスクが失敗した場合でも再起動して確実に完了させることが可能だった。バージョン2.0では実行完了のデジタル署名付き検証を提供し、エージェントのアクションを企業内の個々の人間の管理者やプロジェクトグループにひも付けることができると、DiagridのCEOであるマーク・ファッセル氏はTechTargetのインタビューで述べた。

 「EU AI法を始めとする多くの法規制が施行されつつある。例えばローンの申し込みなど、EU加盟国の市民の個人情報に関わる処理では、ローンの実行が承認されて行われたという直接的な証拠の提示が法律で義務付けられており、これにはデジタル検証が必要になる」(ファッセル氏)

 パイロットプロジェクトの実運用への移行が難航し新たな規制が増加する中、AIエージェントのガバナンスは企業の間で大きな関心事となっているとアナリストは指摘する。

 米ノースカロライナ州ホールデンビーチに拠点を置くEfficiently Connected(ECI)で主席アプリケーション開発アナリストを務めるポール・ナシャワティ氏は、TechTargetへのメールで「AIガバナンスは方針の議論から運用の要件へと移行しているが、導入状況には依然としてばらつきがある」と記した。

 ECI Researchが技術専門家320人を対象に実施した2026年7月の調査によると、93%の企業がAI開発ツールを導入している一方で、そうしたワークロードで標準的なセキュリティおよび運用のガバナンス統制を導入しているのはわずか12%にとどまっている。

 未公開企業であるスタートアップのDiagridは、依然としてDaprのワークフローオーケストレーションとの結び付きが中心であり、企業の関心を引きつけるためにより大規模で知名度の高いAIガバナンスツールと競争しなければならない。しかし規制環境が複雑化する中、Catalyst 2.0によってアピール度を高める好機を迎えているとナシャワティ氏は述べる。

 「Diagridは双方のニーズに対応できる。開発者は流行のフレームワークで自由にエージェントを記述でき、プラットフォームエンジニアリング、SecOps、法務チームは、そのエージェントを安全に実運用環境へ移行するために必要な改ざん防止ログ、耐障害性、コンプライアンスインフラを確保できる。どのエージェントが動作し、どのアプリケーションに到達し、どのMCPサーバにアクセス可能で、どの個別ツールの呼び出しが許可されているかを組織は把握する必要がある。Catalystはアプリケーション開発セキュリティの目指す方向性と合致している」(ナシャワティ氏)

 一方でCatalystはまだ進化の途上にある。ハケン氏は、Microsoft Agent Frameworkのエージェントとともに、AIエージェントのスキル管理がサポートされるのを待っていると述べる。AIエージェントのスキルとは、特定のタスクを実行するようエージェントに指示するために開発者が使用する一連の指示セットのことで、組織間で共有したり、専用のリポジトリに保存して管理したりすることもできる。

 「スキルは、サブプロセスとエージェントによる処理を分離するための手段だ。エージェントが幅広い機能を備えている場合でも、プロセスの他の部分に影響を与えることなくスキルの保守や変更が容易になるため、ぜひ備えてほしい機能だ」(ハケン氏)

 Diagridの関係者は、このアップデートは開発中であり、間もなく提供予定であるとしている。

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