Oracle EBSプロジェクト最新動向【第1回】
ベテランマネジャーが垣間見たOracle EBSプロジェクトの実態
大規模向けERPパッケージである「Oracle E-Business Suite」のプロジェクトを成功させ、経営に最大限生かすにはどうすればいいのか。経験豊富なコンサルタントがポイントを解説する。
問題となった運用の難しさ
Oracle E-Business Suite(Oracle EBS)の大規模案件が盛んだったのは2000~2010年だ。まずはそのころのプロジェクトの状況を簡単に振り返ってみよう。Oracle EBSの特徴や課題が見えてくる。
この時期に問題となったのは、システムカットオーバー後もなかなか収束しないOracle EBSシステムの運用についての問題だった。特にエンドユーザー企業自身がOracle EBSを運用する場合、要件・仕様合意後に、キャパシティーや性能管理、障害監視、その他各種リポーティングなど運用に関する機能でプログラム追加を伴う問題が発生しているケースが見受けられた。
ERP導入におけるアプリケーション開発は、プロジェクト全体における予算、開発規模、難易度など多くの面で規模が大きく、相対的にカットオーバー後の運用における課題が目立つことは少なかった。だが実際は、運用保守工程に入っても運用についての問題がなかなか収束しない事例が多くあった。以下で、運用についての問題が発生する理由を説明する。
意識の問題
理由の1つは、ERPシステムなどの基盤領域は「実際に動かしてみないと、期待した通り動作するか、性能が出るか分からない」という側面があることだ。そのため要求事項・仕様を合意して、変更管理を通じてプロジェクトを管理するという意識が全般的にユーザー企業の中で弱くなっていたケースが多い。つまり、厳密に仕様が管理されるアプリケーション開発と比べて、運用は「なあなあ」になっていたと考えられる。
方法論、スキルの問題
Oracle EBS案件はパッケージを活用した開発だが、その基盤ではハードウェアやソフトウェアの進化、多様化に追従するため、旧来のスクラッチ開発の方法論を採用している企業が当時は多かった。パッケージを活用した開発では現行調査、要件分析・定義の方法論を確立させる必要があるが、企業によっては部分的にしかその方法論が浸透していない。そのため運用の改善に遅れが出たのである。
非機能要件の未達
プロジェクト後半やカットオーバー直前・直後での性能問題の発生については、非機能要件が関係する。ハードウェア、ソフトウェア個別のトラブルシューティングやチューニングを実施できるテクニカル人材は数多くいるが、データやシステム構成、プロジェクト期間、予算などのプロジェクト特性を踏まえながら、ERPシステムのサイジングや性能試験の計画を検討し、さらにプロジェクト全体のプロジェクトマネジャーと調整し、それを全体計画に落とし込むという非機能要件をまとめることができる人材は、多くはなかった。
このような人材には、Oracle EBSの導入経験だけでなく、テスト方法論、品質/リスク管理、見積もり手法など、広範囲な知識と経験が求められる。またコンピュータアーキテクチャやデータベース、データ通信、アプリケーション開発などさまざまなスキルと経験も必要だ。Oracle EBSの大規模案件はそう多くなく、経験豊富なベテラン人材を探すのは意外に難しいという側面もあった。
Oracle EBSに取り組む3つのユーザータイプ
それでは次に2010年前後から2011年までのOracle EBSプロジェクトの傾向・動向を説明する。2000~2010年までと比較すると、日本国内の経済状況やERP市場の成熟の影響からか、Oracle EBSに限らず、大規模案件や新規システムの案件数は減っている。
特に製造業では、業務改革を伴うケースや、新しいビジネス、業務に伴う本当の意味での新規システム開発が先送りや見送りになるケースが目立っている。逆に足元の現行システムでは、システムが足かせ(保守切れや最新ハード、ソフトとの相互接続不可など)になり、システム統合化を進める障壁になっている。
企業はコスト削減のため、現行システムの機能や帳票削減、内製化など地道な活動を行っている状況だ。運用保守についてもギリギリの予算で行っている。運用保守費用削減のため、ベンダー変更を検討している顧客も多いが、リスクが大きくて踏み出せず、ジレンマを感じているのが実態だろう。
そのような全体状況の中でも、Oracle EBSによる新規システム開発やバージョンアップに積極的に取り組んでいるユーザー企業もいる。そのユーザーのタイプは3つに分けられる。1つは「新規ビジネス型」で、グローバルSCMを実現するためOracle EBSによる新規プロジェクトを開始するケースだ。もう1つは「垂直拡張型」で、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)対応や、組織変更対応(グループ会社や支社、工場の廃止や統合)を実現するために、バージョンアップを行うケースだ。3つ目は「水平拡張型」。全体の運用保守コスト削減のため、周辺システムとの統合も視野にバージョンアップを実施するケースだ。
Oracle EBSプロジェクトに求められる変化
全てのシステム開発で、深さの違いはあれ、ビジネスの成熟、コスト削減の要請とITの進化(ハードウェア高速化、クラウドコンピューティングの進展など)を要因に、システムの共用、統合が当たり前になっている。その中で、部門別の縦割りシステムから脱却し、全体最適を実現するためには、「どのシステムから手を付けるか(優先度)」「どのようなアプローチで統合するか」などの戦略が重要となる。具体的には、最終的な青写真を描いた上で、効率性や技術力を調査・加味しながら、合理的な戦略に落とし込んでいく必要がある。
全体最適を実現するためには、企業内のシステム全体の理解が欠かせない。初期のデザイン次第によって、運用保守の最終的な品質やコスト削減効果が大きく左右されるからだ。Oracle EBSを軸に全体最適の検討を進めていく場合には、これを担当するテクニカルマネジャーやコンサルタントには、Oracle EBSのハイレベルな知識、経験はもちろんのこと、企業内に稼働している数多くのハード、ソフトウェアに関する知識や利用経験、異なる運用要件のシステムを統合するための多くの運用経験が必要になるだろう。
このような状況を考えると、今後のOracle EBSプロジェクトで考えるべき重要テーマは、運用保守コストの削減、環境変化(IFRSなど)対応を低コストで実現させられるバージョンアップ方法などが挙がるだろう。次回は、Oracle EBSのアーキテクチャについて解説する。
小林壮男
TIS株式会社
エンタープライズビジネス第1事業部 エンタープライズビジネス第1部 グループマネージャー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
9
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
10
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー