ALMベンダーの動向を探る:第2回 マイクロソフト
チーム開発のための“環境、プロセス、ツール”をVisual Studioで提供
統合開発環境の次期製品版「Visual Studio 2010」においてALM機能の強化を表明したマイクロソフト。同社が考えるALMソリューションとは? 製品担当者に聞いた。
ALM(Application Lifecycle Management)ソリューションのアプローチは、ベンダーによってさまざまである。ALMでは文字通り「アプリケーションの開発から運用・保守までのライフサイクル全体を管理」するため、ベンダーごとに異なる基軸を持つ。例えば、前回紹介したセレナソフトウェアは自社の構成管理ツールを起点としたALMソリューションを展開している。
今回は、マイクロソフトのALMソリューションを紹介する。同社は、統合開発環境(IDE)の次期製品版「Visual Studio 2010」において“デモクラタイジングALM”というコンセプトの下、ALM機能へ注力することを表明している。同社が考えるALMとは、一体どのようなものだろうか? 製品担当者に話を聞いた。
マイクロソフトが考えるALMとは?
マイクロソフトは、前述したVisual Studioを中心として、開発の各工程を支援するツールを多く提供している。同社のALMソリューションの中核となるのは、チーム開発のための統合開発環「Visual Studio Team System」(以下、VSTS)製品群だ。
VSTSは、リポジトリ機能を持つサーバ製品「Visual Studio 2008 Team Foundation Server」(以下、Team Foundation Server)と、各工程やステークホルダーの役割に応じた専門的な機能を提供するクライアント製品によって構成される。
同社のデベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャ 近藤和彦氏は「ALMでは、アプリケーション開発のライフサイクル全体を最適化する、統合された開発環境の構築が必要だ。その実現のためには、ライフサイクル全般に関するすべての情報を集約するリポジトリが重要な役割を担う」と語る。
同社のALMソリューションでは、Team Foundation Serverで開発における全資産を一元管理する。プロジェクトメンバーは、Team Foundation Serverのポータル画面でタスクや進ちょく状況などの情報を共有する。近藤氏によると「すべてのステークホルダーの作業を同一の基盤上に統合することで、メンバー間での情報共有やプロセス間の連携性を向上できる」という。
前述したように、同社では従来、開発ツールであるVisual Studio、プロジェクト管理ツール「Microsoft Project」、ソースコード管理ツール「Visual SourceSafe」など、各開発プロセスを支援するツールを提供してきた。ただし、ツールから得られる情報を収集して活用するための基盤は、これまでは顧客側のソリューションがベースとなっていた。Team Foundation Serverによって、自社でもそうした情報連携の基盤を提供できるようになったのだ。
また、近藤氏は「VSTSでは、開発プロジェクトに存在するステークホルダーごとに最適化された製品を提供する点も強みだ」と語る。
| エディション名 | 対象者 | 概要 |
|---|---|---|
| Architecture Edition | ITアーキテクト、設計者 | モデル駆動型開発を支援するモデリングツール |
| Development Edition | 開発者 | コード静的分析やプロファインリングといったパフォーマンス分析など、コードの品質を高めるための支援機能を提供 |
| Database Edition | データベース開発者 | データベース自身のSQLのスキーマ管理やストアドプロシージャの単体テスト機能、テーブルの関係に基づいたテストデータ生成などを提供する |
| Test Edition | テスター | 単体テスト、Webテスト、ロードテスト、手動テストなどのテスト機能を提供する。また、オプション製品「Test Load Agent」を利用すると、より高度な負荷分散テストが可能 |
単一ベンダーのソリューションでできること
近藤氏は「マイクロソフトのALMソリューションでは一貫した開発フレームワークやツールを利用することで、多様なアプリケーションの開発が実現できる」と強調する。これを支えるのが、同社のアプリケーション開発/実行環境「.NET Framework」だ。
.NET Frameworkではフロント/バックエンドの業務アプリケーション、WindowsアプリケーションやWebアプリケーションまでを含め、幅広いアプリケーションの開発が可能だ。また、WindowsアプリケーションやWebアプリケーションなどに共通APIを提供しており、これを利用することで一定した品質を保つことが可能だという。さらに、現在使っているプラットフォームの延長としてクラウドOS「Windows Azure」を活用できる点も強みだとしている。
また近藤氏は「ほかのマイクロソフト製品と組み合わせられる点も、VSTSの導入メリットだ」と説明する。例えば、「Microsoft Office Excel」などの通常で使われているアプリケーションのインタフェースを利用する管理も可能だ。また、ALMソリューションで特に重要となる、“情報の可視化や分析”、“リポーティング”などの機能についても、同社の「Microsoft SQL Server」のAnalysis Serviceを用いて活用できる。
このように、同社のソリューションの強みは「製品ラインアップの豊富さと対応領域の広さ、いろいろなソリューションを組み合わせることができる点」にあるようだ。
「マイクロソフト製品だけでALMソリューションは完結できるのか?」という問いに対して、近藤氏は「ALMは異種混在環境で使えないと意味がない。Team Foundation Serverのテクノロジーはオープンなものであり、ほかのベンダーのツールとの連携も可能だ。.NET Frameworkがよく比較されるJavaプラットフォームに見劣りしない“オープンなプラットフォーム”である」と説明する。
新しいステークホルダーにも対応
さらに近藤氏は「ALMは特別な人だけが使うものではない。開発に携わる人全員が使えるようなソリューションを提供する必要がある」と強調する。
同社は、アプリケーション開発の新しいステークホルダーとして「デザイナー」に着目している。これは近年のトレンドでもある「RIA(Rich Internet Application)」に影響を受けている。同社では、RIAが浸透する上でデザイナーがアプリケーション開発プロジェクトに参画するため、ALMを取り巻くステークホルダーがさらに増えてくるとしている。
近藤氏は「すべてのプロジェクトにデザイナーが必要だとは思わない。しかし、RIAが注目される中で、デザイナーだけがプロジェクトの蚊帳の外に居るのは良くない」と語る。
マイクロソフトは、デザイナー向けのRIA開発ツール製品群「Microsoft Expression」を提供するなど、同分野にも注力している。その中でも、UI設計ツール「Expression Blend 3」はTeam Foundation Serverに対応するため、Visual Studioと連携したソースコードの管理も容易だ。同社では、今後もステークホルダーが増えれば、必要に応じて彼らに対応する機能を提供するとしている。
開発スタイルは今後、どう変化するのか?
近年、大規模開発へのアジャイル手法の適用が増えている。開発のスタイルは今後、どう変化すると考えているのだろうか?
「確かにアジャイル手法の導入は増えてはいるが、日本では依然としてウォーターフォール型が主流だ。開発プロセスのどの部分を改善するかは顧客やプロジェクトによって異なるため、“ウォーターフォールだから失敗するとか、アジャイルであれば成功する”というわけではない」(近藤氏)
同社では、ALMソリューションにはよりカスタマイズ性の高さが求められるため、開発手法にこだわらない製品構成を目指すという。
企業のIT投資を控える傾向は変わっていない。近藤氏は「経営者が常に考えていることは“作業の効率化と投資対効果をいかに両立させるか”だ。進化する技術に合わせるだけでなく、開発環境の自動化を支援することで、そうした企業経営にも貢献したい」と語る。
また、システム開発の動向については「今の開発技術は日進月歩で先が見えない。現在、マルチコアCPUが普及しているが、そのマルチコアの能力を最大限に活用できていない」と指摘した。その上で「Visual Studio 2010では並列プログラミング支援や、複数の.NET Frameworkのサポートなどによって、開発ツールの操作性向上を実現する」と語る。
近藤氏によると、VSTSでは今後、「コードの依存性の分析」「UMLへの対応の強化」「テスト計画の早期実施と進ちょく確認」「テスト環境のライブラリ化」などを行う。また、「Hyper-V」を活用した“仮想化されたテスト環境”を構築することで、本番環境とテスト環境とのズレやテスト環境の設定の負荷軽減などを目指す。
「いいツールがあれば、必ずしも生産性が上がるというわけではない。技術者が取り組みやすい環境、プロセス、開発ツールをセットで提供することが大事だ」(近藤氏)
マイクロソフトはALMソリューションの提供とともに、開発者向け技術情報サイト「MSDN」を中心とした支援策も展開するとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[アトラシアン株式会社] IT運用や従業員サポートは生成AIでどう変わる? 使い方や導入の流れは? -
製品資料
[株式会社みらい翻訳] 音声翻訳活用の課題を解決、“本当に使える”ツールの特徴とは? -
製品レビュー
[Wrike Japan 株式会社] 400店舗を支えるWalmart Canada、散在する情報やアナログな管理をどう変えた? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 年間100件超のDXプロジェクトを統合管理、JERAはどのように実現した? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] グローバルなクリエイティブ業務を合理化、エスティーローダーに学ぶ実践のコツ
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
2
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
3
「制御用組み込みPC」に関するアンケート
-
4
“AIコーディング”でどのツールを選ぶ? 「ChatGPT」「Claude」の真価
-
5
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
6
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
7
「複数AIの野放し」に歯止め Salesforceが6製品統合で挑むAI統制の覇権
-
8
「定期診断」発想は要注意? いまセキュリティに求められる持続的な対策とは
-
9
「身代金を支払う」以外のランサムウェア対策は本当にあるのか?
-
10
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
2
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
「スクラム」と「カンバン」の違いとは? アジャイル型開発手法を徹底比較
-
9
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
10
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー