「日本版EHRの実現に向けた研究」公開成果報告会リポート(前)
医療再生に不可欠な「日本版EHR」構想の問題点
「日本版EHRの実現に向けた研究」研究班が2010年度の研究成果報告会を開催した。そこでは各地域で進むEHRの現状や日本版EHRの実現に向けた課題などが明らかになった。
「日本版EHRの実現に向けた研究」研究班(以下、日本版EHR研究班)は6月13日、2010年度厚生労働省科学研究事業に関する公開成果報告会を開催した。同研究班は国家レベルでのEHR(Electronic Health Record:生涯健康医療電子記録)の実現を目指し、クリティカルパス電子化やその連携項目の標準化、医療連携ネットワークの実証実験などに取り組んでいる。
国家レベルのEHRとは「国民1人1人が自らの健康/医療情報を生涯を通じて管理把握できる環境と、それを支える国家的な医療情報ネットワーク」のことを指す。日本版EHRは、内閣府が2009年7月に発表した「i-Japan戦略2015」の中でも重点項目の1つに掲げられ、厚生労働省の「地域医療再生基金」や経済産業省の「サービス産業活動環境整備調査事業(医療等情報化共有基盤構築調査事業)」などの補助を受け、その実現に向けた取り組みが強化されている。
しかし、海外の動向と比べるとその進捗状況は遅れているともいえる。例えば、2002年からEHRの運用を開始している欧州諸国では、国単位ではなくグローバル連携を既に目指す段階にある。2015年までにEU加盟国間での電子処方せんや医療情報サマリーなどを連携するプロジェクトが進んでいる。また、オバマ政権下で経済再生重点事項の1つとして電子カルテの普及を2009年から掲げている米国は、2010年12月にEUと「e-Health関連協調協定」を締結し、相互運用性や各指標の標準化などを強化し、積極的に電子化推進の動きを見せている。
医療再生のために必要不可欠なEHR
日本版EHR研究班の班長を務める、東京医科歯科大学大学院生命情報科学教育学部 教授、田中 博氏は、2010年度の事業統括事業の統括報告を行った。まず、田中氏は深刻な医師不足や長期にわたる医療費抑制政策、医療過誤訴訟の増加などにより「日本の医療現場は崩壊している」と説明した。特に、地方の公立病院の疲弊が激しいという。また、高齢化に伴う慢性疾患の増大や医療費負担の増加が進んでいることを踏まえ、「1つの病院だけで完結する“病院完結型医療”ではなく、これからは地域医療を1つの単位として考える必要がある」と語った。
その上で、医療再生の3つの基軸として「生涯継続的な健康医療」「統合性のある地域医療連携」「日常生活圏を基点とする健康医療」を掲げ、「その実現には各医療機関の医療情報を結び付ける必要があり、その情報基盤となるEHRは不可欠である」とEHRの重要性を強調した。
また、田中氏は「医療再生の3つの基軸を実現するIT化戦略には、2つの方向性がある」と説明した。田中氏によると、生涯継続的な健康医療では「健康診断やレセプトの情報突合が可能なナショナルデータベース」(日本版EHR)、統合性のある地域医療連携と日常生活圏を基点とする健康医療では「地域患者に関する情報共有の基盤」(地域EHR)の2つだという。「現時点では、日本版EHRをすぐに構築することは困難であり、まずは地域医療再生を支援する地域EHRの実現が急務の課題となっている」(田中氏)。各地域の地域EHRの連携を進めることで、将来的に日本版EHRの実現を目指す方針を明らかにした。
地域医療連携の課題
現在、全国各地で地域EHRを基盤とする地域医療連携が行われている。地域が抱える医療問題はさまざまで、その解決のアプローチも異なっている。各地域での取り組みについて、田中氏は「地域医療連携の目的によって、その方向性は2つに大別できる」と分析している。その違いは、最終的な目標として日本版EHRの実現を目指す「日本版EHR志向型」と、地域の中核病院と診療所のネットワークから発展し、地域での診療情報共有を目指す「地域医療情報共有型」の2つだという。
田中氏によると、日本版EHR志向型とは地域医療連携で蓄積された健康医療情報を基盤とするEHRを指し、疾患別連携クリティカルパスを基軸とする疾病管理が可能だという。疾患別連携クリティカルパスにおける医療機関の連携パスの種類は、疾患ごとに異なる。例えば、脳卒中などの急性期疾患では一方向型パス、糖尿病などの慢性疾患では循環型パスとなる。日本版EHR研究班では、千葉県の山武地域の地域医療連携「わかしおネットワーク」に代表される糖尿病のモデルから地域連携型疾病管理へと発展させることを目指している。
田中氏は「方向性が異なる各地域の地域医療連携を統合して、日本版EHRに発展させるためには課題がある」と指摘する。地域医療連携は、複数の市町村を1つの単位とする二次医療圏がその範囲となることが多い。そこから都道府県単位の三次医療圏連携や全国的な連携を進めるためには「地域EHR間の医療情報が相互に連携すること」が必要となる。また、今後増加が予想される在宅ケアや介護サービスとの包括的な情報連携を考えなければならないという。
日本版EHR研究班では、より広い範囲での連携を促進するために「電子化共通規格の実証実験」や「日本版EHR志向型の地域医療連携」などの事業を2010年度に展開してきた。次回は、各分科会の具体的な活動内容を紹介する。
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