ERPベンダーに聞く小売業のベストプラクティス:SAPジャパン編
日本小売独自の商習慣に対応するシステム選びを
言わずと知れた世界最大のERPパッケージベンダー、SAP。グローバル展開やM&Aに伴うシステム統合といった小売業が抱える課題解決を、同社はどう考えているのか。
SAP製品は財務会計や人事などの業務領域を中心に、業種・業態を問わずさまざまな企業で導入されているが、その一方で特定の業種に特化したソリューションも数多く提供している。本稿ではその中でも、同社が小売業向けに提供している各種ソリューションや、同社が考える小売業のベストプラクティスについて、SAPジャパン インダストリー戦略本部 サービス産業戦略部 部長 村上和也氏と、同社 インダストリー戦略本部 小売・流通産業担当部長 宮下研一氏に話を聞いた。
MDシステムにもパッケージ製品のメリットを
今日の国内小売業は、一体どのような業務課題を抱えているのだろうか。村上氏は次のように述べる。
「準大手や中堅の小売業の多くがアジアへのビジネス展開に乗り出しつつあり、そのために必要なシステム上の対応を模索しています。一方、海外展開を既に終えている大手小売業では、M&Aに伴うシステム統合や、企業グループ全体でのERPシステムの統一などが課題として挙がっています」(村上氏)
こうした課題に対してSAPジャパンでは、同社のERPパッケージ製品のワールドワイドでの実績・ノウハウや、企業グループでの導入実績などを生かしたソリューションを提供している。しかし、こと小売業の業務システムとなると、パッケージ製品はなかなかフィットしにくいという先入観を持つユーザーも少なくない。特にマーチャンダイジング(MD)領域に関しては、個々の企業や業界により業務形態が大きく異なり、また変化の激しい業務領域でもあるため、パッケージ製品は適用しにくいと思われがちだ。
しかし同社では、「Industry Solution for Retail」(以下、IS Retail)と呼ばれる、小売業に特化したソリューションテンプレートを提供することで、MD業務とパッケージ仕様とのギャップを極小化するソリューションに取り組んでいる。IS Retailは、SAPの共通ERP基盤上に展開される業界別のテンプレートの1つである。これまで、小売業でSAP製品を導入する際にアドオン開発を余儀なくされていた機能を、あらかじめ用意された形で提供する。宮下氏は、その具体的な内容を次のように例示する。
「例えば販売管理や購買管理のモジュールでは、売り上げの管理や仕入・在庫の管理などはどの業種でも共通の機能になります。しかし、小売業の場合はこれに加えて、商品分類の管理や、アイテムマスターの管理といった独自の機能が必要です。IS Retailは、こうした機能を共通ERPの機能に付加するものといえます」(宮下氏)
SAP ERPは細かい機能コンポーネントに分かれており、必要な部分だけを選んで適用できる。そのため、固有要件が多いMDシステムであっても、IS Retailのモジュールで多くの部分を賄うことが可能だという。
「IS Retailを活用することで、MDにもパッケージ製品を柔軟に活用することが可能になります。近年、ERPのコンセプトをMD領域にも広げ、統合メリットのみならず、コストや品質面でのメリットを積極的に活用すべきだと考えている小売企業が増えてきています。今後、小売企業が基幹系システムを構築する際には、こうした視点が重要になってくるでしょう」(村上氏)
SOAやBIを活用した小売業向けソリューション
同社のERP製品は、非常に多くのモジュールに分割されており、それらを組み合わせることでシステムが構築される。いわゆる、SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づいた構成が取られている。このアーキテクチャがもたらすビジネスメリットは大きいと宮下氏は言う。
「機能が細かいコンポーネントに分割されているので、SAPでカバーされている機能はSAPのコンポーネントを使い、それ以外は既存のシステムを活用するような形で効率的にシステムを構築することができます」(宮下氏)
最終的には、SAPのコンポーネントですべてをそろえることにより、POS端末からERPのデータベースまで、すべての情報を一気通貫で管理できるようになる。その結果、真に経営に貢献できるERPが実現するのだという。しかし、こうしたITのビジョンを持っている小売業は、必ずしも多くはないと村上氏は言う。
「特に中堅規模以下の小売業では、情報システム部門でもこうしたERPパッケージの導入メリットがまだ十分に理解されていないように感じています。しかし、業績を伸ばしている企業の多くはこうしたITのメリットを理解し、うまく活用し始めています。経営層のITに対する理解や、IT関連の人材に対する投資が今後の小売業にとっては重要なのではないでしょうか」(村上氏)
さらに同社では、小売業向けに独自の経営分析ソリューションも提供している。POS端末から収集される膨大なトランザクションデータを、同社の「SAP POS Data Management」という製品を使って取り込み、同じく同社製のBI製品のデータウェアハウス(DWH)に流し込み、「SAP CRM」や「SAP BusinessObjects」で分析を行うというものだ。国内ではあまり知られていないが、SAPは欧米においてはPOSソフトウェアも提供しており、端末からERPデータベースまで一貫したトータルソリューションを提供している。当然、日本でもPOSとのインタフェースモジュールを提供しており、国内POSベンダーが提供するPOSシステムとの本部側データ連携も十分対応可能である。
実際、ある大手家電量販店では、SAP ERPを利用した基幹システムにほぼリアルタイムに近い頻度で売り上げデータを反映する仕組みを構築している。店頭ではこのデータを基にリアルタイムで在庫情報を参照できるようになっており、販売機会の向上に大いに役立っているという。
また最近の傾向としては、通販事業で同社のERP製品を導入する事例が多いという。通販事業とERPパッケージは、非常に相性がいいと宮下氏は言う。「通販事業ではPOS端末や店舗とのデータのやりとりがなく、生鮮品の取り扱いなども少ないため、ERPの基本モジュールをそのまま適用しやすいのです。そのため、アドオン開発が非常に少なく済むという強みがあります」(宮下氏)
今後は日本独自の商習慣への対応を強化
同社は今後も国内小売業をターゲットとした製品・ソリューションの強化を続けていくという。特に、日本特有の商習慣や企業ニーズに合わせた機能強化に力を入れていくとしている。一例を挙げると、帳票の作成・出力機能や、特売におけるチラシ作成、あるいは日本国内で普及しつつあるEDI標準「流通BMS」への対応などがそれだ。また、日本特有のきめ細かい品質管理、期限管理に対応するための各種機能も強化していく予定だという。
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