マルチベンダーAIの統制へ
「複数AIの野放し」に歯止め Salesforceが6製品統合で挑むAI統制の覇権
社内に乱立するAIエージェントの暴走やコスト急増をどう防ぐか。Salesforceが競合対抗で投入した新基盤は、6製品を統合して他社製AIまで一括制御する。SaaS淘汰を巡る危機感と情シスへの影響に迫る。
SalesforceはServiceNowとの競争で勝負に出た。同時に、ユーザー企業が自社のAIエージェントとアクセスデータを管理するためのガバナンスツールを拡充した。
カスタマーエクスペリエンス(CX)分野のIT企業は、複数ベンダーのAIエージェントが混在する環境を管理するツールを提供している。この傾向は現在進行中または今後数年で本格化すると見られている。ServiceNowは「AI Control Tower」、Genesysは「AI Control Plane」、AWSは「Multi-Provider Generative AI Gateway」を展開している他、Gradialなどの新興企業も独自のツールを提供している。
Salesforceも同様の機能を備えていた。2025年のイベント「Dreamforce」で先行公開され、2026年1月にリリースされた「MuleSoft Agent Fabric」だ。同社はこれを「エージェント型コントロールプレーン」と位置付けていた。今回はその戦略を発展させ、MuleSoft Agent FabricやInformatica、Data 360など6製品の機能を統合した新製品「Enterprise AI Harness」を発表した。
AIハーネスは、データへのアクセス方法、意思決定の内容、実行可能なアクションの制御などエージェントの統制の仕組みを説明する概念だ。Salesforceはこの概念を製品化し、競合のServiceNowに対抗した。その背景には「SaaSpocalypse(SaaSの終末)」を警戒する投資家の不安を一掃する狙いがある。SaaSpocalypseとは、AIが生成したソフトウェアによってSalesforceやServiceNow、さらにはMicrosoftといった既存のSaaSベンダーの市場シェアが奪われる未来を指す。
アドバイザリー企業CRM Essentialsの共同創業者であるブレント・リアリー氏は、「顧客が複数ベンダーを併用している実態を各社は知っている。そのため、全体の統合ポイントとその動作をできる限り自社で掌握したがっている」と指摘する。「ベンダーをまたぐエージェントの統制を握れれば、圧倒的に有利な立場に立てる」(リアリー氏)
リアリー氏は、SlackやMuleSoftがSalesforceに買収された企業である点にも言及した。Salesforceを利用していない顧客も依然として多い。Enterprise AI Harnessは、マルチベンダーのエージェント型AI環境を構築する際に多数のSalesforce契約を必須としない。そのため、既存のSalesforceユーザー以外の企業にも適する可能性があるという。
6つの機能群を1つのAIハーネスに統合
Enterprise AI Harnessは多くの機能を現在提供しており、2027年2月以降にも機能追加を予定している。主な機能は以下の通りだ。
- データ、メタデータ、セマンティクスからなるコンテキストレイヤー
- AIの推論およびオーケストレーション機能
- ユーザー定義のガバナンスガードレールと制御機能
- ID、プライバシー、権限ポリシーを適用するセキュリティツール
Enterprise AI Harnessには、「AI Control Plane」と総称される可観測性(オブザーバビリティ)ツールが組み込まれている。同ツールはエージェントの活動内容、処理性能、発生コストを可視化する。
Salesforceのエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーでデータ管理事業を統括するサビネイ・ベリー氏は、エージェント型AIの管理と統制の現状をクラウド黎明(れいめい)期に例える。当時は業界特化型クラウドを含め多数のベンダーが乱立していたが、市場は淘汰(とうた)され、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformの3大クラウドハイパースケーラーへと集約された。
当時と同様に、現在は多数のIT企業がエージェント型AIの制御レイヤーを巡って争っている。各社とも、顧客がAnthropicやOpenAIなどの複数ベンダーのエージェントを併用することを見越している。ベリー氏によると、現行のAIハーネスの多くはIT領域の一部のみを担う個別製品にとどまり、全社規模でエージェント管理に取り組む製品はごくわずかだという。
「顧客がクラウドの導入で歩んだ道と同様に、単純化と集約が進む」とベリー氏は話す。「統合と単純化は確実に起きている。顧客が価値を得るまでの期間がクラウド導入時よりもはるかに短いため、この変化はずっと速く進む」(ベリー氏)
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