米国人は「iPad 3」と呼び続ける?
「iPad 3」か「新しいiPad」か──Appleのブランド戦略の真意とは?
物議を醸した新iPadの名称。バージョン表記を排したAppleには、他社タブレットとiPadを差別化するブランド戦略があった。一方、米国の消費者はAppleの意図など気にせず、「iPad 3」と呼んでいるようだ。
タブレット市場を席巻している米Appleの「iPad」は、タブレットの概念そのものを表す代名詞となれたかもしれない。ネーミングさえ紛らわしくなければ。
iPad関連の近況について分析した2件のリポートからは、そんなことが伺える。米IDCによると、2011年第3四半期の時点で、iPadはタブレット市場で54.7%のシェアを占めている。そしてシェアは明らかにiPadの方が多いものの、AmazonのKindle Fireを筆頭に、Androidタブレットの猛追が始まっている。
iPodに続き市場を支配できるか?
では、AppleはiPodと同様にタブレット市場も支配できるのだろうか?
「その可能性はあるが、iPodがMP3プレーヤーの概念を支配している(MP3プレーヤーの代名詞になった)ように、iPadがタブレットの概念を支配することはないだろう。Appleが売っているのはブランドで、スペックではない」と、あるブランディングのプロは指摘する。不評ながらも「新しいiPad」という“iPad”の称号を冠した名称が使われているのはそのためだ。
米広報/マーケティングサービスプロバイダーTanis Communicationsのニッキー・タニス社長は「Appleは、Appleブランドを別格の存在にすることを望んでいる。ブランド戦略という意味では、同社はAppleブランドを強力にアピールしていて、現在はそのサブブランドの確立を図っている。Appleのタブレット製品は、タブレット用のサブブランドの下で展開されるだろう」と話す。
確かに、大方の予想を裏切り、最新のiPadが「iPad 3」ではないことに面食らい、ややフラストレーションを感じている業界の識者は少なくない。iPadの最新版は、単に「iPad」または「新しいiPad」として売り出されているのだ。
実のところ、バージョンを示す要素が製品名に含まれていないことを消費者は気にしていないようだ。Google Insights for Searchの解析によると、米国では「新しいiPad」がリリースされてから1カ月たった時点でも、正式名称(「the new iPad」)ではなく「iPad 3」が検索に使われる頻度の方がはるかに高い。過去30日間で「iPad 3」の検索回数は「新しいiPad」の2倍も多く、3月にこの新しいiPadがリリースされて以来、この差は解消されていない。
米国のメディアは、リリース当日まで最新版を「iPad 3」と表記していた。現在は初代のiPadと区別するためだろう、「新しいiPad」という表記が記事内で日常的に使用されている。
Macのブランド戦略を踏襲
しかし、タニス氏によると、iPadにはMac製品ラインをほうふつさせる戦略を採用していると言う。Macの場合、かつてはMac II、Mac IIx、Mac IIci、Performa、LC、Centrisなど、年やモデル番号、その他さまざまな要素が製品名に盛り込まれていた。だが、現在は単に「iMac」と呼ばれ、画面サイズだけでモデルの違いを表している。メモリやCPUのスペックさえウリにしない。これは、スティーブ・ジョブズ氏がこだわりぬいた「シンプルであること」に即したアプローチだ。
「以前のMacラインのブランド戦略を考えると、Appleは新しいラインやモデルを設けることをやめ、新しい機能を追加してiMacを更新する方式に切り替えている。Appleは、消費者とのつながりを築きながら、“iMacとは何か”を決定している。消費者は、購入する時点で欲しいバージョンを決める」(タニス氏)
iPadは既に、同じ名前で多数のバージョンを展開するスタイルになっている。iPadという名前は変わらないが、ストレージ容量、色、4G構成の違いから、18通りのバージョンが存在する。タニス氏は「Appleは、バージョンごとに特定のモデルを用意するのではなく、消費者を特定のブランドにエンゲージさせ、消費者に購入時点で欲しい構成を選ばせるようにしている」と説明する。
iPadはタブレットの代名詞ではない
AP通信は最近、「iPad」がゼロックスやバンドエイドと同じ地位を確立しつつあるとする記事を発表した。ゼロックスやバンドエイドは、それぞれ特定の分野の1製品にすぎず、同じ市場に競合製品も存在するが、その分野の製品全体を表す語として一般に使用されている。
Googleなども、代名詞になった企業の1つだ。何かを検索する場合、Googleを動詞として使い、「ググる(Google it)」などと言う。市場にはYahoo!やBingなどの検索エンジンもあるが、「ヤフる(Yahoo it)」や「ビングる(Bing it)」などとは言わない。
しかしタニス氏は、iPadが晴れてタブレットの代名詞となることができるか、またAppleがそれを望んでいるかについては疑問視し、その根拠として次のように説明する。
「(iPadは)AppleブランドやAppleの製品やサービスと密接なつながりがあるため、Apple以外のタブレットもiPadと同様のエクスペリエンスを提供するようになるとは誰も思わないだろう。(代名詞になった)バンドエイドは差別化されたエクスペリエンスを表すものではない。一方、iPadの場合は、エクスペリエンスが必ず差別化されており、Appleブランドらしさがある。従って、Amazon.comにAmazon iPadを買いに行くようなことは起きないだろう」
Appleにコメントを求めたが、返答はなかった。
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