ERP Now!【第7回】
ERP、次の常識は超高速統合システムか
複数のシステムを組み合わせて稼働させるERPシステムの常識が変わりつつあります。大手ベンダーは複数システムを最適な形で組み合わせた統合製品に注力しています。ERPの将来の姿を考えてみましょう。
企業の会計や人事、在庫などを管理するERPシステムは複数のシステムで構成することが一般的です。つまりERPパッケージが稼働するサーバの他、データベースサーバ、アプリケーションサーバ、ストレージシステムなど複数のシステムを組み合わせることで、高信頼で高速なERPシステムを作り上げているのです。しかし、そのERPシステムの常識が変わりつつあります。
将来のERPシステムは超高速なERP向けの統合システムで稼働している可能性が高いといえるでしょう。ここでいうERP向けの統合システムとはERPパッケージとデータベース、ミドルウェア、ストレージなどのシステムを最適な形で統合したアプライアンスです。
統合システムをアプライアンスで提供
この流れを推し進めているのは、ERPパッケージで最大手のSAPと、Oracle(オラクル)です。SAPジャパンは2010年12月に「真のリアルタイム性を実現する」と銘打った新製品「SAP HANA」を発表しました。HANAはメモリ上にデータベースを展開するインメモリデータベース技術を基盤にすることで高速な処理を実現するアプライアンス製品です。インテルのXeonプロセッサーに最適化されていて、主にデータ分析(OLAP)に高いパフォーマンスを発揮します。HANAはヒューレット・パッカードやIBM、富士通、デル、シスコシステムズのサーバに搭載され、アプライアンスという形で提供されています。
HANAは上記のように情報系といわれるOLAPに特化したデータウェアハウス(DWH)向けのアプライアンスですが、将来はERPなどの更新系(OLTP)の処理にも活用される予定です。SAPジャパンのリアルタイムコンピューティング推進本部長 馬場 渉氏は「更新系はこれからのチャレンジ。既にHANAの上でSAPは動いているが、たまに落ちる。目的を選べば実用的になっている」と明らかにします。SAPが分析系アプリケーションだけではなく、従来のリレーショナルデータベースを置き換える存在としてHANAを捉えていることは明らかでしょう。
ビッグデータをインメモリデータベースで処理
馬場氏は現在のリレーショナルデータベースについて「アプリケーション開発におけるボトルネックになっている」と指摘します。業務のさまざまな分野でITシステムを使うことが普通になり、一般社員のモバイルデバイスの利用も加速している中で、企業が扱う必要があるデータ量は急速に増えています。同時にその大量データをリアルタイムに分析し、経営に生かすことを検討する企業も増えてきました。このような“ビッグデータ”を扱うには既存のリレーショナルデータベースでは性能不足というのがSAPの認識です。
これらの問題を解決するためにSAPは2005年ごろからインメモリデータベースの自社開発をスタートさせました。これまで述べたようにHANAの当面のターゲットはDWHでの利用ですが、「革命的なスピードのDWHはアプリケーション基盤となり得る」(馬場氏)と考えているのです。そしてHANAを最高のパフォーマンスで稼働させるにはソフトウェアだけではなく、ハードウェアの最適化も必要としてアプライアンスという形態で提供しているのです。
SAPは実際、HANA上で稼働させることに最適化された「インメモリアプリケーション」を開発しています。既にSaaSのERPである「SAP Business ByDesign 2.6」などを発表(国内は未発表)していて、高速なデータ分析が求められるエリアを中心にアプリケーションを拡充させる予定です。馬場氏は「インメモリデータベースはあらゆるアプリケーションに組み込んでいく。全てのSAPアプリケーションがインメモリに対応していく」と話しています。
ユニクロも統合システムを選択
Oracleも自社ERPパッケージの統合システム化を進めてきました。プラットフォームは統合システムの「Oracle Exadata」です。買収したサン・マイクロシステムズのサーバやストレージの他にネットワーク機器、Oracleのミドルウェアなどを統合したシステムです。Exadataもトランザクションを高速処理するためにハードウェアやソフトウェアを最適化していて、既に多くの導入事例があります。利用しているデータベースはOracle Databaseなので従来のリレーショナルデータベースですが、I/O性能の向上やSSDの活用などで、システム全体の高速化を図っています。
日本オラクルのテクノロジー製品事業統括本部 データベースビジネス推進本部 製品推進部 部長 人見尊志氏は「ERPパッケージをExadataで動かすケースは増えてきている」と実績を説明します。その1社はユニクロを展開するファーストリテイリング。同社はERPパッケージ「Oracle E-Business Suite」の会計や人事のモジュールをExadataで稼働させています(参考記事:ビッグバン導入が復活? 注目したい3つのERP導入事例)。
キーワードは性能向上、統合、標準化
人見氏はERPパッケージの統合システムでの利用が増える背景として、ユーザー企業がERPの「性能向上」「統合」「標準化」を求めていることを説明しました。ビッグデータを扱うためには、ERPを稼働するシステムの高い処理性能が求められます。また、運用管理の負荷やライセンスコストの低減を狙って、分散していたサーバを1つのシステムに統合する動きも強くあります。さらに業務の効率化やITガバナンスの強化のためにITシステムの標準化を進めたいというニーズも顕著です。人見氏は「ExadataではOracleがハードウェアの構成を決めて事前に検証している。そのためにユーザー企業はシステム上のアプリケーション開発に集中できる」と強調します。
企業情報システムは再び統合へ
ERPパッケージを統合システムで提供する形態は、かつてのメインフレームやオフコンを思い起こさせます。違いは統合されるそれぞれのシステムがメインフレームのような独自技術ではなく、業界標準の技術を採用していることです。そのためユーザー企業は統合システムに縛られることなく、システムのコンポーネントを変更し、他のシステムと柔軟に連携できるといいます。ユーザー企業にとっては、最適化され、検証された統合システムを採用することで、システム構築やテストにかかる時間とコストを削減できるというメリットがあります。
企業情報システムは統合されたメインフレームから、分散したオープン系システムへと、ここ20年ほど進んできました。そのサイクルが回転し、システムが統合へ再び向かっているといえるでしょう。
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