地域医療連携ソリューション紹介:日本IBM
医療の質を底上げするデータ活用を支援 日本IBM
日本IBMは1995年に統合医療システム「IBM CIS(Clinical Information System)」の提供を開始。データ分析に対する独自のこだわりで、医療の質の底上げに取り組んでいる。
10年後の医療を見据えた「IBM CIS」
大学病院を中心とした医療機関の情報化プロジェクトを数多く手掛けてきた日本アイ・ビー・エム(IBM)。同社はデータベース製品の「IBM DB2」やデータ分析プラットフォーム「IBM SPSS」「IBM Cognos」などの製品群を連携させることで、レセプトコンピュータ(レセコン)や電子カルテ、オーダリングなどの医療システムの高度化に長年にわたり取り組んできた。
そんな同社が地域医療連携の普及を支援するため、現在注力しているのが「データの再利用を容易にするシステム環境の整備」である。具体的には、1995年から提供を開始した統合医療情報システム「IBM CIS(Clinical Information System)」を中核としたデータ管理基盤の確立と、標準化技術を採用したシステム間の情報連携の強化だ。
データの活用に向けた“2つ”のアプローチ
日本IBMがデータの再利用にこだわる背景には、医療機関が既に多くのデータを蓄積しているものの、その活用が進んでいないという現実がある。日本IBMの公共事業 医療事業部長 浅野正治氏は「医療機関の情報化は着実に進んでいる。ただし、そこで作成されるデータの種類は多岐にわたり、その量も膨大だ。また、医療機関ごとに情報化の狙いが異なるため、地域医療連携に利用しやすい形式でデータが管理されていないことが多い」と説明する。そして、この点が地域医療連携を含めた医療の質や効率の向上を阻む要因だと指摘する。
その解決策として、同社は院内のデータ管理基盤を整備し、標準化技術を採用して地域医療連携を促進することに取り組んでいる。いわゆるチーム医療の質の底上げも実現されるというのが、地域医療連携における日本IBMの描くシナリオだ。
その実現に向け同社では、医療情報の共有基盤の構築を目的とした「XDS(Cross enterprise Document Sharing)」や「ATNA(Audit Trail and Node Authentication)」などの標準化技術を採用し、IHE(Integrating the Healthcare Enterprise:医療連携のための情報統合化プロジェクト)に即したシステムを実装。さらに各システム間の相互接続性を確保し、地域の特性やニーズに応じてデータを柔軟に活用する仕組みの構築に注力している。同社は保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の標準化推進部会などの活動を行っており、データの互換性確保を目的とした「基本データセット適用ガイドライン」の策定にも携わっている。
また、同社は薬剤や検査結果、医療画像など現場の診療で必要とされるデータを集約する情報連携基盤「IBM HIE(Healthcare Information Exchange)」を確立。同基盤を用いることで、家庭で測定した体重や血圧、血糖値などのデータを遠隔でモニターしたり、疾病管理に役立てる「リモートヘルス」を可能にしている。
加えて、医療機器や健康管理サービスのシームレスな連携による健康管理の支援を目的とした団体「コンティニュアヘルスアライアンス」の設計ガイドラインへの準拠も推進している。日本IBMはこれまで培ってきたRFIDなど多様な要素技術におけるノウハウを活用し、「各種デバイスから収集されたデータを共通基盤に格納し、そこから必要なデータを電子カルテに転送することで、在宅医療分野など医療における新しいIT活用に取り組んでいる」(浅野氏)。現在、その実現に向けて技術の用途開拓に力を入れているところだという。
データの管理手法にも独自のこだわり
一般に電子カルテはデータが肥大化し、実運用の過程でレスポンスが遅くなりがちだ。CISでは独自のデータ管理手法によって遅延が生じないように設計されており、そうした点が医療機関から支持を集めているという。
一方で、日本IBMが地域医療の普及促進に向けた新たなキーワードとして注目しているのが「災害対策」である。大規模災害の発生時には、医療従事者は診察室以外での対応に追われることになる。その結果、診療に必要な情報を十分に得ることができない事態も想定される。
「東日本大震災を契機に、とりわけ自治体から地域医療連携が注目を集めるようになった。日本IBMのクラウドサービスやシンクライアント、データセンターなどを活用すれば、そうしたニーズにも対応できる」(浅野氏)
日本IBMのソリューションでは、シンクライアント端末でリモートから院内情報にアクセスし、時間や場所を問わず診療に必要な情報を取得できる。また、遠隔レプリケーションなどの対策を実施することで、災害によるシステムダウン時でもシステムの継続利用が可能だ。
地域医療連携は自治体と中核病院、医師会などが一体となって取り組む必要があり、関係者の意見調整には困難も伴う。日本IBMでは、組織の体制面まで踏み込んだアドバイスを行うことも少なくないという。「地域医療連携のポイントは、持続的な運用体制の確立にある。各医療機関における役割と体制、目標を適切に設定することが重要であり、勉強会を開催するなどその支援活動にも取り組んでいる」(浅野氏)
データを基に医療従事者の意思決定までリアルタイムで支援
日本IBMでは情報連携の接続機器の多様化と情報管理の高度化を柱に、データの活用支援に積極的に取り組んでいる。診療情報は多種多様な時系列データが分散して存在するため、医療分野は他の分野と比べて情報活用が困難な分野だといわれている。「現状では、データの統計に活用がとどまるケースがほとんどだ」と浅野氏はいう。しかし、日本IBMでは、データの分析結果を基にリアルタイムに医療従事者の意思決定までを支援するシステムの構築を見据えている。
「検査結果や過去の診療履歴を基に、最適な診療プロセスの発見にも役立てられる。将来的には各医療機関がデータを持ち寄り、臨床研究を目的とするデータバンク化によって、医療機関が単独では困難な特定疾病の研究をより効率的に実施できる環境も整えられるはずだ。もちろん、セキュリティを考慮した上での実現を目指す」
医療機関との共同プロジェクトを通じ、IBMが医療での大規模データ分岐における技術やノウハウを蓄積してきた狙いも、まさにその実現にある。現在、IBMでは10年後の医療を見据えて、「スマーターヘルスケア」「スマートワーク」「クラウド」の3分野のソリューション拡充に力を入れている。
スマーターヘルスケアは、医療機関のデータ活用の促進に主眼に置くアプローチだ。具体的には、電子カルテでは実施が困難なデータ分析/マイニング環境を整備することで、診療の質や安全性の向上、経営支援などの実現を目指す(関連記事:医療分野のビッグデータ事例 「Hadoop」を採用した徳島大学病院)。
また、地域の医療機関や看護施設などを相互に結び付け、患者を中心とした医療サービスの提供を目指す取り組みがスマートワークである。地域医療連携はその目標の1つに位置付けられ、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)ツールなどを活用することでプロセス変革を支援する。
クラウド分野では、標準化されたIT基盤上で各種アプリケーションを提供する。クラウドを活用することで、サービス提供までの期間短縮とコスト削減が図られるという。3分野に共通するテーマは、データ管理と情報連携。他社との差別化を推進するために、同社は今後もデータ管理にこだわり続ける。
著者紹介
岡崎勝己(オカザキ カツミ)
広島県生まれ。成蹊大学経済学部経営学科卒業。通信業界向け専門誌、IT情報誌の編集者を経て独立。利用者の立場から見た“技術”の価値と限界をテーマに、ジャーナリストとして活動を展開。得意とするテーマはITと業務改革/イノベーション、ビジネスモデル/人材論など。最近では電子書籍の主要企業の動向を追う記事も連載。著書に『図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)』など。
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