無料の仮想化ソフト「Hyper-V Server」の魅力と、大き過ぎる落とし穴存在理由はVMware対抗のためだけ?

インストールの容易さ、そして何よりも無料であることを考えると、Hyper-V Serverは費用対効果に優れた選択肢だ。利用しない手はないということだろうか?

2015年04月01日 15時00分 公開
[Jonathan HassellTechTarget]

 「Microsoft Hyper-V Server 2012 R2」(以下、Hyper-V Server)は今、米MicrosoftのWebサイトから無料でダウンロードできる。ダウンロードして適切なサーバを選んでインストールすれば、直ちに仮想化を実行できる。もちろん、無料の製品であるが故に、Hyper-V Serverには以下のような制約がある。

  • ハイパーバイザーのみであること。GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)はなく、コマンドライン以外の管理ツールもない
  • フェイルオーバークラスタリングやフォールトトレランスなど、製品版に含まれる機能はサポートされない
  • TechNetフォーラムやコンサルタント、ITサービスなどサードパーティーの有償サポートを除き、Microsoftからのサポートはない

 それでも、無料という魅力には抗しがたいものがある。ただ、ことはそれほど単純だろうか? 無料のHyper-V Serverを使うことと、標準的なWindows Serverライセンスに投資することには、微妙なニュアンス以上の違いがある、と筆者は考える。その理由を説明しよう。

薄れゆくメリット:攻撃される表面領域を極小化する

 多くの管理者は幾つかの観点から、無料のHyper-V ServerがGUIや他のグラフィカル管理ツールを搭載していなかったことに感謝している。Hyper-V Serverを起動すると、単色のデスクトップが表示され、ウィンドウにコマンドラインが現れる。それだけだ。

 Windows Serverライセンスを大量に契約し、高性能な管理ツールやHyper-V関連管理ユーティリティを利用している企業なら、Hyper-V Serverインスタンスも、もう1つの管理可能なターゲットとなる。何か問題が起きても、決してサーバコンソールやリモートデスクトップの前に座ったりせず、サードパーティーの管理ユーティリティを利用しているのであれば、もちろん無料版を使うマイナス面はほとんどない。ライセンス料を節約できるだろう。

 特に軽いワークロードであれば効果は大きい。しかし、有料版より無料版をデフォルトで選択し、コストに厳しい経営を強いられる比較的小規模な企業や団体も存在する。そうした組織にとっては、実際に要する全体的のコストを考慮しておかなければ、Hyper-V Serverは実は非常に高くつくものなのである。

 Microsoftは「Windows Server 2012」に、通常のインストールでGUI全体をオン/オフできる機能を組み込んだ。フルGUIでインストールして、サーバを構成した後、Server Coreモードに似たインストールに切り替えることが可能になった。何か変更する必要があるときは、GUIを元に戻して管理業務を行えばよい。現在も、インストール中にServer Coreだけをインストールするオプションはあるが、筆者の知る限り、ほとんどの管理者はGUIとともに2012を導入し、後でGUIをオフにしている。

 「Windows Server 2012 R2」もこの機能を継承しており、「Windows Server 2016」のテクニカルプレビュー版も同様だ。攻撃される面(パッチを適用していないInternet Explorer、管理ツールコンポーネント、その他、無料の製品に含まれていないもの、など)を減らす利点は、Windows Serverが同じことをより簡単に実行できるようになったことで、その意味は薄れつつある。

その他のメリット:ライセンスコストの圧縮

 最大の懸念は、常にライセンスコストだ。Hyper-V Serverは無料であり、ライセンシングや保守に関する料金は掛からない。そのため、このハイパーバイザーを本稼働環境で好きなだけ利用しても、この無料版にとどまる限り、Microsoftに硬貨1枚たりとも支払う義務はない。

 しかし率直に言って、無料のHyper-V Serverの管理は悪夢だ。なぜなら、GUIオプションがなく、GUIベースの管理ツールを直接ホストにインストールできないからだ。また、基本的にはコマンドラインを使う他なく、何かするにはそこによく分からないテキストを入力しなければならない。

 さらに小規模のIT部門となると、サーバをインストールしたり、初期設定したりするためのトレーニングを行う専門知識を持たないところが多い。何かトラブルが生じても、どこが悪いのか、どうすれば修正できるのか、皆目見当がつかないといった状況に陥るかもしれない。しかも、Microsoftからのサポートはほとんど期待できない。そして、恐らく最悪なのは、フォールトトレランス機能が組み込まれていないことである。

 結局は、停電やハードウェア、ソフトウェアの問題が発生したとき、ワークロードの実行を保証するために、有料のソフトウェア製品に投資しなければならないのだ。

 もちろん、Hyper-V Serverが利用できるようになったことで限られた予算でやりくりしている多くのIT部門が、ワークロードの仮想化によってもたらされるパワーと機能性を理解できるようになったことは確かだ。しかし、社内でマシンを統合する時代から、価格に敏感な顧客のニーズに十分対応可能なクラウドサービスの時代へ移行しつつある中、なぜ標準のWindows Serverよりも無料のHyper-V Serverを選択することがよいというのか、筆者には理解しがたい。

 つまるところ、無料のHyper-V Serverはマーケティングの理由から存在しているのだ。VMware製品に対抗するため、あるいはMicrosoftのハイパーバイザーのエコシステムに新規の人々を呼び込むため、というのがその理由である。しかし、筆者なら本番環境向けには、全ての機能を備えたWindows Serverを選ぶ。時間と管理性、広範な機能セットを考えた場合、その方がはるかに経済的であるからだ。

ITmedia マーケティング新着記事

news179.jpg

広告クリエイティブ制作後の確認をAIが支援 サイバーエージェントが「極予測やりとりAI」を提供開始
広告主企業との確認作業を効率化。当日入稿・当日配信も可能になるという。

news174.png

世界の業務アプリ導入数は1社当たり平均93、日本は最少の35――Okta調査
業務アプリの利用動向に関する年次調査の結果です。

news024.png

「ECプラットフォーム」 売れ筋TOP10(2024年3月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。