クラスタで実現できる可用性のレベルは?
クラウドコンピューティングはクラスタリング技術を滅ぼすのか
可用性や負荷分散に用いられてきたクラスタリングは今、その座をクラウドに奪われつつある。だが、クラウドでは対応できない用途もあることを理解しておく必要がある。
クラウドは新しいコンピューティングクラスタになった。クラスタリング、すなわち2台以上のデスクトップを緊密に連動することにより高可用性システムを実現する手法は、メインフレーム初期の時代から存在していた。しかし今日、仮想化ツールを利用したクラスタリングという新たな手法の魅力が高まっている。その背景には、企業のIT部門において仮想サーバの利用経験が豊富になってきたこと、そしてクラウドコンピューティングベンダーの製品で高可用性機能が強化されてきたことがある。
かつて、クラスタリングは非常に専門的な分野だった。ほぼ同一の複数のコンピュータをセットアップし、特殊なOSバージョンを動作させることによって、これらのPCを同期させる必要があった。PC間でデータを非常に高速に移動するための特殊なネットワーキングアダプターも必要とされた。
しかしネットワークが高速化し、かつては専用のクラスタ構成でしか実現できなかった各種サービス(高可用性、仮想ストレージ管理、短期的サーバフェイルオーバーなど)の組み合わせが仮想世界で利用できるようになった。ディザスタリカバリアプリケーションの代替として利用できるサービスも登場した。
クラウドおよび管理可能なクラウドベースのアプリケーション配信がさらに普及し、IT部門が仮想化されたアプリケーションの配信のノウハウを蓄積するのに伴い、こういった知識をクラスタリング機能の実現のために活用できるようになった。
ディザスタリカバリの改善で衰退するクラスタリング
このような状況が生じたのは、仮想マシン(VM)はクラウド内で容易に移動・複製できるので、プライマリサーバがダウンした場合でも、予備サイトを素早く立ち上げることができるからだ。
「これまでディザスタリカバリとは無縁だった顧客もそれを利用できるようになった」と話すのは、仮想化技術を専門とする米SteelEye Technologyのボブ・ウィリアムソン執行副社長だ。「以前であれば、新たに物理サーバを購入し、プライマリマシンがダウンした場合に備えて準備しておく必要があった。クラウドは広域ディザスタリカバリを配備する初期コストを引き下げ、以前は検討することさえおぼつかなかった多数の企業にもその可能性を切り開いた」
大手仮想化ベンダー各社はこの2年間、より強力なディザスタリカバリ/事業継続機能を提供する能力を高めてきた。米Citrixは米VMLogixを買収し、マシン構成の自動セットアップ/分解技術および複数のハイパーバイザーと連係可能な自動化ツールを手に入れた。
一方、米VMwareは「vFabric」および「vCloud Director」をリリースした。vFabricは、軽量型アプリケーションサーバ向けのJava開発環境であるSpring(VMwareが管理するオープンソースプロジェクト)を負荷分散などのインフラニーズに対応させたもので、さまざまなクラウドインスタンス間での移動を可能にする。vCloud Directorは、仮想データセンターの作成時に複数のVMを管理したり、設定済みのアプリケーションサービスやインフラをセットアップする機能を提供する。
新しいVMのプロビジョニングを自動化したり、ディザスタリカバリを容易にしたりするのに役立つツールを提供するベンダーもある。例えば、米Novellの「Cloud Manager」は、ユーザーが1カ所のWebポータルを利用して新しいワークロードを要求・承認・配備できるテンプレートベースのプロビジョニングプロセスを自動化した。また、同社の「Forge」アプライアンスは、ワンクリック式フェイルオーバー機能と柔軟なリストア機能によって、迅速かつ簡単にワークロードを復元できる。
しかしこれらの製品は、トランザクション処理アプリケーションには向いていない。こういったアプリケーションでは、オンライン決済処理や航空券の予約などを扱うために即時のフェイルオーバーが必要とされるからだ。
Novellの幹部でデータセンターエバンジェリストを務めるカール・ドリスコ氏は「1件のトランザクションさえも失うことが許されず、フェイルオーバー後に新しいマシン上でこのトランザクションを再処理しなければならない業務など、厳密なクラスタリングが要求されるケースもある。仮想マシンがダウンすると、メモリ上で処理中のデータが失われる」と指摘する。
「サーバの状態を保持する必要があるトランザクション処理システムを使っているのであれば、専用のクラスタリングソリューションが必要になるだろう」と話すのは、米Cassattの製品管理ディレクター、ケン・エステリッチ氏だ。Cassattでは仮想セッションを管理するための自動化ツールを提供しているが、高可用性型仮想アプリケーションは、要求が比較的低いクラウドベースのビジネスアプリケーション向けだという。
クラウドとクラスタリングの結合
初期のカスタムクラスタリングソリューションが抱えている問題の1つは、クラスタを構成する各物理マシンには同一のハードウェアとOSバージョンが必要とされるということだ。これに対してクラウドはより寛容で柔軟だ。もちろんコストも低い。
もう1つの問題は、旧式のクラスタの多くは各コンポーネントを結び付けるための高速リンクが要求されることだ。これと比べるとクラウドベースの製品は要求が低く、標準的なインターネット回線のように遅延時間が長いコネクションでも大丈夫だ。カナダのVM6 SoftwareはHyper-Vをベースとした高可用性製品「VMex」を開発した。これは専用のハードウェアを使わなくても2台のPCをクラスタ化できる製品で、要求が高くないアプリケーションであれば通常のイーサネットコネクションでも利用できる。1台目のHyper-Vマシンがダウンすれば、2番目のマシン上で全てのVMが自動的に立ち上がる。
こういった“疑似クラスタリング”サービスの人気が高まるのに伴い、サードパーティーのモニタリングベンダーの技術も洗練され、より完成度の高い製品が提供されるものと期待される。
これはITマネジャーにとって、クラウドとクラスタリングとの間の相互関連と補完関係が高まることを意味する。この2つの技術は登場した歴史的背景も基盤となるインフラも異なるが、両者は今、結合し、複雑なエンタープライズワークロードを管理するための強力なツールを提供しようとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
7
AI時代のITインフラ戦略とは? 販売代理店が知っておきたい最新トレンド
-
8
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
9
人間のせいでAIエージェントの生産性が上がらない
-
10
「IBM i(AS/400)はクローズドなシステム」という誤解 DXに寄与する一歩
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー