キーワードでひもとくバックアップ最新事情【第6回】
“ベアメタルリストア”はサーバ障害復旧の最善の備え
クラッシュしてしまったサーバを一から構築し直すのは、大変な作業だ。ましてや、設定や構成が複雑でユーザー数が多いサーバならなおさらだ。これを迅速に、かつ正確に行うための手法が「ベアメタルリストア」だ。
ベアメタルリストアとは?
快適に動いていたコンピュータがいきなり動かなくなってしまい、途方に暮れた経験はないだろうか? あるいは、幸いにしてそのような経験がなくても、周囲の人間がそういう悲劇に見舞われたという話はよく耳にするのではないだろうか?
たとえコンピュータがクラッシュしてしまっても、ユーザーデータがバックアップしてあれば、取りあえずは一安心だろう。しかしデータを復旧するためには、OSやソフトウェアを地道に根気強くインストールする作業が待っている。もちろん、その作業を行っている間は仕事ができなくなる。これがクライアントPCのクラッシュであれば「運が悪かったね」と笑って済ませることもできるかもしれないが、サーバの場合はどうだろうか。可能な限り早く元の状態に戻さないと、業務に及ぼす被害は甚大になってしまいかねない。
コンピュータのバックアップといえば、個人や企業が生成したユーザーデータのバックアップのことを真っ先に思い付くだろう。そのようなデータは通常1つしか存在しないものであり、消えてしまえば復旧することができないため、コピー、すなわちバックアップを取るのである。
ただし、よく考えてみるとコンピュータのHDD上にはユーザーが生成したデータ以外にも、さまざまな情報が格納されていることに気付く。OSやアプリケーションソフトウェアなどがそれであり、システム構成情報や個人設定情報などもそうである。こういったたぐいの情報は、もし消えてしまったり壊れてしまったとしても、元に戻すことが可能である。再インストールを行い、設定を再度行えばいいのである。従って、通常はユーザーデータほど手厚くバックアップしようとは思わないであろう。
しかし、確かにいつでも元に戻すことができるとはいっても、実際にやってみるとかなり手間と時間がかかることに気付く。前述のように、復旧作業に時間がかかればかかるほど、業務に与えるダメージも大きくなってしまうのだ。さらに、元とまったく同じ状態にコンピュータとソフトウェアを再設定するのは、非常に煩雑な作業だ。元の状態の記録が残っていなかったり、あるいは単純な作業ミスなどが原因で、結果的にシステムを危険にさらすリスクもある。
こうした復旧作業を簡単に、早く、しかも確実に行うことができないものか。そのようなニーズに応えるのが、今回解説する「ベアメタルリストア」である。
ベアメタルリストアは「ベアメタルリカバリ」とも呼ばれ、致命的なシステム障害が発生した後に、システムを「まっさらな」状態から元に戻す処理のことである。そもそも「ベアメタル」とは「金属むき出し」を意味する英語で、コンピュータ用語としてはHDDに情報が何も書き込まれていない状態のことを表す。そのような状態のコンピュータを元通りに戻すのがベアメタルリストアである。この場合の「元通り」とは、OS、アプリケーションソフトウェア、構成情報、個人設定情報、固有のデータのすべてを含めて、障害発生以前とまったく同じ状態に復旧することである。
保護対象の3つのレイヤー
ここでは、特に企業で運用するサーバのベアメタルリストアについて考えてみよう。具体的にどのような情報をバックアップしておく必要があるのだろうか?
サーバを一から正確にリストアするためには、まずあらかじめサーバの構造全体を理解しておく必要がある。サーバの構造は主に次の3つの階層に分かれており、それぞれがサーバに関する情報を含んでいる。
アプリケーションレイヤー(アプリケーションボリューム)
このレイヤーは、サーバ上のすべてのアプリケーションとアプリケーションによって作成されたデータを含む。また、アプリケーションのバージョン、ライセンス、インストール場所といった情報も含まれる。
ルートレイヤー(ルートボリューム)
すべてのハードウェアドライバと、ハードウェアに付随する実行可能プログラムを含む。サーバのハードウェアに関する情報の一例を以下に挙げる。
- CPU
- メモリのバンクとサイズ
- マザーボードの種類
- ネットワークカード
- そのほかのアダプター
- ……
また、サーバ本体以外のサーバ資産(ストレージ、ネットワークなど)としては、以下のようなものが挙げられる。
- 内蔵ディスク(SCSI、IDE、Wide-SCSIなどを含む)
- 外部ディスク(SSA、NASなど)
- テープ装置
- リムーバブルデバイス
- ……
構成レイヤー
このレイヤーは、最適なパフォーマンスとセキュリティを実現するように調整された、すべてのハードウェアとソフトウェアの設定情報を含む。例えば、OSの構成情報としては以下のようなものが挙げられる。
- 種類
- バージョン
- パッチおよび修正プログラム
- ファイルのページングおよびページング空間
- ネットワークドメイン
- ルーティングテーブル
- パーティション
- ボリューム
- ファイルシステム
- 内蔵および外付けマウントとマウントポイント
- デーモンサービスとサービスの状態
- ネットワーク共有
- ユーザーアカウントおよびグループ
- ……
このように、サーバを構成する情報は実に多岐にわたる。しかし、これら多種多様な情報をすべて正確にバックアップしておくことで、初めてベアメタルリストアは可能になるのである。そのためには、まずは上記3つのレイヤーに分けて、それぞれに含まれる情報を整理するとよい。これは非常に地味な作業になるが、ベアメタルリストア実現のためには必須である。
ベアメタルリストアの2つの手法
ベアメタルリストアを実現するための具体的な手法は幾つか存在するが、本稿ではその中から代表的なものを2つ取り上げる。
イメージバックアップ
1つ目は「イメージバックアップ」である。イメージバックアップとは、HDDに保存された情報をそのまま丸ごとバックアップするものである。これにより、先ほど挙げた3つのレイヤーすべてを容易に復旧することが可能である。できる限り迅速に復旧したいサーバの場合は、イメージバックアップでベアメタルリストアに備えることはとても有効な手法である。
特に、元と同じ種類のサーバハードウェア上で復旧するのに適している。バックアップしておいたハードウェア関連情報が、そのまま使えるからだ。また、安定稼働している状態のサーバのイメージバックアップをあらかじめ作成しておき、何か不具合が起きたり動作が不安定になった場合に取りあえずイメージバックアップからベアメタルリストアを行い、安定状態に戻すといった使い方もできる。
サーバプロビジョニング
イメージバックアップはHDDの内容を丸ごとバックアップするため、どうしても保存するデータサイズが大きくなってしまう。また、複数種類のサーバイメージを保存、管理するのはかなり煩雑な作業だ。さらに、日々小まめにイメージバックアップを取得するのは、特にサーバの場合は運用上困難な場合も多いだろう。
このような問題を解決するには、構成情報や設定情報など各サーバに固有の情報だけを保存しておき、復旧時にはそれらを自動的にシステムに適用させることで元の状態に戻すという手法が有効だ。固有情報だけを保存するので、バックアップデータのサイズは小さくて済むのがメリットだ。また、ログを取るように頻繁にサーバの情報を残しておくことも可能である。
この手法は、障害からの復旧以外にも、同じ設定のサーバ環境を大量に構築する場合に有効である。例えば、同じ設定のサーバを全国の営業所に配置したり、新たに拠点が増えるたびに同じ設定のサーバを追加導入するなどのケースで役に立つ。また、古くなったマシンルームを新しい場所に移転する際に、サーバもすべて新品にリフレッシュし、同一のサーバ環境を一挙に大量に構築するような使い方も考えられる。
このようなたぐいのことを「サーバプロビジョニング」と呼び、実行に当たっては専用のソフトウェア(サーバプロビジョニングソフトウェア)を使用する。サーバプロビジョニングでは、アプリケーションによって作成されたデータまでを保存することはできない場合が多いため、別途一般的なバックアップソフトウェアを使って保存する必要がある。ただいずれにせよ、HDDに何も情報が入っていない状態から容易に環境を構築できるという点では、イメージバックアップと同じである。
ベアメタルリストアのコストメリット
たとえクラッシュしたサーバを動かせる状態に復旧できたとしても、障害発生前とまったく同じ状態まで戻せなければ、正常に動作する保証はない。そのため、これまで説明してきたベアメタルリストアの対策を、あらかじめきちんと講じておくことが大切である。
もちろん多大なコストを掛ければ、ダウンタイムを最小限に食い止めるために、クラスタ構成を組むなどほかの方法を取ることもできる。しかし今回解説したベアメタルリストアは、比較的費用が掛からないのがメリットである。従って、復旧時間が若干かかっても構わないサーバのバックアップ/リストアには適している。逆に言うと、極めてミッションクリティカル度が高く、ダウンタイムを極小化しなくてはいけないサーバにはあまり向いていないといえよう。
このように、すべてのコンピュータにベアメタルリストアが適しているわけではないが、取りあえず通常の再インストールや再セットアップよりも早く正確にシステムを元に戻したいという要件は、読者の皆さんの周りにもかなり多く存在するはずである(余談だが、実を言えば筆者が最も対策を講じたいのは、今自分が使っているクライアントPCだったりする……)。
<筆者紹介>
羽鳥正明
EMCジャパン株式会社 マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネジャー
同社にてバックアップ・リカバリ関連製品のプロダクト・マーケティングを担当。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー