iPadはおもちゃか?
CIOたちを悩ますiPad
コンシューマーはiPadが好きだ。企業のお偉方は、飛行機や電車の中でiPadをこれ見よがしに使っている。CIOやIT担当者は、iPadを企業に受け入れるべきか?
iPadはITの花形になれるだろうか。
それが、米Boston ScientificのCIOリッチ・アドゥチ氏や米Parexel InternationalのCIOジョー・ホッペ氏、米John Hancock Financial ServicesでITを担当するCIOのアラン・ハックニー氏らから受ける印象だった。ボストンで最近開催されたCIO Executive Leadership Summitの参加者で、iPadを企業に導入した経験を持つ他のCIOの頭の中でも、同じような疑問が渦を巻いているようだった。
また、ウィスコンシン州で最近開催されたFusion 2011 CEO-CIO Symposiumでも、エンタープライズモビリティの話でもちきりで、iPad熱の急速な高まりが感じられた。米American Family Mutual InsuranceでIS担当の上級副社長を務めるクリスティン・カークコンネル氏は、4000人以上の営業担当者へのiPadの導入に先立ち、現在100人の営業担当者を対象にテストをしている。詳細は明かせないが、これは「(同社が)本当に競争優位を獲得できる可能性がある」プロジェクトだと同氏は話す。
コンシューマーはiPadが好きだ。企業のお偉方は、飛行機や電車の中でiPadをこれ見よがしに使っている。2011年1月に発表された米Appleの第1四半期の財務報告によると、Fortune 100企業の80%以上がiPadを導入済みかテスト中であるという。
しかし、IT部門がiPadのエンタープライズ導入を認めているとは驚きだ。
「あまりに急激な展開に皆驚いている」と米Gartnerのモバイルデバイス部門でリサーチ担当副社長を務めるカロリーナ・ミラネッシ氏は言う。「Gartnerではもっぱら、実際にiPadを購入して、どのようなものかを理解しておくようにというのがCIOへのアドバイスになっている。好むと好まざるとにかかわらず、この波は押し寄せてくるのだから」
企業でのiPadはおもちゃかツールか
しかし、Gartnerのこのアドバイスは、既に時勢に合わなくなっているかもしれない。最近では米国で開催されるどのカンファレンスに行っても、恐らくCIOたちはiPadを単に使用する以上の関わり方をしている。企業データを保護しながら社員が所有する端末の業務利用を許可するというトレンド(「bring your own device:各自の端末の持ち込み」の略でBYODと呼ばれる)に対応する形で、規模的には全社レベルでiPadを導入する方法についてのブレインストーミングも行っている。モバイル端末管理製品についてのメモを比較し、タブレットのセキュリティについてのヒントを教え合い、社内のアプリケーションストアにアプリケーションを登録する上でのアドバイスを模索してもいる。数千人のフィールド営業マンにiPadを導入する場合であっても(John Hancock社とBoston Scientific社のケース)、病院のベッドの傍らで治験結果を効率よく管理するためのiPadアプリケーションを開発する場合でも(医療関係のリサーチ受託会社Parexelのケース)、CIOは企業へのiPad導入にかなり積極的なようだ。
ところで、iPadの企業への導入が進んでいるのは業務上の理由だけではないと、米The Nemertes Research Groupの上級リサーチアナリスト、テッド・リッター氏は指摘する。リッター氏のところでは、この3カ月でCIOからのiPad自体についての問い合わせと、タブレット全般についての問い合わせが急増しているという。カンファレンスでiPadを賞品にもらったというCIOから電話を受けた後、「数週間のうちに、このCIOの上司全員がiPadを手に入れ、セキュリティ担当者は対応に追われることになった」と明かす。
iPadの企業への道を開いたiPhone
職場でのiPadの急速な普及は驚くべきことかもしれないが、IT部門がiPadを快く受け入れるのはそれほど不思議な話ではないとGartnerのミラネッシ氏は言う。「考えてみれば、iPadはiPhoneの延長線上にあり、ITの目から見れば同じ端末だ」と同氏。iPhoneは、セキュリティをはじめ、さまざまな面で企業向けに最適化されていなかったプラットフォームを採用していたが、企業に入り込んできた。「IT部門は時間をかけてこの問題を解決してきた。iPadに使われているプラットフォームは、今ではIT部門が抵抗なく扱えるようになっている」とミラネッシ氏は話す。
持ち運びできるデータ量が増えるという理由から、タブレットという新しいフォームファクタでは、さらにセキュリティ対策が必要になる可能性があると専門家は指摘する。iPhone 3Gに搭載されているハードウェアの暗号化機能、米Cisco Systemsや米Citrix Systemsをはじめこのような端末の管理アプリケーションを開発するベンダーによる取り組み、そして、技術的な支援でないにしても、これらのモバイル端末のエンタープライズ対応を推進するApple自体のマーケティングなどを考えると、iPadが企業に取り込まれていくのは自然だとミラネッシ氏は語る。
確かに、Appleのモバイル端末の大規模導入に伴う文化的、技術的な課題は、医療機関向けサービス大手の米RehabCareでITを統括するディック・エスキューCIOが経験したほどの苦労をせずに解決できるだろう。同氏は、テクニカルサービススタッフの警鐘に従って、まず社員を対象にiPhoneを導入し、続いて約1万人のセラピストにiPod touchを配布することにしたという。RehabCareではBlackBerryを使用していたが、スタッフたちはiPhoneのリクエストが殺到するのを見越して、まだ時間があるうちに「先手を打って、混乱の芽を摘んでおくように」と同氏に進言したのだ。
「そこで『では、iPhoneを12台購入し、Exchangeがインストールできしだい、副社長に配布してくれ。確かに、皆が欲しがっているからね』と言ったんだ」とエスキュー氏は回想する。同氏はITスタッフにExchangeのインストールにかかった時間を報告するように指示し、1カ月後にヘルプデスクに経過を確認することにした。「結果は、Exchangeのインストールはすぐに完了し、ヘルプデスクへの問い合わせは1件もなかった」という。
ITの十八番「ノー」を封印
それが、エスキュー氏の部門で「通常のITとは異なり、全てにノーを言わないようにする」最初の一歩だった。しかし、同氏と歩調を共にするCIOはあまりいなかった。また、現在ではコンシューマー技術を企業に導入する際に推奨されるベストプラクティスの一部は、その当時は、まだ定着していなかった。例えば、現在のベストプラクティスの1つは「Appleのアプリケーションストアをモデルとして、企業が管理するアプリケーションストアを構築する」ことだ。企業でアプリケーションストアを用意すれば、CIOは社員がダウンロードできる外部アプリケーションを限定し、一般のアプリケーションストアから社内アプリケーションを隠すことができる。
また、事例がほとんどなく、技術も未熟だったため、例えば「社員が各自で個人の端末を登録してIT部門のサポートの手間を軽減する」「証明書を使用する」などといったベストプラクティスについても、他のCIOからのフィードバックは限られていた。これらのベストプラクティスはノートPCでは一般的ではないが、快適なユーザー体験を提供するには欠かせないと一部の専門家は話す。また、現在急成長しているモバイル端末の管理ベンダーで、これらのベストプラクティス全てに対応すると宣言しているベンダーはほとんどいなかったと、エスキュー氏は明かす。同氏の場合は、AppleのiOSに詳しかったことから、米MobileIronを採用した。
「常に何事にもノーというIT部門にならないようにした」とエスキュー氏。「企業として何の手も打たず、無限の可能性を秘めたコンシューマー技術を否定しようと本気で考えるとしたら、それは無謀だ」
ただし、これは、みさかいなくイエスを言うことではないとエスキュー氏はくぎを刺す。RehabCareではiPhoneとiPod touchの早期採用により、リハビリを受けられる患者の評価と記録にかかる時間を大幅に短縮でき、業績向上につながった。
Parexelのホッペ氏も同じ意見だ。同氏は生死に関わる、秘匿性の非常に高いデータを扱う規制の厳しい業界でITを管理している。そのような業界にあっては、新しい技術を無計画に採用するわけにはいかない。
「リスクとイノベーションのバランスが問題で、選択眼が必要だ」と、ボストンのカンファレンスで他のCIOにホッペ氏は話している。
例えば、Parexelでは3年前に電子カルテを導入したが、標準が確定していなかったため、膨大な時間と資金が無駄になるところだった。それに対し、ホッペ氏が率いるIT部門では、現在、Parexelの第I相臨床試験を自動化するシステムの開発を進めている。この臨床試験では、病院で実施され、大量のデータを処理し、継続的な患者のモニタリングが必要になる。iPadはこのシステムで広範囲にわたって使われる予定だ。「業務への適用性を確認できるため、この場合は早期採用が有効だ」と同氏は話す。
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