導入事例が示す、レセプトオンライン化対応の“理想と現実”“医療のIT化”最新動向「レセプトオンライン請求義務化」 第2回

医療現場からの反発が根強い「レセプトオンライン請求の義務化」。特にその費用を医療機関に負わせている点が批判を浴びている。実際にはどれくらい掛かるのだろうか? 対応を進めている診療所の医師に話を聞いた。

2009年08月24日 08時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

医療機関が用意すべきものとは?

 これからオンライン化対応が必要になる医療機関は、現在のIT環境に応じて以下の3つのパターンが想定される。

  1. 手書きで紙のレセプトを作成して、審査支払審査機関に提出
  2. レセプトコンピュータ(以下、レセコン)で電算処理したものを紙で出力して提出
  3. レセコンで電算処理したものを電子媒体に保存して提出

 上記のいずれのパターンでも、最終的には「レセコンで電算処理したデータを専用のネットワーク回線に接続し、審査支払機関に送信する」ことが義務付けられている。各医療機関は、自身の環境に足りないものを今後補っていく必要がある。

 社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)は、その特設サイト上で各医療機関に向けてオンライン化のために用意するものやその対応手順を紹介している。

準備するもの

(1)オンライン請求(送信)用PC端末

(2)専用回線の敷設(以下の3つから選択)

  • ISDNのダイヤルアップ接続方式
  • IP-VPN接続方式
  • IPsecとIKEを組み合わせたインターネット接続方式(※)

(3)送信用ソフトウェア(支払基金から送られる設定ツールなど)

(4)電子証明書(3年間有効)

 

 (※)IPsec:IPによる暗号通信のための標準プロトコル。IKE:IPsecで使用される鍵交換プロトコル。


 まず医療機関は、審査支払機関に「電子情報処理組織の使用による費用の請求に関する届出」「電子証明書発行依頼書」(※)を提出し、厚生労働省が進める3つの接続方式から回線接続を選択して回線事業者に申し込む。

※ 電子証明書発行依頼書は、支払基金にのみ提出する。

photophoto 「電子情報処理組織の使用による費用の請求に関する届出」(左)「電子証明書発行依頼書」(右)《クリックで拡大》

 その後、支払基金から届く送信用ソフトウェアを送信用端末にインストールし、ユーザー設定情報(オンライン接続時に使用する利用者IDとそのパスワード)を用いて設定作業を行い、支払機関との導通試験を実施する。さらに、必要に応じて医療事務員へのトレーニングや確認試験を実施した後、実際に請求を開始するという流れだ。

photo レセプトオンライン請求化対応への流れ

 実際、オンライン請求化対応にはどれくらいの費用が掛かるのだろうか? 支払基金のサイトでは、導入費用に関するモデルケースが紹介されている。

オンライン化のモデルケース 想定金額
初期コスト オンライン請求用端末 約10万円
電子媒体用ドライブ(端末に付属されている場合は不要) 約1万円
電子証明書発行料 4000円
ネットワーク回線接続に掛かる費用 約2万8000円
合計 約14万2000円
運用コスト IP-VPN接続の場合(回線種類によって異なる) 約6000円

 今回の義務化では「医療機関にその導入・運用コストを自己負担させる」点を批判する声が挙がっている。また、機器の導入コストが実際にはモデルケースの何倍も掛かるともいわれている。こうした批判を受けて、厚生労働省は導入が難しい医療機関に対する支援策として、2009年度一次補正予算での補助金の拠出や代行請求サービスの利用などで対応する予定だ。

 東京都医師会の理事にオンライン化対応の課題を聞いた前回に続き、今回は実際に対応を進めている「日本橋形成外科・皮フ科・美容外科」にその対応に掛かる費用について話を聞いた。また、同医院から対応を委託された中央ビジコムの担当者に導入のポイントや現在の市場動向を聞いた。

診療所の導入事例:日本橋形成外科・皮フ科・美容外科

photo 日本橋形成外科・皮フ科・美容外科の森岡医師

 日本橋形成外科・皮フ科・美容外科では、3年前に開業した当初から三洋電機の診療所用レセコン「Medicom-MC/X」を使用している。レセコンで計算したレセプトを紙に出力し、所属する日本橋医師会に提出。医師会は審査支払機関に一括で請求している。

 現在、同医院では月に平均300〜400件のレセプトを作成しているという。既にレセコンを導入しているので先述の「2. レセコンで電算処理したものを紙で出力して提出」のパターンに該当し、2010年4月までに対応することが義務付けられている。

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