ALMベンダーの動向を探る:第3回 日本IBM
IBMが推進する“分散型開発でのALMソリューション”
オフショア開発など複数拠点における開発プロジェクトが行われている現在、その開発生産性を向上させる環境の構築が重要となる。今回は、分散型開発にも対応するIBMのALMソリューションを紹介する。
開発方法論「RUP」を具現化したALM
今回は、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)が提供するALMソリューションを紹介する。その核になるのは、オブジェクト指向による開発方法のベストプラクティス「Rational Unified Process」(以下、RUP)を具現化した「IBM Rational Software」製品群と、それらの統合基盤である「Jazzプラットフォーム」だ。
RUPとは、米Rational Softwareが“スリーアミーゴ”(※)の手法や自社で培ってきた経験など、さまざまなプラクティスを反映させた開発方法論のこと。RUPでは、プロジェクト計画の指針や参加メンバーの役割、作業内容および成果物の形式などが詳細に定義されている。また、要求定義/設計、プログラミング、テストなどの一連の開発作業を反復(イテレーション)しながら開発することがその特徴でもある。
※ スリーアミーゴ:統一モデリング言語(UML)を開発した、グラディ・ブーチ氏、イヴァー・ヤコブソン氏、ジェームズ・ランボー氏の3人を指す愛称。
RUPは、Rational Softwareによって1998年に商用化され、同社を買収した米IBMが2003年に「IBM Rational Unified Process」と名称を変更。その後、同社はTelelogicやWatchfire、Cognosなどの競合企業を統合し、それらの製品をIBM Rational Softwareに組み入れている。同社のALMソリューションを活用するメリットは何なのか、日本IBMのソフトウェア事業ブランド・マーケティング ラショナル・マーケティング・マネージャー 服部京子氏に話を聞いた。
IBMが考えるALMとは?
服部氏によると、IBM Rational Software製品群は「アプリケーション開発の企画段階から、実装/メンテナンスまでを包括したライフサイクル全体の効率化を支援する」という。また、同社が統合した企業の製品を取り込むことで「ALMがカバーする領域をすべて網羅する。また、“パッケージソフトウェア”や“組み込み系”における開発での効果も向上した」という認識を示す。
さらに、これまで追求してきた「品質の良いソフトウェアの開発を支援する」という製品コンセプトに加え、「いかに“企業ビジネスに貢献できるソフトウェア”を開発できるか」にも注力するという。同社はRational Softwareの製品戦略のテーマとして「市場ニーズや企業の投資効果、そのビジネス戦略に見合ったソフトウェアの開発を支援する」ことを掲げている。それによると、Rational製品を活用して“市場ニーズを的確に反映できるソフトウェア開発の仕組み”を構築できるというのだ。
特に同社が注力するのが「ビジネス領域」だ。この領域のステークホルダー(利害関係者)は、従来の開発部門だけでなく企業の企画部門や経営層にまで広がる。彼らを支援するソリューションとしては、ビジネスモデルを策定する「エンタープライズアーキテクチャ」(以下、EA)、「プロダクト&ポートフォリオ管理」(以下、PPM)などが含まれる。また、開発プロジェクトの投資効果を計測/リポーティングするソリューションを提供している。
この領域をカバーする製品として、同社はEA関連ツール「Rational System Architect」「Rational Asset Analyzer」、PPMツール「Rational Focal Point」、計測/可視化/リポーティングツール「Rational Insight」などを提供している。服部氏は「こうした領域までを含めたソリューションを提供している点が、ほかのベンダーとの差別化要因ではないか」と語る。
さらに服部氏は「開発領域では、要求定義や要件管理に関心が集まっている。これらは専用ツールが使われていないことが多いが、特に改善すべき分野としての関心が高いようだ」と指摘する。同氏によると、現状では「Microsoft Office Excel」などで代替されていることが多いが、実際には要求の関連性の定義やその漏れの検知、詳細な分析などに使用するのは難しいという。
コラボレーティブ開発基盤“Jazz”
また、服部氏はビジネス/開発の両方の領域の連携基盤となる“Jazz”プラットフォームが同社の強みだという。
Jazzは、同社のRational製品開発部門が主導して2006年から取り組んでいる“次世代ソフトウェア開発基盤”の構築プロジェクトでもある。IBM Rational Software製品群はそのプラットフォーム上で稼働する。Jazzは「チーム開発の生産性を向上するALM環境を提供する」ことをコンセプトにしており、それを具体化する製品として日本IBMは2009年3月から「Rational Team Concert」(以下、RTC)と「Rational Requirements Composer」(以下、RRC)、「Rational Quality Manager」(以下、RQM)を提供している。
構成管理/変更管理、ビルド機能に加えて、チーム開発のコラボレーション基盤となるRTCは、プロジェクトやメンバーのタスク進ちょく状況などのデータを自動収集し、ダッシュボードにリアルタイムに表示する。また、チャットやRSSなどのコミュニケーション機能によって分散環境下での開発を支援する。
RRCは、プロセススケッチやストーリーボード、ユーザーインタフェーススケッチなどの視覚的なイメージによって顧客のシステム要求を管理することで、要求定義における作業の効率化を支援するツールだ。RQMは、Web画面上でのテスト状況の一元管理、テスト結果の追跡確認や問題が発生した場合の解決までの優先順位付けなどが可能な、テスト工程の効率化を支援するツールだ。
Jazzによるチーム開発の生産性を向上させる具体策は、個々人の作業単位である「ワークアイテム」を軸に開発のワークフローを自動化することから始まる。さらに、担当者の役割や作業ごとに異なるソースコードやビルド(実行ファイル)などの成果物をリポジトリで一元管理する。Jazzを活用することで「すべての作業がワークアイテムに結集でき、成果物間の追跡性や一貫性の保障、プロジェクト全体の可視化にもつながる」というのだ。
また、RTCは、Eclipseや.NETなどのほかの開発環境、Windows ServerやIBM System i/zなどのサーバ環境などにも対応し、「CVS」や「Subversion」などのオープンソースツールともデータの連携ができるなど、複数の異なる環境下での開発ライフサイクル全体を一元管理できる。
服部氏は「IBMの開発環境というと“Java系のプラットフォーム”というイメージを持たれがちだ。しかし、実際には企業の既存資産を活用しながら、それらと共存できるプラットフォームである」と説明する。
さらに、Rational Insightの情報収集や可視化機能を利用することで、チームの開発生産性とプロジェクトの成果をビジネス視点で評価・管理することが可能となり、ビジネス/開発の2つの領域における情報共有・連携が容易になる。こうした特性は、情報の共有が難しい、オフショア開発などの分散型の開発プロジェクトに適しているといえる。
アジャイル開発の適用状況
服部氏は「ウォーターフォール型の開発手法は、今後も大規模開発で使われ続けるだろう。一方のアジャイルは現在、主に小規模や組み込み分野で適用されているが、今後は大規模な開発での適用も増えることは間違いない」と語る。
そのため、RTCではアジャイル開発の管理を主体にしていたが、最新バージョンではそのほかの開発手法も取り入れることで、より柔軟なスタイルを追求するという。
「アジャイルは目新しいものではないが、日本では一部否定的な見解を示している企業もあるようだ。しかし、そうした企業でも“手戻りを最小限にしながら進める開発手法は良い”と思っていることが多く、実際に行われている開発は“アジャイル型”であることが多い」(服部氏)
開発環境のクラウド化を推進
今後の製品展開について、服部氏は「中堅・中小規模の企業でのクラウド型開発環境の導入が進むと予測し、その分野での事業展開も推進する」と説明する。
日本IBMは現在、「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」の2つの領域に対するサービス事業に取り組んでおり、その一環として“開発環境のクラウド化”事業を進めている。
米IBMは2009年6月に「IBM Rational Software Delivery Services for the Cloud」を発表した。また、パブリッククラウド向けサービスとして、Webサイトの品質検証ツール「Policy Tester on Demand」の提供を開始した。今後はRTCやRQMなどの提供も視野に入れているという。
さらに、中堅規模の企業での導入支援策として、3ライセンスまでは無償で提供するなど、各企業の用途やプロジェクト規模に応じたRTCのエディションを複数用意している。
開発プロセスのさらなる改善を目指す
ビジネス領域にも注力するという同社だが、そのターゲットである経営層にリーチするためには何が必要だと考えているのだろうか? 特に、経営層が気にする投資対効果(ROI)について、どうアピールできるだろうか。
この点について、同社はRTCを活用した場合のプロジェクトの効率性を評価する簡易診断ツールを公開する予定だ。同様の診断ツールをRQMやAppScanなどの製品でも展開する計画だという。
さらに、ソフトウェア開発をビジネスプロセスとしてとらえ、それを継続的に改善する枠組みである「MCIF(Measured Capability Improvement Framework)」によって、「開発プロセスのさらなる改善を進める」という。
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