パロアルト検証で判明した40%の限界
Claude Opus 5.5、GPT-6 Sol/Luna登場 情シスが迫られるモデル使い分け
「特定モデルへの一本化」では業務要件もコストも賄えない。OpenAIやAnthropicの新モデル投入で加速する「マルチモデル併用」の波に、情シスが整えるべき新たなAIアーキテクチャの要点を解き明かす。
OpenAIとAnthropicは2026年9月22日(現地時間)、相次いで新しいAIモデルを公開した。ワークロードごとの性能や処理速度、コスト要件に応じてモデルを選ぶ際の選択肢が広がった。
Anthropicが投入した「Claude Opus 5.5」は、上位モデル「Fable 5.1」に匹敵する性能をより低い運用コストで発揮するという。一方のOpenAIは「GPT-6 Sol」と「GPT-6 Luna」を発表した。Solは高い推論能力を備え、Lunaは処理速度を重視した大量のワークロードを想定している。
今回の発表は、主要なAIベンダーが一つのフラグシップモデルだけで競うのではなく、価格や性能、専門性によってモデルのポートフォリオを差別化しつつある現状を示している。企業の情報システム(情シス)部門にとって、選択肢の拡大はマルチモデル環境の管理をAIスタックの要へと押し上げる可能性がある。ここでいう管理には、モデルのルーティングやワークロードごとの使い分け、切り替え時期の判断が含まれる。
企業向けにパーソナライズしたAIを開発するGlokal AIの創業者兼CTO(最高技術責任者)、ジート・パタナイク氏は「意思決定の焦点が『調達』から『アーキテクチャ』へ移りつつある」と話す。「組織全体で単一のモデルを選ぶのではなく、ワークロードごとに適したモデルを見極め、ベンダーが新モデルを投入するたびに見直す必要性が高まっている」(パタナイク氏)
もっとも、企業が意図してマルチモデル戦略を進めているとは限らない。パタナイク氏によると、部門ごとに独自のアプリケーションに合わせて別々のベンダーを採用し、オーケストレーションやガバナンスを後から追加するケースがあるという。結果として、情シス部門が当初意図していなかったモデルポートフォリオが形成されることもある。
本記事では、OpenAIやAnthropicの新モデル投入で加速する「マルチモデル併用」の波に、情シスが整えるべき新たなAIアーキテクチャの要点を解き明かす。
エンタープライズソフトウェアに広がるマルチモデルAI
マルチモデルAIへのシフトは、エンタープライズソフトウェアの在り方も変えつつある。ソフトウェアベンダーが複数のプロバイダーのモデルを扱えるプラットフォームを構築しているためだ。企業は単一ベンダーに縛られることなく、用途に応じて柔軟にモデルを選択できる。
例えばSalesforceは自社のAIプラットフォームを拡張し、複数モデルのサポートや企業固有のAI機能を提供している。同時にNVIDIAとの提携を通じ、同社の「Agentforce」や「Missionforce」にオープンモデルを取り入れている。
Palo Alto Networksも2026年9月22日、Anthropicの「Claude Mythos」、OpenAIの「GPT-5.6-Cyber」、オープンウェイトモデルを組み合わせたAIサイバーセキュリティサービスを発表した。同社によると、このシステムはワークロード全体を1つのモデルに依存させるのではなく、セキュリティのタスクごとに使用するモデルを判断するという。
Palo Alto Networksの社内検証によると、複雑な環境において単一モデルで40%を超える脆弱(ぜいじゃく)性を検出できたものはなかった。単一モデルでは多くの脆弱性を見逃す恐れがある一方、モデルを組み合わせることで互いの見落としを補い、検出範囲を広げられる可能性を示している。
パタナイク氏は、性能面だけでなく、モデルの提供終了や利用規約の変更、アクセス障害が発生した際の代替策としても複数ベンダーの併用が有効だと指摘している。
「モデルの選定」から「モデルの統合管理」へ
複数モデルの利用は企業に柔軟性をもたらすが、新たな管理上の課題も生む。情シスは、個々のワークロードに適したモデルの判断だけでなく、AI環境全体でそれらのモデルをどのように統制するかを決める必要がある。
モデルの選定が影響を与えるのは、アプリケーションの性能だけではない。コストやレイテンシ、データへのアクセス権限、セキュリティ統制、モデルが処理する業務の種類も考慮しなければならない。
パタナイク氏は「データの機密性を最優先で検討すべきだ。機密性によっては特定のモデルが選択肢から完全に外れる。その次に信頼性とレイテンシが続く」と述べる。その上で、処理能力とコストを照らし合わせ、ワークロードの要件を満たす最も安価なモデルを探すことになるという。
例えば、複雑な推論やコーディングには高機能なモデルを割り当て、大量の要約や分類、データ抽出には処理が速く安価なモデルを割り当てるといった運用が考えられる。OpenAIによるSolとLunaの価格設定は、コスト差の可能性を浮き彫りにしている。両モデルともGPT-5.6世代と比べてAPI利用料が低く抑えられており、Lunaは大量処理向けに設計されている。
マルチモデルのアプローチは、特定ベンダーへの依存度を下げる効果もある。より高性能、または低コストな新モデルが登場した場合、企業は社内の全AIアプリケーションを入れ替えることなく、一部のワークロードだけをその新モデルへ振り分けることができる。
だが、この柔軟性を手に入れるには、管理すべきインフラの層が1つ増えることになる。情シスは、どのモデルが特定のデータにアクセスできるかを定め、ワークロードごとの性能を監視し、ベンダーをまたいで一貫したセキュリティとガバナンスの統制を適用しなければならない。
パタナイク氏は「プロンプトやワークフローのロジックを基盤のモデルから分離しておけば、アプリケーションを作り直すことなくモデルを交換できる」と説明する。
この構成では、アプリケーションとモデルの間にオーケストレーション層を配置する。タスクの内容、求められる能力、データ制限、その他のアプリケーション要件に基づいて、各リクエストをどのモデルで処理すべきかを判断する仕組みだ。
オーケストレーション層は、さまざまなタスクにおけるモデルの性能追跡にも役立つ。モデルをまたいでリクエストを管理するため、情シスはどのモデルが各リクエストを処理したかを確認でき、類似のワークロードの性能を比較できるとパタナイク氏は話す。
AIエージェントが複雑化させるモデルルーティング
1つのワークフロー内でAIエージェントが複数のステップを処理する場合、モデルのルーティングはさらに複雑になる。エージェントはワークフローを計画、情報検索、推論、アクションの実行といったタスクに分解し、ステップごとにルーティングを実行できる。
複数モデルの併用は、個々のタスクに適したモデルを割り当てるのに役立つ一方で、障害の追跡を難しくする側面もあるとパタナイク氏は話す。あるモデルの誤った出力が別のモデルの入力として使われた場合、情シスはどの段階で問題が発生したかを特定しなければならない。
こうした事情から、モデルルーティングは性能やコストの最適化手法ではなく、AIアプリケーションのアーキテクチャの一部といえ、利用するモデルからアプリケーションを切り離す重要性も浮き彫りになる。ベンダーがモデルの性能や価格、提供状況を変更しても、企業はアプリケーション本体を変えずに特定タスクを実行するモデルを切り替えることができる。
個々のモデルやベンダーの寿命を超えて運用されるAIアプリケーションを構築する上で、この柔軟性は一段と重要になる。情シスは単一モデルに標準化するのではなく、モデルの進化に合わせて評価、ルーティング、統制ができる仕組みを整える必要がある。
抽象化レイヤーを設けることでアプリケーションを特定モデルから分離でき、評価フレームワークを活用すればワークロード全体の性能を測定できる。
パタナイク氏は「重要なのは、アプリケーションをモデルから分離する抽象化レイヤーを構築し、評価フレームワークを用いてモデルの性能を測定することだ」と強調する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
[Dropbox Japan株式会社] ランサムウェア対策で見直したい「復旧できるファイル基盤」とは? -
製品資料
[Dropbox Japan株式会社] さよならファイルサーバー クラウドストレージへの移行はこう進める -
比較資料
[セコムトラストシステムズ株式会社] 「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 過去にRPA導入をあきらめた企業こそ知っておきたい 失敗しない自動化導入術 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 自分ひとりでデスクワークを効率化 「AI&ナビ搭載RPA」で実践する業務自動化
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
2
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
3
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
4
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
-
7
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
8
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
9
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
10
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
3
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
8
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
9
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー