対応端末の不足が普及を妨げるとの声も
スマートフォン仮想化は私物端末管理の特効薬となるか
1台のスマートフォンで複数の環境を切り替えて利用することができる「モバイル仮想化」。私物端末の管理に役立つという評価がある一方で、対応端末の少なさが普及のネックとなるという声もある。
モバイル仮想化は2008年以来、IT分野の次なる目玉とされてきた技術の1つだ。だがモバイル端末を仮想化して1台の端末で仕事用とプライベート用のプロファイルを別々に利用できるようにするという方法は、まだ業界観測筋が予想したような形で定着するには至っていない。
その理由として、3年前には企業はまだカナダResearch In MotionのBlackBerryに依存していたことが挙げられるかもしれない。当時、Android端末や米AppleのiPhoneは採用が始まったばかりだった。だが状況は変化し、今では企業の従業員は仕事にもプライベートにも消費者向け端末を使うようになっている。
私物端末を職場に持ち込み、業務で使用することを認める「BYOD」の考え方が広まりつつある中、ベンダー各社は2012年にはモバイル仮想化の採用が進むと期待している。
「IT部門に対し、モバイル端末を個別に管理するよう求めるのは理不尽だ。この問題を解決するためには、IT部門と端末とを切り離す必要がある」と、米VMwareのモバイル製品管理担当ディレクターであるフーファー・ラザビー氏は指摘する。
モバイル端末を管理している幾つかのIT部門に尋ねたところ、モバイル仮想化の導入に抵抗はないものの、まだ実際にテストしてみる機会には恵まれていないのだという。
「レスポンスの低下を招くものでない限り、モバイル仮想化はソリューションの1つとなるはずだ」と、マサチューセッツ州ボストンの復員軍人援護局で臨床工学技士を務めるスティーブン・ヒューズ氏は指摘する。
ベンダー各社によると、モバイル仮想化技術はいつでも企業に導入できる準備が整っているという。
モバイル仮想化のアプローチ
モバイル端末の仮想化に関して、米Citrix Systemsや米Red Bend、VMwareといったモバイル仮想化プラットフォームのベンダー各社は、それぞれ違いはあるものの似通ったアプローチを取っている。
3社ともクラウドベースのインタフェースを提供し、個人設定やアプリケーション、データを1台の端末上で切り替えて使用できるようにしている。個人用のプロファイルはモバイル端末内に保存され、仕事用など各種のプロファイルは仮想環境に保存される。
VMwareの管理ソリューション「Project Horizon」は、同社のモバイル向け仮想化プラットフォーム「Mobile Virtualization Platform(MVP)」をベースにしている(Project Horizonについては「VMwareのVDI/クラウド戦略に統合されるMozy」を参照)。MVPは既存OSでレイヤーとして動作する、タイプ2のハイパーバイザーだ。
現在、VMwareはモバイル端末にこのハイパーバイザーを組み込むべく、携帯端末メーカー各社と共同で作業を進めている。今のところMVPが対応しているのはAndroidだけだ。VMwareと韓国のLG Electronicsは先ごろ、VMwareのモバイル仮想化技術を搭載したAndroidスマートフォンを発表している。この端末は2012年上半期に発売される見通しだ。
CitrixやRed Bendも端末メーカー各社と協力して取り組みを進めている。両社ともプラットフォームはタイプ1、つまりベアメタル型のハイパーバイザーをベースにしており、仮想化技術は端末のハードウェアに統合される。この方法のメリットは、まずデバイスドライバを最適化して、次にOSを最適化し、複数のプロファイル構成を提供できる点だ。
またタイプ1のハイパーバイザーはタイプ2よりも高速であり、レイテンシが低い。「タイプ1のハイパーバイザーであれば、エンドユーザーはタイムラグを一切感じず、仮想環境が端末の一部のように感じられるだろう」とRed Bendのモバイル仮想化プラットフォーム「vLogix Mobile」担当製品マーケティングディレクター、ロジャー・オードマン氏は語っている。
モバイル仮想化の採用が進まない理由
たとえ技術が提供されていても、ソリューションが企業に採用されるとは限らない。米TechTargetが実施した「Global IT Priorities Survey」(IT優先度調査)では、「2012年はモバイル仮想化に優先的に取り組む」と回答した人は全体の9%にとどまった。
モバイル仮想化はまだ初期段階にあるため、この技術に対する関心度が低いのは当然のことだ。さらに、モバイル端末を仮想化するための各種のソリューションは基本的にAndroid端末にしか対応していない。
現在、VMwareのHorizonモバイルプラットフォームが対応しているのは、米VerizonやスペインのTelefonica向けにLG Electronicsと韓国のSamsung Electronicsが製造しているAndroid端末のみだ。Red BendのソリューションもAndroid端末に限定されており、Citrixのモバイル仮想化もハードウェアに制限がある。Citrixのモバイル仮想化技術は現在、Android搭載の「DROID 4」で提供されているが、それだけだ。ただし、同社の仮想化アプリケーション「Citrix Receiver」は全てのモバイルOSプラットフォームで利用できる(iPad向けのCitrix Receiverについては「iPadの無料ビジネスアプリ ベスト10」を参照)。
VMwareやRed Bend、Citrixによると、3社のモバイル仮想化技術はいずれも米Appleの製品をサポートしておらず、Appleと共同作業を進めているわけでもないという。AppleはiPhoneのソフトウェアとハードウェアの両方を厳しく管理しているため、恐らくApple製品に関してはベンダー各社が構想した形での仮想化は実現しそうにないと業界観測筋は指摘する。
AppleのiPhoneが含まれないのでは、モバイル仮想化が広く採用されることはないだろう──。大半のITプロフェッショナルはそう感じているようだ。
モバイル仮想化の導入事例
BYODの普及に伴う問題点の1つに、会社に持ち込まれる多様な端末をどのように管理するかというものがある。モバイル仮想化はIT部門にとって、仮想デスクトップとモバイル端末をよりシンプルに管理するための方法となる可能性もある。だが現実には、モバイル仮想化技術で管理の手間を解消できるのはごく一部の端末だけだ。そのため、恐らくIT部門はモバイル仮想化を導入しないと予想される。
米モバイル端末管理プロバイダーのFiberlinkで製品マーケティングディレクターを務めるジョナサン・デール氏によると、モバイル仮想化ソリューションは今後発展する可能性はあるが、ニッチな技術で終わるかもしれないという。
「モバイル仮想化がどう進化していくかについて判断するのは時期尚早だ。製品はまだ十分に市場に出回っておらず、導入事例も豊富ではないからだ」と同氏は語る。
IT部門が望んでいるのは、社内の全てのスマートフォンやタブレットのセキュリティ設定や管理ができるシングルソリューションの実装だ。多くのIT管理者は既に提供されているソリューションに不満なわけではないという。
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